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がん悪液質は食欲低下と体重減少を引き起こす合併症
さまざまな機能障害と代謝異常を伴う「がん悪液質」
ダイエットをしているわけでもないのに体重が減少し、筋肉量が減る、食欲も出ないなどの症状が出て、さまざまな機能障害と代謝異常を伴うのが、がん悪液質です。国際的には「通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る、骨格筋量の持続的な減少を特徴とする多因子性の症候群」と定義されます。
欧州緩和ケア研究コラボレイティブ(EPCRC)によるがん悪液質の定義(2011年)
通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る、
骨格筋量の持続的な減少(脂肪量減少の有無を問わない)を特徴とする多因子性の症候群
Fearon K, et al. Lancet Oncol. 2011; 12(5): 489-495. を参考に作成
悪液質(英語でCACHEXIA:カヘキシア)の語源はギリシャ語で、「悪い状態」を表します。悪液質は心臓病や腎臓病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などでも起こることがありますが、がんが原因のものを「がん悪液質」と呼びます。
がん悪液質は、進行がんの患者さんの約5~8割にみられます*。特に、すい臓がん、胃がん、食道がん、頭頸部がん、肺がんで起こりやすく、これらのがんでは、進行がんの患者さんの半数以上に診断時及び経過中にがん悪液質が起こっています。がんの種類によって発症リスクは異なり、乳がん、前立腺がんなどでは病気がかなり進行するまで起こりにくい傾向があります**。
がん悪液質では体重減少、食欲不振、疲労やだるさ、サルコペニア(筋肉量の減少や筋力の低下)といった症状が生じる可能性があります(表)。
- *Argilés JM, et al. Nat Rev Cancer. 2014; 14(11): 754-762.
-
**Baracos VE, et al. Nat Rev Dis Primers. 2018; 4: 17105.
MS Anker, et al. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2019 Feb; 10(1): 22–34.
がん種別の悪液質または体重減少の発症率
■肺がん
進行肺がん症例において、5%以上の体重減少が、薬物治療開始から 12週以内に24.8%の頻度で認められました。
治療開始からの期間 | 頻度 |
---|---|
4~12週 | 24.8% |
16~24週 | 28.0% |
28~36週 | 26.3% |
40~52週 | 28.8% |
- Takayama K, et al. Support Care Cancer. 2016; 24(8): 3473-3480.
- 〔利益相反〕 本研究は小野薬品工業の支援により実施された。
■胃がん
進行胃がん症例において、体重減少※の累積発症率が、薬物治療開始から12週時点で53.4%、48週時点87.7%、期間全体で96.1%に達しました。
※6ヵ月以内の5%超の体重減少、またはBMI20未満かつ2%超の体重減少
■膵がん
進行膵がん症例において、薬物治療開始後に発症したがん悪液質※の累積発症率が、治療開始から12週時点で32.0%、24週時点で45.3%、48週時点で64.0%、期間全体で71.3%に達しました。
※5%超の体重減少、またはBMI20未満かつ2%超の体重減少
■大腸がん
進行大腸がん症例において、がん悪液質※の累積発症率が、薬物治療開始から12週時点で42.7%、24週時点で50.7%、48週時点で65.3%、期間全体で91.3%に達しました。
※過去6ヵ月間の5%超の体重減少、またはBMI20未満かつ2%超の体重減少
がん悪液質の症状
- がん悪液質であらわれる症状
-
- 体重減少
- 食欲不振
- 疲労・だるさ
- サルコペニア
↑がん悪液質の症状をさらに悪化させる
- 食事の摂取や栄養状態に影響を与える症状や治療
-
- 食道や胃、腸の全摘・一部摘出
- 手術後や放射線療法後の腸閉塞
- 吐き気・嘔吐
- 口内炎
- 味覚や嗅覚の変化
- 便秘
- 呼吸困難
- 痛み
- 疲労・だるさ
- うつ・不安
「がん悪液質ハンドブック」「がん悪液質:機序と治療の進歩」日本がんサポーティブケア学会 を参考に作成
また、手術や放射線療法、抗がん剤などの治療によるストレス、抗がん剤や放射線療法の副作用である口内炎や吐き気・嘔吐、味覚障害、嗅覚障害、あるいは、うつ状態や体の痛みなどが体重減少や食欲不振の原因になり、悪液質を進行させることがあります。
体重が急激に減って衰弱すると積極的な治療を受けられなくなったり、肺炎などの合併症を生じやすくなることがあり、予後に影響する可能性があります。
さらに、やせた外見を見られたくない、以前のように食べられなくなったことを知られたくないという気持ちから外出や外食、会食、知人と会うのを避けるなど、社会的な孤立につながることもあります。悪液質はできるだけ早い段階で治療に取り組むことが重要なのです。
体重減少は予後に影響する(米国臨床腫瘍学会による、体重減少の程度と予後との関連)
Martin L, et al. J Clin Oncol. 2015; 33(1): 90-99. を参考に作成
*Fearon KC. Eur J Cancer. 2008; 44(8): 1124-1132. Teunissen SC, et al. J Pain Symptom Manage. 2007; 34(1): 94-104. を参考
代謝異常ががん悪液質の主な原因
悪液質で体重が減るのは、がんによって脂肪の分解が促進され、また筋肉の合成が減り、分解が進むからです。脂肪にはエネルギーをため込む白色脂肪細胞と、すぐに燃焼させる褐色脂肪細胞があり、白色脂肪細胞が褐色化すると燃焼しやすくなります。悪液質になると脂肪の分解が進み、さらに白色脂肪の褐色化も進んで脂肪が減り、燃やしてはいけない筋肉まで分解してしまいます。がんがあることで慢性的に炎症が起こり、体を守る免疫反応として炎症性サイトカインが活性化することによって、このような代謝異常が起こるのです。また、がん細胞からも筋肉の分解、脂肪の分解と褐色化を促進させる物質が分泌され、代謝異常が加速します。
さらに、炎症性サイトカインや脂肪細胞から脳の視床下部へ食欲を抑えるように指令を出す物質が分泌され、食欲も低下します。
さまざまな要因が関連する、がん悪液質のメカニズム
「がん悪液質ハンドブック」日本がんサポーティブケア学会 を参考に作成
- 監修:
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- 京都府立医科大学大学院医学研究科 呼吸器内科学
教授 髙山浩一先生
- 京都府立医科大学大学院医学研究科 呼吸器内科学