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vol.4 家事も大切な身体活動です
日常生活動作も運動になる?
身体活動は「運動」と「生活活動」の2つに分けられます。前者は「体力の維持・向上を目的として計画的・意図的に実施し、継続性のある身体活動」であり、後者は「日常生活における労働や家事、通勤・通学における身体活動」を指しますが、どちらも身体を動かすことであり、身体にかかる負荷に強弱はあるものの、安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費する全ての動作が含まれます1,2)。つまり、ジムに通ったり、時間をつくって運動するだけでなく、日常生活動作(ADL)の中で身体を動かしていくことが大切であると考えられているのです。欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)ガイドラインでも、有酸素運動や負荷をかけたトレーニングだけでなく、日常的な身支度や家事、買い物などの用事で外出することも身体活動に含まれると述べています3)。
健康づくりのための身体活動基準
厚生労働省は21世紀における国民の健康づくり運動として健康日本21《第2次》を2013年4月からスタートさせ、2023年までの身体活動・運動分野の目標を定めています。これらの目標を達成するためのツールとして厚生労働省健康局より発表された「健康づくりのための身体活動基準2013」2,4)によると、18〜64歳の健康成人が達成することが望ましい身体活動の基準は、3メッツ程度の活動を1週間に23メッツ・時、65歳以上では活動の強さを問わず、週に10メッツ・時と設定されています。これらの基準は、複数の質の高い臨床研究から得られたデータを統合し、身体活動量と死亡、生活習慣病、がん、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)・認知症の発症のリスク低減および生活機能低下のリスク低減との関係について解析した結果に基づき設定されたものです。活動の具体的な程度および時間と共に下表にまとめます。
身体活動(生活活動・運動)の実施基準 | 運動の実施基準 | |
---|---|---|
18~64歳 |
強度3メッツ以上の身体活動を23メッツ・時/週 ⇒ 歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を毎日60分以上行う、歩数で約8,000~10,000歩/日 |
強度3メッツ以上の運動を4メッツ・時/週 ⇒ 息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分行う。 |
65歳以上 |
強度を問わず、10メッツ・時/週 横になったままや座ったままにならなければどんな動きでもよいので、身体活動を毎日40分行う。 |
- 厚生労働省健康局がん対策・健康増進課 報道発表資料「健康づくりのための身体活動基準2013」より作表
- https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple-att/2r9852000002xpqt.pdf 2023年2月8日閲覧
メッツ(METs)とは身体活動の強度の単位で、安静時の何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を表したものです。座って安静にしている状態が1メッツ、普通歩行が3メッツに相当します。
メッツについてはシリーズvol.2の参考情報でも紹介しています。
参照:
データからみるがんと運動 vol.2「がんサバイバーよ、椅子から立ち上がろう!」
一方、活動の強さを表すメッツに実際の活動時間を掛けたメッツ・時は身体活動の量を示す単位で、エクササイズ(Ex)と呼ばれます。メッツ×身体活動時間=エクササイズ
より強い身体活動ほど短い時間で1エクササイズとなります。
3メッツの身体活動(普通歩行)を1時間行った場合:3メッツ×1時間=3エクササイズ
6メッツの身体活動(軽いジョギング)を30分行った場合:6メッツ×1/2時間=3エクササイズ
厚生労働省 第3回 標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会 参考資料4「身体活動・運動の単位 健康づくりのための運動指針2006」より抜粋
e-ヘルスネット > 健康用語辞典 > エクササイズ
65歳以上の高齢者の身体活動基準は、65歳以上を対象とした複数の研究論文について、3メッツ未満も含めた身体活動量と生活習慣病などの発症および生活機能低下のリスク低減との関係を統合解析した結果、身体活動が10メッツ・時/週の群では、最も身体活動量の少ない群と比較して21%もリスクが低下したことを根拠に定められました。この基準は高齢者の身体活動不足を予防する目的で設定されましたが、高齢者においても体力に応じて可能な場合は3メッツ以上の運動を含む身体活動を行い、身体活動量の維持・向上を目指すことが望ましいとされています2)。
WHOの「身体活動および座位行動に関するガイドライン」(2020年改訂)5)では、がんサバイバーを含め慢性疾患を有する成人および高齢者に推奨される日常的身体活動は「週に少なくとも150~300分の中等度(ややきつい程度)の運動または身体活動」相当(データからみるがんと運動 vol.1「がんサバイバーよ、運動しよう!」)とされています。したがって、1日20〜30分のウォーキングや犬の散歩、毎朝のラジオ体操を日課としたり、日常生活の中で買い物などに出かける機会を作る、庭仕事や植物の水やり・手入れを行うなど、身近なことから積極的に身体を動かしていくことで無理なく達成できる目標となっています。ただ、身体活動量は個人によって大きく異なるので、今まで活動的でなかった人がいきなり23メッツ・時/週を目標とするのはハードルが高いかもしれません。身体活動の最短持続時間についても「1回に20分以上継続しなければ効果がない」などと言われることがありますが、これには科学的根拠が乏しく、ごく短時間の積み重ねでよいので、個々人の生活スタイルや体力に合わせて、普段の身体活動量を少しでも増やしていけるように取り組むことが大切であると「健康づくりのための身体活動基準2013」には記載されています2)。
がんになっても身体活動量を維持しよう
WHOガイドラインの推奨事項には「がんサバイバーを含め慢性疾患を有する成人および高齢者は、主要な筋肉群すべてを使った中等度以上の筋力トレーニングを週に2日以上行うこと」と記されています。主要な筋肉群とは、立ったり、歩いたり、姿勢を維持したりといった基本動作の基盤となる筋肉であり、その意味でもQOLに大きな影響を及ぼす筋肉と言えます。具体的には
がん悪液質の患者さんにおける運動について、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)が2021年に発表したがん悪液質臨床診療ガイドライン7)では「専門家の指導のもとに、がん悪液質患者が中等度の運動を行うことは安全で、筋肉量の維持・改善のために推奨される」とされており、「理学療法士または適切な教育訓練を受けた専門家が準備した運動処方に従い、週に2~3回のレジスタンス運動と中等度の有酸素(持久性)運動の両方を行うこと」を勧めています(データからみるがんと運動 vol.3「がんサバイバーとリハビリテーション」)。
これらの推奨事項から、「健康づくりのための身体活動基準2013」が提言する「すべての年齢層において、現在の身体活動量を少しでも増やし、運動習慣をもつようにする」との方向性は、がん悪液質の患者さんを含め、がんサバイバーにとっても身体活動の基本方針となると考えられます。
がんになっても動く、身体活動量を高く保つことは、QOLの維持・向上、ひいては人生を豊かにするためにとても重要なことです。
巻末に「健康づくりのための身体活動基準2013」2)および国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所による「改訂版 身体活動のメッツ(Mets)表」8)から、主な身体活動(生活活動・運動)のメッツ数一覧表を示していますので、ご自身の体調と体力に合わせた運動やADLのご参考になさってください。
- 文献:
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1)
厚生労働省 e-ヘルスネット 健康用語辞典「身体活動」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-031.html 2023年2月8日閲覧 -
2)
厚生労働省健康局がん対策・健康増進課 報道発表資料「健康づくりのための身体活動基準2013」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple-att/2r9852000002xpqt.pdf 2023年2月8日閲覧 - 3) Arends J, et al. Clin Nutr. 2017; 36(5): 1187-1196.
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4)
厚生労働省 e-ヘルスネット「健康づくりのための身体活動基準2013」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-01-001.html 2023年2月8日閲覧 -
5)
世界保健機関「身体活動および座位行動に関するガイドライン」
https://www.who.int/publications/i/item/9789240015128 2023年2月8日閲覧 -
6)
厚生労働省 e-ヘルスネット「QOLの維持・向上に大切な筋肉は?」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-04-002.html 2023年2月8日閲覧 - 7) ESMO Open. 2021; 6(3): 100092.
- 8) 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所「改訂版 身体活動のメッツ(Mets)表」2012年4月11日改訂
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1)
厚生労働省 e-ヘルスネット 健康用語辞典「身体活動」
- 監修:
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名古屋大学大学院医学系研究科 総合保健学専攻 予防・リハビリテーション科学分野 創生理学療法学講座
助教 立松典篤先生
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名古屋大学大学院医学系研究科 総合保健学専攻 予防・リハビリテーション科学分野 創生理学療法学講座
(2023年3月作成)