10.悪性黒色腫の治療

手術

悪性黒色腫では、手術によってがんを切除する方法が優先されます。しかし、悪性黒色腫は、がんの周辺に小さな転移(衛星病巣)や目に見えないほど小さな転移が発生することが多く、目に見えるがんだけを切除した場合、周囲に再発するリスクがあります。手術ではこれらの小さな転移も取り除く必要があるので、がんの端から数cmほど外側を広めに切除します。
切除範囲や切除の深さは、それぞれの腫瘍の厚さや発生した部位などに応じて決められます。

解説する手術服の医師のイラスト

センチネルリンパ節生検とリンパ節郭清かくせいについて

画像検査などから転移がないと診断された場合でも、「センチネルリンパ節生検」を行うことが推奨されています。センチネルリンパ節は、がんが最初に転移するリンパ節で、このリンパ節に転移がなければ他への転移はない可能性が高いと考えられます。一方、このリンパ節に転移があると、その先のリンパ節へも転移している可能性があるため、その領域のリンパ節を広範囲に切除する「根治的リンパ節郭清」が行われる場合があります。

センチネルリンパ節に転移がなければ、それより先のリンパ節には転移はないはず。

広範囲のリンパ節郭清後に、四肢に浮腫ふしゅ(むくみ)が起こる可能性がありますが、センチネルリンパ節生検を行うことで不要なリンパ節郭清を避けることができます。また、病期(ステージ)が正確にわかるので、適切な治療法の選択に役立ちます。

手術(退院)後は、手術の部位や方法によりますが、基本的には食事、運動などの制限もなく、今までの日常生活や職場に、早期に戻れる可能性があります。ただし、リンパ節を広範囲に切除すると、リンパ管に回収されなかったリンパ液がたまって、「リンパ浮腫」と呼ばれるむくみが出ることがあります。このような症状が出た場合は、スキンケア、用手的リンパドレナージ(手で行う医療的なマッサージ)、弾性包帯やストッキングなどの弾性着衣による圧迫療法や圧迫療法と運動を組み合わせた治療などを行います1)

1)リンパ浮腫~がんの治療を始めた人に、始める人に~, 国立がん研究センターがん情報サービス,
https://ganjoho.jp/public/support/condition/lymphedema/ld01.html)[2022年10月現在]

術後補助療法

悪性黒色腫は、術後の早い時期に転移や再発が発見され、予後不良となることがしばしば起こります。
術後補助療法とは、術後の転移や再発を防ぐために行われるもので、悪性黒色腫では、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、インターフェロンなどによる治療が検討されます。

薬物療法

病気が進行して手術による治療が難しい場合や、がんが再発した場合などは、薬物療法として化学療法(抗がん剤)、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬による治療が行われます。

免疫チェックポイント阻害薬

免疫チェックポイント阻害薬による治療は、もともと体内に備わっている患者さん自身の「免疫」の力を利用して、がん細胞への攻撃力を高める治療法です。
悪性黒色腫に対しては、「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれる治療薬が使われます。免疫チェックポイント阻害薬は、免疫のブレーキ役の部分(免疫チェックポイント)に結合するはたらきがある抗体薬で、点滴で投与されます。

術後補助療法 術後に、抗PD-1抗体と呼ばれるお薬を用いた単剤療法が行われることがあります。
全身療法 単剤療法と、作用が異なる2種類の免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた併用療法が行われることがあります。
点滴をしている患者さんのイラスト

分子標的薬

分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わるタンパク質や遺伝子をターゲットに攻撃するはたらきがあります。
悪性黒色腫では、「BRAFビーラフ阻害薬」と「MEKメック阻害薬」と呼ばれるお薬*1(経口薬)が使われています。

術後補助療法 術後に、BRAF阻害薬とMEK阻害薬との併用療法が行われる場合があります*2
全身療法 BRAF阻害薬による単剤療法、またはBRAF阻害薬とMEK阻害薬との併用療法が行われる場合があります。
顕微鏡を覗く女性
*1BRAF阻害薬とMEK阻害薬は、腫瘍組織にBRAF遺伝子変異がある患者さんに対して使われます。
*2術後補助療法として保険診療の対象とならないお薬があります。詳しくは医師にご相談ください。

化学療法(抗がん剤)

抗がん剤は、細胞に作用することでがんの増殖を抑えて、がん細胞を死滅させるはたらきがあります。

術後補助療法 手術で取り除けなかったがん細胞を死滅させるため、手術後に抗がん剤の投与を行うことがあります。
全身療法 手術を行うのが難しい患者さんに対して、がんが大きくなるまで、または副作用によって治療を続けることが難しくなるまで継続します。

インターフェロン

インターフェロンは、がんや体内に侵入した病原体を死滅させるために細胞が分泌する物質で、免疫に作用してがん細胞が増えるのを抑えるはたらきがあります。

術後補助療法 術後にインターフェロンを切除部位の周辺に注射、または皮下注射することがあります。

放射線療法

悪性黒色腫は、一般的に行われるX線や電子線を照射する放射線療法では効果が認められないことが多いのですが、先進医療*3として限られた施設で実施している速中性子線や陽子線、重粒子線などの特別な放射線の照射が効果を示すことがあります。
また、脳に転移がある患者さんにガンマナイフ治療*4やサイバーナイフ治療*5などが行われることもあります。

放射線療法
*3先進医療国が承認した先進性の高い医療技術のことで、限られた医療機関で行われます。このような治療について詳しく知りたい方は医師にご相談ください。
*4ガンマナイフ治療開頭することなく、脳内のがん病巣に対してγ(ガンマ)線を多方向から一点に集中照射する治療です。
*5サイバーナイフ治療コンピューター制御により、がん病巣に対してX線を多方向から集中照射します。頭部以外でも治療できます。
日本皮膚科学会/日本皮膚悪性腫瘍学会編: 皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン 第3版 メラノーマ診療ガイドライン, 金原出版, 2022
監修:
医療法人医誠会 医誠会国際総合病院 皮膚科 主任部長
爲政 大幾 先生

(2024年1月作成)