治療

副作用の影響
〜67歳男性 腎細胞がんの場合〜

Qさん:67歳 男性 腎細胞がん・ステージⅣ
退職後、腎細胞がんで腎臓の全摘手術の後に抗がん剤治療を始めました。
妻と二人暮らし。

Qさんは退職後、嘱託の仕事をして趣味を楽しみながら暮らしていましたが、血尿や脇腹の痛みがあったので近隣の内科医を受診したところ、腹部エコー(超音波)検査で腎細胞がんの疑いがあるとして専門病院を紹介されました。専門病院でのCT検査の結果、腎細胞がんと肺への転移が見つかり、QさんはステージⅣの進行がんと診断されました。

67歳男性

腎臓の全摘手術後に、抗がん剤(薬物療法)を開始

腎細胞がんにおける基本的な治療法は、手術による外科切除です1)。このため腎臓以外の臓器に転移があるステージⅣであっても、まずおおもとの病巣がある腎臓を手術で摘出したうえで、転移巣に対する治療が行われることが多くなります1)

Qさんも腎臓を取る手術を行った後、肺の転移巣を治療するために抗がん剤を投与することになりました。しかし、事前に目にした抗がん剤の副作用に関する週刊誌の記事やブログが気になってしまい、眠れない日々が続きました。

幸い、すぐに主治医がQさんの様子に気がついて緩和ケアチームに連絡をとったため、Qさんは薬物療法と並行して「心のケア」として、精神腫瘍医(サイコオンコロジスト)との定期的な面談や睡眠を助ける薬などの処方を受けることになりました。

「副作用が辛くて、治療への意欲が続かない」

心のケアにより治療が継続できるようになったQさんでしたが、治療に伴う副作用症状が現れるようになりました。

Qさんは「術後の痛みや喪失感で心身ともにしんどかったのに、抗がん剤の副作用がこんなにひどいなんて……」と治療を続ける気持ちが萎えてしまいました。また、心配している奥さまに向かって「お前に何がわかるんだ!」と治療への不満をぶつけて、逆に落ち込むこともありました。

抗がん剤の副作用が辛く、身動きもままならないときは、誰でも「治療はもう嫌だ!」という捨て鉢な気分に陥ってしまいます。本当に辛くて「こんな治療を受けるぐらいなら、死んだほうがましだ」と感じることもあるでしょう。こうした治療に伴う心の苦痛に関しても、どうぞ主治医や緩和ケアチームの医療者に相談してください。我慢する必要はありません。

近年、がんの治療は患者さんの生活の質(QOL)も重視する方向へと舵(かじ)を切り、辛い症状を軽減させるための治療(支持療法)や、前もって副作用に対する予防策を行うようになりました。辛い症状や気持ちを医療者に伝え、よりあなたに合った支持療法や自分でできる予防策を提案してもらうことで、治療をより長く続けることができるでしょう。

Qさんも「我慢が足りない面倒な患者だと嫌がられるかも」と隠していた本音や体調が、緩和ケアチームを介して主治医にさらにうまく伝わるようになり、副作用が辛い時は一時的に治療を中断したり、薬の量を減らしたりするなどの対応をしっかりと受けられるようになりました。

治療中にできるだけ気分よく過ごすことは、治療の継続による延命へとつながります。「吐き気でご飯が食べられない」「眠れない」など、辛いことを具体的に主治医や看護師などに相談しましょう。もちろん「不安でたまらない」などの気持ちが湧いてくるのも決して珍しいことではありません。このような気持ちもおそれずに話してみるとよいでしょう。

吐き気がひどいです

Qさんも「色々話をしていくうちに、何人もの先生たちが一所懸命に考えて、私がより辛くない方法でがんを治そうとしてくれているんだな。だったらもうちょっとだけ頑張ってみるかな」という気持ちが少しずつ生まれてきたそうです。

1)国立がん研究センターがん情報サービス 腎細胞がん治療
(2023年2月21日閲覧、https://ganjoho.jp/public/cancer/renal_cell/treatment.html
監修:
国立がん研究センター東病院 精神腫瘍科
科長 小川 朝生 先生

(2023年4月作成)

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