運動療法で活動量と筋肉量の維持を目指します

悪液質の予防・治療に運動が役立つ

栄養療法と並行して重要なのが運動療法です。がんの患者さんや家族の中には、「病気だから安静にしなければ」と考える人がいますが、むしろ治療前や治療中に積極的に体を動かすほうが手術、放射線療法の合併症や後遺症、抗がん剤治療の副作用を軽減できる可能性が高いことがわかってきています。運動は倦怠感の軽減など生活の質の向上にもつながります。ただし、運動をしてもよいかどうかは担当医に必ず相談してください。運動の内容や量はリハビリ医や理学療法士の指導を受けるとよいでしょう。
悪液質の予防や治療のための運動療法では、基本的に有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせます。有酸素運動はウォーキング、自転車こぎ、水泳、ランニングなど体に一定の負荷をかけ、ある程度の時間継続して行う運動で、活動量の維持や倦怠感の軽減に役立ちます。
有酸素運動で最も手軽なのはウォーキングです。歩数計やスマートフォンのアプリなどで歩数を測定し、1日4000歩以上、可能なら6000~8000歩程度は歩くようにしましょう。

*Piraux E. et al. SAGE Open Med. 2020.
L W Jones. et al.J Clin Oncol. 2016 Aug 10;34(23):2743-9.
綾部 仁士ほか 理学療法学,第36巻,第1号,24〜28P,2009.

◇筋肉量維持のための筋力トレーニング

筋肉量の維持、日常生活動作(ADL)の維持・向上のためには、筋力トレーニングも必要です。特に足の筋肉に負荷をかける下肢の筋力トレーニングは、歩行の維持、転倒・骨折の予防効果が期待できます。下記の5種類の下肢の筋力トレーニングを各10回を1セットとして、毎日3セット続けてみましょう。続けて3セットがきつい場合には1日の中で3セットを分けてもかまいません。手すりや壁、机などつかまるものがある場所で行い、転倒に注意します。
体調が悪いときには、各10回を1~2セットに減らして筋力トレーニングを継続します。それもきつくて継続が難しい場合には、5種類の筋力トレーニングを3種類に、あるいは筋力トレーニングの実施を2~3日に1回に減らしてみましょう。体調が回復したら、毎日各10回を3セットに戻します。

◇不応性悪液質の運動療法

全身状態が悪化して歩行が困難になり、がんの治療が難しくなった段階では、無理に運動すると、動けなくなったり、だるさが増したりすることがあるので注意しましょう。体のむくみやつらさ、呼吸困難などを解消するためにはどのようにしたらよいか、緩和ケア医やリハビリ医、理学療法士、作業療法士に相談するとよいでしょう。自宅で療養をしている人の場合には、在宅リハビリを受ける方法もあります。

下肢の筋力トレーニング

基本は、各10回を1セットとして3セット連続して行う。体調が悪いときには、1日の中で3セットを分けて実施するか、1~2セットに減らす。

骨髄腫の人、骨転移のある人などは、運動すると危険な場合があります。自宅で下肢の筋力トレーニングなどを始める前に、運動をしてよいかどうかを必ず担当医に確認してください。

椅子から立ち上がる

椅子から立ち上がる

  • 椅子に座って腕を組む。
  • 腕を組んだままゆっくり立ち上がる。これを10回繰り返す。

ふらふらする場合には腕を組まず、両手で体を支えてもよい。

座って膝関節を曲げ伸ばしする

座って膝関節を曲げ伸ばしする

  • 背筋を伸ばして椅子に座る。
  • 右足をゆっくり上げ、膝を伸ばす。これを10回繰り返す。
  • 同じように左足を上げ、10回繰り返す。

膝を伸ばすときには上半身が後ろに傾いたり、太ももが上がったりしないように注意する。

立ってかかとを上げる

立ってかかとを上げる

  • 椅子につかまって立つ。
  • ゆっくりとかかとを上げ、ゆっくり下げる。これを10回繰り返す。

座って膝からももを上げる

座って膝からももを上げる

  • 背筋を伸ばして椅子に座り、腕を組む。
  • そのまま右足をゆっくり上げ、ゆっくり床に戻す。これを10回繰り返す。
  • ③同じように左足を上げ、10回繰り返す。

膝を上げるときには上半身が後ろに傾かないように注意する。

立って足を横に上げる

立って足を横に上げる

  • 椅子を右手で押さえてまっすぐ立つ。
  • そのまま左足をゆっくり横に上げる。つま先は前に向ける。これを10回繰り返す。
  • 椅子を左手で押さえてまっすぐ立ち、右足をゆっくり横に上げる。これを10回繰り返す。

上半身が傾かないように注意する。

Miura et al. BMC Cancer 2019; 19: 528 を参考に作成

監修:
  • 京都府立医科大学大学院医学研究科 呼吸器内科学
    教授 髙山浩一先生