6.治療方法について:化学療法
化学療法は、注射や飲み薬で抗がん剤を投与するため、全身にお薬の効果を行き渡らせることができる治療法です。
中枢神経系原発悪性リンパ腫の化学療法で使用できるお薬には、以下のようなものがあります。
中枢神経系原発悪性リンパ腫に用いられるお薬の種類
-
① 葉酸代謝拮抗薬がん細胞を含むすべての細胞が増殖するためには、DNAの複製・合成が必要です。葉酸代謝拮抗薬は、このDNAの複製・合成に必要な葉酸代謝酵素のはたらきを妨げるお薬です。
そのため、がん細胞の増殖を抑える作用が期待できます。 -
② 抗がん剤葉酸代謝拮抗薬に加えて、他の抗がん剤が併用されることがあります1)。
中枢神経系原発悪性リンパ腫では、分子標的薬、アルキル化薬、植物アルカロイド、代謝拮抗薬といった抗がん剤が使用されています。これらは主に、細胞増殖に必要なDNAやタンパク質の複製・合成を妨げることで、がん細胞の増殖を抑えます。 -
③ ステロイド手術後など一時的にステロイドの投与が行われることもあります。ステロイドはがんを小さくして症状を緩和させることが期待できますが、その効果は一過性であり、ステロイドのみでがんを治すことは難しいとされています1)。
- 1)日本脳腫瘍学会 編: 脳腫瘍診療ガイドライン2019年版, 2019, 金原出版. 119-155.
化学療法の副作用
化学療法によって、以下のような副作用があらわれることがあります。
- アレルギー反応
- 骨髄抑制
- 吐き気・嘔吐
- 下痢
- 便秘
- 口内炎
- 貧血
- 出血しやすさ
- 疲労感
- 脱毛
- など
副作用への対処方法2)
-
アレルギー反応
-
症状:
- 発熱
- 息苦しさ
- かゆみ
- 発疹
- など
-
対処方法:薬の服用後にいつもと違う症状があらわれたり、急激な体調の変化がある場合は、直ちに医療機関を受診してください。
-
-
骨髄抑制
-
症状:感染症(発熱、寒気、喉の痛み など)
出血(鼻血や歯ぐきからの出血、血が止まりにくい など)
貧血(頭が重い、動悸、息切れ など) -
対処方法:
- うがいや手洗いなど、感染症に対する予防対策をとりましょう。
- けがに注意する、鼻を強くかまないなど、出血に対する予防対策をとりましょう。
- 貧血症状が強いときには、安静にしてください。
-
-
吐き気・嘔吐
-
対処方法:
- 症状が強く食事や水分がほとんど摂れない場合は、医療スタッフに相談しましょう。
- 治療を受ける日には食事の量を減らしたり、治療の数時間前には食べないようにすることで、症状を和らげられることがあります。
- 症状が出ているときは、横向きに寝て体を内側に曲げるとよいでしょう。
-
-
下痢
-
対処方法:
- 食事は、消化のよいものを少しずつ摂るようにしましょう。水分は十分に摂ってください。スポーツドリンクは、下痢で失われた電解質の補給をすることができます。
- 感染防止のために、排便の後は陰部をよく洗ってください。
-
-
便秘
-
対処方法:
- 水分は十分に摂り、繊維質を積極的に摂りましょう。
- 軽い運動を心がけるとよいでしょう。
- 毎日同じくらいの時間にトイレに行くようにしてみましょう。
-
-
口内炎
-
対処方法:
- うがい・歯磨きで、口の中を清潔に保ちましょう。歯科でブラッシングやうがいの指導を受けておくのもよいでしょう。
- 口内炎ができているときは、熱すぎる食べ物、塩分や酸味の強いものは避けましょう。
-
-
貧血
-
症状:
- だるさ
- 疲れやすさ
- めまい
- 息切れ
- など
-
対処方法:
- うがい・歯磨きで、口の中を清潔に保ちましょう。歯科でブラッシングやうがいの指導を受けておくのもよいでしょう。
- 口内炎ができているときは、熱すぎる食べ物、塩分や酸味の強いものは避けましょう。
-
-
出血のしやすさ
-
症状:
- 鼻血
- 歯ぐきからの出血
- 血便
- 血尿
- など
-
対処方法:出血があるときは安静にして、出血部位をタオルやガーゼで圧迫します。出血が止まらないときは病院に連絡しましょう。
-
-
疲労感
-
症状:吐き気による食事量の減少、下痢などによる体力の低下、精神的な不調などが原因で、だるさを感じることがあります。
-
対処方法:医師に相談して、まずは原因をつきとめ、それに合わせた対応をとりましょう。
-
-
脱毛
-
対処方法:
- 急に髪や体毛が抜けてくることがあります。治療が終わって数ヵ月すれば再び生えてきます。
- 脱毛は精神的ショックが大きいため、あらかじめかつらや帽子を用意して、心の準備をしておくとよいでしょう。
- 柔らかいヘアブラシを使う、ドライヤーの温度を低めにするなど、髪への負担はなるべく少なくなるようにしましょう。
-
- 2)国立がん研究センター がん対策情報センター 編著: がんになったら手にとるガイド. 2017; 学研プラス. 143-147.
- 監修:
-
埼玉医科大学国際医療センター
脳脊髄腫瘍科 教授
西川 亮 先生
(2023年3月作成)