栄養補助食品も活用し、必要な栄養を摂る工夫を

がん悪液質に対しては栄養療法、運動療法、薬物療法などを組み合わせた集学的な治療を行います。ただ、現時点では前悪液質、悪液質に対して科学的に効果が証明されている標準治療がないのが実情です。悪液質に対する集学的な治療の確立を目指す臨床試験が国内で進行中です

*Miura S, et al. BMC Cancer. 2019; 19(1): 528.

食欲不振、吐き気対策には少量ずつの摂取を

原則として前悪液質や悪液質と診断されても特別な食事に変える必要はなく、病気になる前と同じでかまいません。野菜や野菜ジュースしか摂らないなど偏った食事は避け、タンパク質、炭水化物、脂質をバランスよく摂取するようにしてください。
食欲がないときの栄養の摂り方は、担当医や管理栄養士、看護師、あるいは栄養サポートチーム(NST)に相談しましょう。
個人差はありますが、食欲が落ちているときには、酸味があるもの、味が濃いもの、冷たいものが食べやすいようです。食事を小分けにしてもよいので、食べたいときに食べられそうなものを口にしてみましょう。栄養バランスのよい食事が理想ですが、アイスクリームやチョコレート、クラッシュタイプのゼリー、プリンなどでエネルギーを補うだけでもいいのです。
栄養補助食品も活用し、必要な栄養素をできるだけ口から摂るようにしましょう。
抗がん剤や放射線療法などの副作用で食事ができなくなっているときには、担当医や看護師、薬剤師などに遠慮なく相談してください。

治療の前後の工夫で口内炎に対応を

手術や抗がん剤治療の前には歯科で口腔ケアを受けます。抗がん剤や造血幹細胞移植、頭頸部がんの放射線療法など重度の口内炎になりやすい治療を受ける際には、生理食塩水[水500ml+塩4.5g(小さじ1弱)]、抗炎症剤や痛み止めの入ったうがい薬などを口に含んで、こまめに「クチュクチュうがい」をし、口腔内の乾燥を防ぎます。食事は熱いもの、硬いもの、酸味の強いもの、香辛料は避けましょう。とろみをつけたり、ゼリー寄せにしたり、ミキサーで流動食にしたりすると食べやすくなります。殺菌作用のあるうがい薬は口内炎が悪化することがあるので控えましょう。

*「JASCCがん支持医療ガイド翻訳シリーズ 口腔ケアガイダンス 第1版 日本語版」日本がんサポーティブケア学会粘膜炎部会編 を参考

味覚や嗅覚の変化にも対策があります

抗がん剤や放射線療法などの副作用で味を感じにくくなったときには酢の物、梅肉あえ、カレー味、辛しあえ、しょうが焼きなどアクセントのある料理を試してみましょう。塩味を苦く感じるときには塩を控えめにし、だしやスープの味を生かしたり、ごま、ゆず、酢を利用したりすると食べやすくなります。何でも甘く感じるときには、砂糖やみりんは控えます。いずれの場合も、まずいと思うものは避けましょう。味覚や嗅覚に変化が出ているときには、料理を少し冷ましてから食べるとよいでしょう。

無理に食べないほうがよい時期も

不応性悪液質に進行した場合には、無理に栄養を摂取しても体に取り込めなくなります。栄養バランスは気にせず、好きなものを好きなときに食べましょう。家族や周囲の人は、食事を強く勧めないようにしてください。前悪液質、悪液質の時期と同様、医師に飲酒を止められている人以外はお酒を飲んでもかまいません。
この段階での静脈栄養や高カロリー輸液の投与は、むくみ、胸水や腹水の悪化、電解質異常などを引き起こすため控えるほうがよいとされています。患者さん本人も家族も気持ちや体のつらさがある場合には、我慢せずに担当医や看護師に伝えましょう。

*日本緩和医療学会 終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン(2013年版)P47

監修:
  • 京都府立医科大学大学院医学研究科 呼吸器内科学
    教授 髙山浩一先生