治療後

術後合併症・後遺症と晩期合併症
〜21歳女性 小児急性リンパ性白血病(ALL)の場合〜

EEさん:21歳 女性 急性リンパ性白血病
大学生。両親、妹と四人暮らし。

4歳の時に急性リンパ性白血病(ALL)を発症。抗がん剤治療と造血幹細胞移植を行い、無事に治癒の目安とされる5年が経過しましたが、成長障害という晩期合併症が現れました。

21歳女性

「晩期合併症があるから、就職しにくくなりました」

白血病は小児がんのなかで最も多く、そのおよそ7割が急性リンパ性白血病(ALL)です1)。 ALLの晩期合併症は受けた治療や治療を受けた年齢などに関連し、どのような症状が出現するかは個々人で異なりますが、成長障害、認知機能障害のほか、心機能障害、骨密度低下などが知られています2)。また、治療の苦しさや、同じ病気の友達を亡くすなどの辛い体験からPTSD(心的外傷後ストレス障害)を生じ、睡眠障害が現れたり、過度の警戒心を抱くようになったり、辛い記憶を思い出すような機会を避けるために、人づき合いを避けたりするようになることもあります3)

EEさんは成長障害が現れ、小柄で筋力・体力がないのが悩みです。「来年から新社会人として働こうと思いますが、体力がなくてすぐに疲れるので、就職しても働き続けられるのか不安です。それに、重くて敬遠されるかもと思って親しい友人にもALLのことは話せてないし、恋愛や結婚にも消極的です…」(EEさん)。

自分を客観的に見つめ、実生活で解決策を見つけましょう

がんの病態や生活背景は個々で異なるので、実生活で「自分らしく生きる」方法を自分なりに模索し、問題を解決していくことが重要です。まずは自分自身の限界を客観的に見つめながら、安心して生活できる基盤をつくることを考えていきましょう。

就職は自立的な社会生活への第一歩です。小児がん体験者の皆さんは一般の同世代よりも「地域や社会に役立ちたいから働きたい」と感じている方が多く4)、辛い経験をくぐり抜けてきたからこそ、社会に貢献したいと考える傾向が強いようです。なかには、病名を伝えず就労して問題ない方もいらっしゃいますが、一方で、「病名を伝えていなかったので受診の際に休みづらかった」「体調が悪いときなどに説明しづらかった」などの声もあることから、就労後に困らないように、病気のことや日常生活でできること、できないこと、気をつけるべきことなどを冷静かつ的確に説明できるようにしておきましょう。親御さんや友人、患者会の仲間と一緒に練習をしておくとよいと思います。

ただ、本来、罹患歴を理由に採用を決めてはいけないとされていますが、病名を伝えたことで就職できなかったケースも少数ながらあるようです。そのような時は「自分と合わない会社だった」「事前にわかってよかった」と気持ちを切り替えていきましょう。

また、障害者手帳の有無によって、受けられる就労支援が異なることを知っておきましょう3)

(1)障害者手帳を有している場合

  • 障害者職業センター、地域障害者支援センター、障害者職業能力開発校などの専門機関や、トライアル雇用、ジョブコーチ支援、チャレンジ雇用などの制度もあり、障害者に対する就労支援は拡充されつつあります。がん相談支援センターなどの医療機関を通して、専門機関につなげてもらうとよいでしょう。

(2)障害者手帳を有していない場合

  • がん相談支援センターやがんの子どもを守る会などに相談する方法があります。このとき、晩期合併症やそれに伴う生活上の制限などを正確に把握した上で、職種や業務内容を検討し、どのような就労を希望するのかを共有することが重要です。ほかには、小児がん経験者のピアグループへの参加を通して、就労に関する悩みの共有や対処方法に関する情報を収集することも一つの方策として考えられます。なお、障害者手帳を持っていない場合は、受けられる就労支援が少なくなるので、障害者手帳の取得を検討してみてください。
私はどのタイプ?

「患者会で尋ねると、私と同じように成長障害があっても就職して、結婚している人が意外に多いと知って驚きました。病気のせいばかりにするのはよくないなって思いました」(EEさん)。EEさんはまずがん相談支援センターに相談することにしたそうです。このように、さまざまな手段を利用しながら、自分らしい人生へと歩みだしましょう。

晩期合併症が現れる前に、病院や保険を検討しておきましょう

小児がん体験者に対する長期フォローアップ体制は整備の途上ですが、国が指定した「小児がん拠点病院」と「小児がん連携拠点病院」では、相談支援センター機能の充実が図られています。家族の転勤などで初回治療を受けた病院から遠く離れてしまった場合は、下記のサイトからお近くの拠点病院を探しておくと安心です。また、家の近くに施設がない場合は、小児がん経験者を対象とした「長期フォローアップ外来」がある病院を検索し、相談しておきましょう。

国立がん研究センターがん情報サービス 小児がん拠点病院などを探す
(2023年2月21日閲覧、https://hospdb.ganjoho.jp/kyoten/childsearch

さらに、小児がん経験者は、将来、晩期合併症で入院する可能性がありますが、18歳以降は「小児慢性特定疾病医療費助成制度」の対象から外れます(ケースによっては20歳未満まで対象となります:2023年2月現在)。したがって、成人以降の医療費負担を見越して就職などを機に、入院保障付きの「引受緩和型医療保険」への加入を真剣に考える必要があります。小児がん体験者を対象とした医療保障としては、新潟県の小児がん患者会と医師らの有志で設立されたハートリンク共済(2023年2月21日閲覧、https://hartlink.net/)が有名です。

1)がん情報サービス 白血病〈小児〉
(2023年2月21日閲覧、https://ganjoho.jp/child/cancer/leukemia/index.html
2)国立がん研究センターがん情報サービス 白血病〈小児〉 療養
(2023年2月21日閲覧、https://ganjoho.jp/child/cancer/leukemia/follow_up.html
3)JCCG 長期フォローアップ委員会 長期フォローアップガイドライン作成ワーキンググループ 編. 小児がん治療後の長期フォローアップガイド 2021:Ⅳ 心理社会的ガイド, クリニコ出版 4)がんの子どもを守る会 編 「小児がん経験者のためのハンドブック」2014年11月発行
(2023年2月21日閲覧、http://www.ccaj-found.or.jp/wp-content/uploads/2012/03/8743d0fb56d09c389926c04a7439ef1d.pdf
監修:
国立がん研究センター東病院 精神腫瘍科
科長 小川 朝生 先生

(2023年4月作成)

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