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そもそも新型コロナウイルスとは?

現在 、各国で流行している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、SARS-CoV-2(SARSコロナウイルス2)が原因となっており、ヒトへの感染が確認されているコロナウイルスでは7種類目にあたります*1
7種類あるコロナウイルスのうち4種類は、通常ヒトの間で流行する風邪の10~15%の原因ウイルスであり*1、 残りの3種類は、4種類のコロナウイルスと比較して病原性が高く、深刻な症状(重症肺炎など)の原因と言われています*1。 2002年に中国を起点に流行した重症急性呼吸器症候群 (SARS) の原因として見つかったSARSコロナウイルスは、野生動物からヒトに感染して重症の肺炎を起こし、死亡率は約10%です*1。 2012年にイギリスで中東渡航歴のある肺炎患者から見つかった中東呼吸器症候群(MERS)のMERSコロナウイルスはヒトコブラクダからヒトに感染して重症の肺炎を起こし、死亡率は34%です*1。 一方、今回のSARSコロナウイルス2の感染源は特定できていませんが、同様に野生動物からヒトへ感染する可能性などが考えられます*2。 この重症肺炎を起こすSARSコロナウイルス2の感染者での死亡率は、約5%*3であり、SARSコロナウイルスやMERSコロナウイルスよりは低いと試算されています。

ヒトに感染するコロナウイルスの特徴

ウイルス名 HCoV-229E, HCoV-OC43, HCoV-NL63, HCoV-HKU1 SARS-CoV MERS-CoV SARS-CoV2
病名 風邪 SARS
(重症急性呼吸器症候群)
MERS
(中東呼吸器症候群)
新型コロナウイルス感染症
(COVID-19)
発生年 毎年 2002年~2003年(終息) 2012年~ 2019年12月~
発生地域 世界中で人類に蔓延 中国広東省 アラビア半島とその周辺地域、中東以外の国では輸入例の報告あり(韓国、イギリスなど) 世界中に拡大
宿主動物 ヒト キクガシラコウモリ ヒトコブラクダ 不明
死亡者数/
感染者数
不明/70億 774/8098 858/2494
(2019年11月30日時点)
53万人/1100万人超
(2020年7月7日時点)*4
致死率 極めてまれ 9.4% 34.4% 5%*3
感染者
の年齢
多くは6歳以下、
全年齢に感染する
中央値40歳
(子どもにはほとんど感染しない)
中央値52歳
(子どもにはほとんど感染しない)
全年齢への感染が報告されているが、10代以下の感染者数は少なく30~60代が約8割 *5
主な症状 鼻炎、上気道炎、下痢 高熱、肺炎、下痢 高熱、肺炎、腎炎、下痢 発熱、肺炎、倦怠感、味覚障害など*6
重症者
の特徴
通常は重症化しない 糖尿病などの慢性疾患、高齢者 糖尿病などの慢性疾患、高齢者、入院患者 糖尿病などの慢性疾患、高齢者*5
感染経路 咳などの飛沫、接触 咳などの飛沫、接触、便 咳などの飛沫、接触 咳などの飛沫、接触*7
ヒトー
ヒト感染
1人→多数 1人→1人以下
スーパースプレッダーにより、多数へ感染拡大が見られた
1人→1人以下
スーパースプレッダーにより、多数へ感染拡大することがある
1人→1.4~6.6人*8*9
潜伏期間 2~4日(HCoV-229E) 2~10日 2~14日 1~12.5日*10
コロナウイルスとは(国立感染症研究所)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/9303-coronavirus.html
をもとにオンコロ編集部が作成

コロナウイルスの感染経路は?

これらのコロナウイルスの感染経路は、咳やくしゃみなどで飛び散ったウイルスを含む唾など(飛沫)を吸い込む「飛沫感染」、感染者から発生したウイルスが付着したものを手で触り、その手で口や鼻を触るなどをして体内にウイルスが入り込んで感染する「接触感染」の2つとされています*7。 飛沫感染に関しては閉鎖した空間で、近距離で会話した場合、咳やくしゃみなどの症状がなくても感染を拡大させるリスクがあるとされています*7

コロナウイルスの感染経路

コロナウイルスの感染経路

風邪やインフルエンザとは何が違うの?

感染から症状が出るまでの期間(潜伏期間)は1~12.5日*10(平均5.2日*11)と言われています。主な症状としては発熱、乾いた咳、倦怠感、痰、息切れといったもので、症状だけを見れば、一般の風邪や季節性インフルエンザと区別がつきにくくなっています。また、下痢などの消化器症状を訴えるケースもありますが、これは比較的少ないとされています*12。 さらに、ヨーロッパからの報告では、感染者の3人に1人は味や臭いに鈍感になる味覚障害・嗅覚障害が発生する*13と言われているのが、風邪や季節性インフルエンザ*14と異なる点です。
これまでの報告では、感染者の約80%は無症状や軽症のまま1週間程度で治ってしまいますが、残る約20%は肺炎の症状が悪化して入院し、さらにその一部では集中治療室(ICU)での人工呼吸管理が必要になります*15
他にも季節性インフルエンザと比べて、新型コロナウイルスでは異なる点がいくつかあります。まず、1人の感染者が何人に感染を広げるか(基本再生産数)については、季節性インフルエンザは2~3人*16と言われていますが、新型コロナウイルス感染症では1.4~6.6人*8*9となっています。まだ実態がつかみ切れていないため幅がありますが、季節性インフルエンザよりは他人に感染させやすい傾向があるようです。また、ウイルスが他人への感染力を最も持っている時期が、季節性インフルエンザは発症直後ですが、新型コロナウイルス感染症では発症する2~3日前から発症後1日ごろと言われています*17
つまりほとんど症状がない、あるいはちょっと風邪気味かなと思う程度の症状の人がインフルエンザ以上に周囲に感染させてしまう危険性があるということです。

新型コロナウイルス感染症で死亡リスクが高い因子は?

新型コロナウイルス感染症では、他の感染症と同じように高齢者や持病のある人が感染した場合に死亡リスクが高いことが報告されています。中国の国立疾病予防管理センター(中国名:中国疾病預防控制中心、略称・中国CDC)が発表した新型コロナウイルス感染症患者4万4672人の解析データによると、40歳代までの致死率は最大でも0.4%ですが、50歳代1.3%、60歳代3.6%、70歳代8.0%、80歳代以上では14.8%と右肩上がりに上昇します*5
また、持病の無い人の致死率は0.9%ですが、心血管疾患(脳梗塞、狭心症、心筋梗塞など)患者10.5%、糖尿病患者7.3%、慢性呼吸器疾患(ぜんそく、慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患など)患者6.3%、高血圧患者6.0%、がん患者では5.6%などとなっています*5

新型コロナウイルス感染症の国内発生動向確定週別人数(令和2年9月16日18時時点)

新型コロナウイルス感染症の国内発生動向確定週別人数(令和2年9月16日18時時点)
新型コロナウイルス感染症の国内発生動向(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000673422.pdf
をもとにオンコロ編集部が作成

新型コロナウイルスががんの診療に与える影響

前述のように中国の国立疾病予防管理センター(中国名:中国疾病預防控制中心、略称・中国CDC)が発表した新型コロナウイルス感染症患者4万4672人の解析データでは、持病の無い人の致死率は0.9%ですが、がん患者では5.6%と高めになっています*5
そもそもがん患者さんは一般の人と比べ、新型コロナウイルスに感染しやすい可能性があります*18。 それは、がん治療においては薬物療法などの免疫を低下させる治療方法を用いることがあるためです*18。 また、手術に関しては手術後1カ月以内に新型コロナウイルス感染症に罹ると重症化しやすいという報告があります*19 が、放射線療法に関しては局所での照射治療では、抗がん剤治療のように白血球の数が減少して免疫が低下するという科学的な根拠は現時点ではありません*20
治療に関しては、薬物療法や放射線療法はそれぞれ科学的根拠に基づくスケジュールで治療が行われているため、自己判断で通院や内服を止めることは、新型コロナウイルスへの感染とそれに伴う症状の重症化のリスク以上に、がんの進行というより深刻なリスクにさらされる可能性があります。必ず主治医と十分な相談を行ったうえで、どのような治療を行っていくか、決めるようにしてください。

検査や治療方針に与える影響は?

新型コロナウイルス感染症の主な感染経路は「接触感染」、「飛沫感染」です*7。 胃や大腸の中を調べる内視鏡検査では、経口・経鼻で行う際に咳を誘発し医療従事者への飛沫感染が危惧されています。また大腸カメラなどは糞便からのウイルス排出の可能性も指摘されています*21。 そのため、緊急性の高いケース*22などを除き、検査の実施が控えられる場合があります*23。 一方で緊急事態宣言解除に伴い、患者にPCR検査を行い陰性と判断された場合など、新型コロナウイルスに罹っている可能性が低い方に対して、医療機関側が新型コロナウイルス陽性の可能性も念頭において、確実な感染防護策をとった上で各施設の判断で内視鏡検査が行われることもあります。
また、一部の手術など医療従事者への感染の危険性が高い治療は、医療者が感染して院内感染を広げる恐れがあるので、内視鏡と同様に手術の実施が控えられる場合もあります*24。 このため手術を延期したり、手術と他の治療方法との成績がほぼ同じ場合には他の治療への変更を勧めたりする場合もあります。
進行性のがんは手術の緊急性が高い場合も多く、その際は手術が予定通り行われることもあります。しかし、進行性ではない多くのがんの場合は、手術後でコロナウイルスに感染した場合に、症状が悪化して致死的になる危険性を考慮し、治療を延期する方が好ましいと考えられる場合もあります。そのため、早期がんの場合は治療を延期する場合が多いと考えられますが、必要以上に不安に感じる必要はありません。主治医は、がんの種類や患者の体力、治療の目的や状況などにより、治療と感染のリスクを考慮して判断しています。
また、薬物療法を続けている場合でも、通院間隔の延長や通常なら慎重を期すために入院で行っていた薬物治療を外来で行う場合もあります。これらの場合は主治医や看護師から理由などの説明が行われていると思われますが、分からないことや不安なことがある場合は遠慮せずに医療者に質問しましょう。

参照
  • *1 コロナウイルスとは(国立感染症研究所)
    (https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/9303-coronavirus.html)
  • *2 東京都感染症情報センター 新型コロナウイルス感染症Q&A Q3
  • *3 World Health Organization WHO Coronavirus Disease (COVID-19) Dashboard
    (https://covid19.who.int/table)
    令和2年7月7日時点のデータより試算
  • *4 World Health Organization WHO Coronavirus Disease (COVID-19) Dashboard
    (https://covid19.who.int/table)
    令和2年7月7日時点のデータ
  • *5 Vital Surveillances: The Epidemiological Characteristics of an Outbreak of 2019 Novel Coronavirus Diseases (COVID-19) -China, 2020 / Zijian Feng et al. China CDC Weekly. 2020,2(8):113-122
  • *6 World Health Organizarion Coronavirus
    (https://www.who.int/health-topics/coronavirus#tab=tab_3)
  • *7 新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)2.問2(厚生労働省)
    (https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q2-2)
  • *8 Pattern of early human-to-human transmission of Wuhan 2019 novel coronavirus (2019-nCoV), December 2019 to January 2020 /Julien Riou et al. Euro Surveill. 2020 Jan;25(4):2000058.
  • *9 The Novel Coronavirus, 2019-nCoV, is Highly Contagious and More Infectious Than Initially Estimated / Steven Sanche et al. medRxiv.doi:10.1101/2020.02.07.20021154
  • *10 新型コロナウイルスを防ぐには(厚生労働省)
    (https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000596861.pdf)
  • *11 Early Transmission Dynamics in Wuhan, China, of Novel Coronavirus‒Infected Pneumonia /Qun Li et al. N
    Engl J Med. 2020 Mar 26;382(13):1199-1207.
  • *12 Digestive Symptoms in COVID-19 Patients With Mild Disease Severity /Chaoqun Han et al. Am J Gastroenterol. 2020 Jun;115(6):916-923.
  • *13 COVID-19 Anosmia Reporting Tool: Initial Findings /Rachel Kaye et al. Otolaryngol Head Neck Surg. 2020 Jul;163(1):132-134.
  • *14 World Health Organizarion Influenza(Seasonal)
    (https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/influenza-(seasonal))
  • *15 Characteristics of and Important Lessons From the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Outbreak in China/Zunyou Wu et al. JAMA. 2020 Apr 7;323(13):1239-1242.
  • *16 A preliminary estimation of the reproduction ratio for new influenza A(H1N1) from the outbreak in Mexico, March-April 2009 /Euro Surveill. 2009 May 14;14(19):19205.
  • *17 Temporal dynamics in viral shedding and transmissibility of COVID-19 /Xi He et al. Nat Med.2020 May;26(5):672-675.
  • *18 日本癌治療学会,日本癌学会,日本臨床腫瘍学会(3学会合同作成)がん診療と新型コロナウイルス感染症:がん患者さん向けQ&A-改訂第2版- 1.1)
  • *19 日本癌治療学会,日本癌学会,日本臨床腫瘍学会(3学会合同作成)がん診療と新型コロナウイルス感染症:がん患者さん向けQ&A-改訂第2版- 5.手術など外科的治療について,1)
  • *20 日本癌治療学会,日本癌学会,日本臨床腫瘍学会(3学会合同作成)がん診療と新型コロナウイルス感染症:がん患者さん向けQ&A-改訂第2版- 5.放射線治療について,1)
  • *21 日本消化器内視鏡学会 新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A 6.CQ19
  • *22 日本消化器内視鏡学会 新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A 1.CQ4
  • *23 日本消化器内視鏡学会 新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A 1.CQ3
  • *24 日本癌治療学会,日本癌学会,日本臨床腫瘍学会(3学会合同作成)がん診療と新型コロナウイルス感染症:医療従事者向けQ&A-改訂第2版- 4.1)

(9月19日確認)近畿大学医学部 腫瘍内科部門臨床腫瘍内科 中川 和彦

※この情報は令和2年9月19日時点のものです。

監修:
近畿大学医学部 内科学腫瘍内科部門 主任教授
中川 和彦 先生