医師に本音を言えなかった患者さん
~80歳女性の場合~

Aさん:80歳 女性 膀胱がん
独身 会社員(事務職)を定年退職後、自由なリタイア生活中。

ゴルフや楽器の演奏など、多彩な趣味を楽しみ、パソコンも使いこなすAさん。スポーツが大好きで自宅近くのスポーツジムに毎日のように通うなど、まさに健康そのものの生活を送っていました。ところが76歳(2018年)の夏に膀胱がんが見つかり、2年後には再発も。Aさんがどのように治療と再発を乗り越えたのか、お話を伺いました。

80歳女性

ペイシェントジャーニー

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【がん発覚】女性には少ないがんなのに、なぜ私が?

がんが見つかったときのことを教えてください。

Aさん:尿に血が混じっているのに気づいて「あれ?おかしいな」と思ったのです。きっと一時的なものだろうと思ってしばらく様子を見ていたのですが、毎回の排尿のたびに血が混じっていました。尿が真っ赤というわけではなく、薄く血が混じる程度だったのですが、原因がまったく思い当たりません。「これは病院に行かなければ」と思い近くの泌尿器科クリニックを受診しました。そこでいくつかの検査を受けて「膀胱がんの疑いがある」と言われ、手術が必要とのことで大学病院を紹介していただき、クリニックから予約をとっていただきました。“がん”という言葉だけでも驚いたのですが、膀胱がんのことはほとんど知りませんでした。そこで、インターネットで検索して調べてみました。

インターネットではどのような情報が得られましたか。

Aさん:まず、膀胱がんの初期症状は血尿だと書かれていました。書かれていることが自分の症状と一致したので、膀胱がんなのだと納得しました。インターネット情報でも手術が必要と書かれていました。手術を受けなければいけないというのは、やはりショックでしたね。

その後、紹介された大学病院でも検査の結果、膀胱がんと診断されたのですね。主治医の先生とはどのような会話があったのでしょうか。

Aさん:診断結果は一人で聞きに行きました。診察室で先生から「膀胱がんは女性には少ない」と聞き、「えっ!?なぜ私が?」と思いました。先生に「原因は何でしょうか」と伺うと、最も多い原因は喫煙とのことでした。私はタバコを全く吸わないので、原因には納得できませんでしたが、でも実際にがんになってしまったのですから考えても仕方ありません。先生から説明を受けて資料もいただきましたが、「膀胱がん」「手術」とわかったら、あとはもういろいろ考えず前に進むしかないという気持ちだったので、私からは日程や手術に要する時間、退院までの日数の目安などを尋ねました。

【手術日決定】「心配ない」医師の言葉に安心

治療方法が決まるまでにはどのくらいかかりましたか。

Aさん:1か月くらいです。膀胱に内視鏡を入れてがんを取り除くTURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)という方法で部分切除することになりました。

※TURBT:国立がん研究センターがん情報サービス https://ganjoho.jp/public/cancer/bladder/treatment.html
オノオンコロジー 膀胱がんの外科治療について教えてください https://p.ono-oncology.jp/cancers/uc/06/01_treatment/01.html

手術日を迎えるまではどのように過ごしていたのでしょうか。

Aさん:主治医の先生からそれほど難しくない手術だと聞いて安心していたので、あまり不安はありませんでした。手術までの期間は、入院時に持っていくものなどを準備しながら、いたって普通の生活を送っていました。

【手術後】手術翌日に食事がとれて、嬉しかった!

手術後の体調はいかがでしたか。

Aさん:TURBTは開腹手術ではないので回復も早く、翌日には食事もでき、経過は順調でした。膀胱のがんを取り除いた際の出血を排出するために設置してあるカテーテルの処置をしていただきました。出血が止まらないと退院できないので、早く止まってほしいと願いながら過ごしていました。退院後は2回ほど血尿がありましたが、退院時に先生から「薄い血尿が出るかもしれない」と聞いていた通りでした。その後は血尿もなく、何の不安も無く過ごせていました。

【再発】「がんを取り切れなかったのかな」医師のつぶやきに驚く

手術後2年目に、がんの再発がわかったときのことを教えてください。

Aさん:3か月毎に通院して膀胱鏡検査を受けていたのですが、手術から2年後に小さながんが見つかったのです。その時、先生が「前の手術で取り切れなかったのかな」とつぶやいたのが聞こえてしまいました。先生に「えっ、取り切れなかったんですか?」と聞きたかったのですが、そうは言えなくて「手術をしてもがんが残ったり、全部取り切れなかったりすることもあるのですか」と聞きました。先生の返事は「あります」とのことでした。がんを切除したつもりでも、膀胱壁の中にまだ残っている場合があるそうです。きちんと手術してくださったのだとは思いますが、その言葉は1度目のがん発覚の時以上にショックでした。

医師のつぶやきに驚く

再発自体も、驚きが大きかったのですね。

Aさん:初回の手術前は再発については考える余裕がありませんでした。術後に先生から「再発することがあるので3か月毎に検診をしましょう」と言われたのですが、どこか“自分は大丈夫”という気持ちがあったのです。それが自分で再発してしまったので、「やはり再発ってあるんだ」と思いました。改めてインターネットを検索してみると、膀胱がんの再発率は高いことがわかりました。「何回も再発する患者さんもいる」と聞きました。再発を防ぐために、何か飲み物や食べ物で気をつけることはできないものかと先生に尋ねましたが、「食生活との関連はわかっていない」とのことでした。

2回目の治療はどのように行われたのですか。

Aさん:がんが初回と同じ場所にできていたので、前回と同じTURBTで切除することになりました。膀胱鏡検査でモニターを見せてもらうと、1回目に比べて本当に小さいものでした。“再発”という事実はショックで1回目よりも落ち込みましたが、手術は1度経験していますので気持ちは落ち着いていました。

【現在】定期検査前になると気持ちがゆらぐ

再手術後はどのように過ごしていらっしゃいますか?

Aさん:再手術も術後は順調で、退院後は好きな趣味の活動などの日常生活に戻れています。現在のところ再発もなく過ごせていますが、3か月に1度の膀胱鏡検査を受けています。現在の担当医の先生は「あなたは再発しているので、ていねいに診ていきましょう」と時間をかけて診てくださるので、安心感があるし、信頼しています。
でも、定期検診のたびに気持ちはゆらぎます。定期的に検診を受けていれば血尿が出る前に発見ができて、早期のうちに治療できるということは理解しています。それでも再発があるかもしれないと思うと、4年経った今でも検査結果が出るまでは毎回不安な気持ちになります。

定期検査前になると気持ちがゆらぐ

最後にがん患者さんへのメッセージをお願いします。

Aさん:がんは一人ひとり、がんのタイプも重症度も異なりますので、私の経験がこれから手術を受けられる方全てにあてはまるわけではありません。インターネットを見るといろいろなことが書かれていますが、それが自分にあてはまるのかを全部医師に質問できるものではないし、記事も必ずしも正確なものばかりではないのだろうと思います。これから治療を受けられる方は、あまりいろいろ考えず、医師を信頼して治療を受けることをお勧めしたいですね。それで気持ちが楽になればと思います。

どうもありがとうございました。

【監修医・上村博司先生からのコメント】

監修医・上村博司先生

上村 博司 先生
横浜市立大学附属市民総合医療センター 泌尿器・腎移植科 診療教授

治療中の不満や疑問を、患者さんが一人で抱え込んだままにしておいては、ストレスになったり、その後の治療への前向きな気持ちにも影響するおそれがありますので、気になることがあれば、率直に医師に質問をしてみてください。直接その医師に伝えるのが難しい場合、看護師などの医療スタッフに伝えてみるという方法もあります。
医師は細心の注意を払って手術を行なっておりますが、それでも「取り切れない」ことがあり、その結果、再発は起こり得ます。しかし、たとえ再発したとしても、この患者さんのように定期検診によってがんが小さいうちに再手術を行うことが可能となります。
Aさんのように定期検診を憂うつに思われている患者さんは少なくないのですが、再発を早期発見するためには欠かせませんので、ぜひこれからもきちんと受けていただきたいと思います。

(2023年8月作成)