7薬物療法について

薬物療法とは、どのような治療法ですか?

薬剤を使って、がん細胞の増殖を抑えたり消滅させることを目的とした治療法です。薬が体のすみずみまで行き渡ることで、全身に散らばったがんに対しても作用を示します。

薬物療法は、薬を使って行う全身的な治療で、手術による治療が難しい患者さんや、がんが他の臓器に転移している患者さんに対して検討されます。
また、がんが再発した患者さんの場合も、薬物療法を中心とした治療が行われます(再発した場合について参照)。

腎細胞がんに対する薬物療法には、「サイトカイン療法」「分子標的療法」「免疫チェックポイント阻害薬」などがあります。治療で使う薬は、がんやからだの状態、前の治療で使用した薬の種類などをもとに選択されます。近年では、複数の薬を組み合わせる併用療法も増えています。

なお、抗がん剤による治療(化学療法)は腎細胞がんに対しては効きにくいため、一般的には行われることはありません。

点滴をしている患者さん
国立がん研究センターがん情報サービス「腎細胞がん」
日本泌尿器科学会編:腎癌診療ガイドライン2017年版, メディカルレビュー社, 2019年5月改訂版(2020年6月小改訂)

サイトカイン療法

免疫細胞から分泌されるタンパク質の総称をサイトカインといい、その働きを利用した治療をサイトカイン療法といいます。
サイトカインには、全身に作用して免疫細胞(リンパ球など)を活性化させ、がん細胞への攻撃を助ける働きがあります。
腎細胞がんでは、インターフェロンαやインターロイキン-2が用いられています。

使われる薬剤

インターフェロンα 自己注射が認められています
インターロイキン-2 点滴で投与します。
点滴

分子標的療法

分子標的薬には、がん細胞の増殖に関わる特定の遺伝子の産物(タンパク質)に作用し、がん細胞が増えるのを抑える働きがあります。腎細胞がんに対しては、「チロシンキナーゼ阻害薬」と「mTORエムトール阻害薬」の2種類の薬剤が用いられています。

使われる薬剤

チロシンキナーゼ阻害薬 がん細胞の増殖を促している特定の分子に作用して、増殖に必要な指令の受け渡しをブロックする働きがあります。内服(飲み薬)で治療します。
mTOR阻害薬 がんの栄養の補給路として生まれた異常な血管(血管新生)を促す指令をブロックする働きがあります。内服によるものと点滴によるものがあります。
薬剤
インフォームドコンセントのための図説シリーズ 腎がん 改訂版, p86-93, 96-99. 医薬ジャーナル社, 2011
日本泌尿器科学会編:腎癌診療ガイドライン2017年版, メディカルレビュー社, 2019年5月改訂版(2020年6月小改訂)

免疫チェックポイント阻害薬

私たちの体は、免疫機能が正常に働いている状態では、T細胞などの免疫細胞が、がん細胞を「自分でないもの」と判断し攻撃します。しかし、がん細胞は、免疫機能から逃れようと、免疫細胞にブレーキをかけ、攻撃から逃れていることがわかっています。
「免疫チェックポイント阻害薬」は、患者さん自身にもともとある免疫の力を使ってがん細胞への攻撃力を高める、これまでとは異なる作用がある「がん免疫療法」のお薬です。

使われる薬剤

抗PD-1抗体 これらは、免疫にブレーキをかけている部分(免疫チェックポイント)と結合する働きを持つ抗体薬で、点滴で投与されます。
抗CTLA-4抗体
抗PD-L1抗体
※抗PD-1抗体との併用薬として使われます。
点滴をしている患者さん
日本臨床腫瘍学会編:がん免疫療法ガイドライン第2版, 金原出版, 2019
国立がん研究センターがん情報サービス「免疫療法」
日本泌尿器科学会編:腎癌診療ガイドライン2017年版, メディカルレビュー社, 2019年5月改訂版(2020年6月小改訂)
監修:
九州大学大学院 医学研究院
泌尿器科学分野 教授
江藤 正俊 先生

(2023年4月作成)