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治療

社会的役割の喪失
〜41歳女性 乳がんの場合〜

Sさん:41歳 女性 乳がん・ステージⅡ
専業主婦。同い年の夫、高校・中学生(姉弟)の子どもと四人暮らし。

自治体検診で乳がんが見つかり乳房全摘術とリンパ節郭清を受けて退院しました。現在はホルモン療法を受けています。

41歳女性

「母親として、主婦としての葛藤がありました」

「病名を知らされたときに思ったのは“成人していない子どもを残して死ねない、母親として頑張らねば”でした」(Sさん)。お子さんがいるがん患者さんに共通するのは「母親(父親)としての役割が果たせなくなるかもしれない」という不安でしょう。ときにはその思いが強すぎて「患者」としての役割を疎かにしてしまうこともあります。

退院後、Sさんはできるだけ家族の前では入院前と同じように、母親と主婦としての役割を果たそうとしました。「入院などで家事が滞ってしまって申し訳ないという気持ちがあり、早く日常を取り戻したかった」と言います。

ただ、家族の前で「変わらない役割」を装うほど、家族も「いつもの役割」を期待して甘えてしまい、Sさんの体調に対する配慮などを欠いてしまいがちです。Sさんは無理を重ね寝込んでしまいました。

「もう自分は家族の世話を当たり前にはできないんだという悲しみと、どうして誰も支えてくれないのという怒りで頭がごちゃごちゃになって、隠れて泣いてばかりいました」(Sさん)。

がん患者としての自分と社会的な役割とのバランスが大切です

がんという病気と共存していくためには、がん患者としての自分と社会的な役割とのバランスが大切です。Sさんを例にすると「母親だからこうすべき」という思い込みをちょっとだけ脇において「疲れているから休ませてね」「ご飯は自分たちで用意してくれる?」と口に出してみることも、時には必要です。

Sさんは病院のソーシャルワーカーの勧めもあり、今の心身の状態を家族に伝え、助けてほしいと話をしてみることにしました。すると高校生の娘さんが思いがけず理解を示し、朝食の支度と自分と弟のお弁当作りを引き受けてくれました。

社会的役割の喪失~41歳女性 乳がんの場合~

最初は「自分の役割を取られてしまった」と思い、そんな自分に嫌気が差したそうですが、次第に娘さんの成長を母親として頼もしく感じるようになったそうです。

確かにがんになったことで、これまでとは「母親」としてのあり方が違ってくることもあるでしょう。しかし親としての責任を果たせなくなったわけではないのです。あなたという存在はあるだけで、これまでと変わらずお子さんの成長の糧となるでしょう。

Sさんは長い葛藤の末に「いまだに落ち込んだりしますが、病気に負けない姿を見せることも親の役割だ」と思うようになりました。

ただ、頭ではわかっていても、慣れ親しんだ役割を失うのは辛いですね。そうした気持ちを打ち明けられる理解者はいますか?身近にいないときは医療相談室のソーシャルワーカーや精神腫瘍医(サイコオンコロジスト)に話をしてみてください。真情を話していくうちに「新しいあなたの役割」が見えてくると思います。

監修:
国立がん研究センター東病院 精神腫瘍科
科長 小川 朝生 先生
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