治療の選択

治療に対する意思決定
~27歳女性 悪性黒色腫(メラノーマ)の場合~

Iさん:27歳 女性 悪性黒色腫・ステージⅠ
会社員。悪性黒色腫と診断され、場合によっては指を切断すると告げられる。
両親と同居している。

ジェルネイルの交換中に、左足の親指の爪に黒い筋が入っていることに気づき、近隣の皮膚科診療所を受診しました。
すぐに地域のがん診療拠点病院を紹介され、特殊なルーペを用いた「ダーモスコピー」検査により悪性黒色腫と診断。場合によっては指を切断する必要があると告げられ、ショックのあまり通院をやめてしまいました。

27歳女性

治療法に納得がいくまで尋ねましょう

「病名を聞いたときは“何それ、なんで私が?”という気持ちでした。しかも、治療の説明の中で切断という言葉が出てきたので、とてもショックを受けました。もう人前でサンダルも履けないし、温泉にも行けない、歩けなくなるかもしれない、とパニックになりどうやって自宅に戻ったのかも覚えていませんでした」(Iさん)。

悪性黒色腫は肌の一番外側にある「表皮」の中の色素細胞(メラニン細胞)ががん化するもので、早期の治療ではほかのがんと同じく手術療法が行われます。

がんの大きさや深さによって患部とその周辺1〜2㎝の範囲を切除する必要があり、爪の悪性黒色腫の場合は指を切断することがあります。指の骨に届くギリギリまでの範囲を切除し、整容する温存術も試みられていますが、まだ推奨されている治療法ではありません1)

治療に伴って外見や機能を損なうことは、誰にとっても受け入れがたいことです。気持ちを落ち着かせるために、一旦時間を置いてみることも大切です。また、一緒に住んでいるご家族や信頼できる友人に気持ちを打ち明けて、治療を受けることで何を得て、何を失うのか、逆に治療を受けないことで何を得て、何を失うのかを整理してみるとよいかもしれません。

考えを整理したあとは、「なぜ手術が必要なのか、手術を受けたあとにどんな影響があるのか、ほかの方法を選べないのか」などを納得できるまで主治医や看護師に聞いてみましょう。

自分の希望をはっきりと伝えましょう

意思決定の方法は人それぞれで、普段から一人でとことん考え抜く方もいるでしょうし、誰かの助言に従ったり、周りに相談しながら自分の意思を整理して決定する方もいらっしゃるでしょう。

最近は「自己決定」という言葉が一人歩きしがちですが、医療での意思決定は患者さん一人がすべての責任を負うものではありません。がん治療での意思決定とは、患者さんの価値観と希望を何度も確認しながら、最終的に患者さん自身が「先生や家族、みんなで話し合って決めたこと」だと納得して治療に向き合えるよう応援することなのだと思います。

そのためには「自分はこうしたい」という希望や、尊重してほしいことを医療者や家族にはっきりと伝えてください。あなたにとっては一生を左右する問題です。些細に思えることでも遠慮をする必要はありません。

Iさんのケースでは、自分の気持ちを主治医に伝えた結果、まず手術時に組織検査を行うことになりました。その結果、悪性黒色腫が表皮にとどまっていれば指を温存できる可能性がありました。また、表皮の下の真皮層よりも深くがんが入り込んでいた場合でも、もう一度、医療者や家族と治療のメリットとデメリットをよく話し合ったうえで温存術を選ぶことも考えられます。

私はこうしたい

ときには自分でも何をどうしたいのか、わからなくなるかもしれません。そんなときは、これまで大切にしてきた価値観や将来への希望を書き出してみてください。「30歳までに結婚して、子どもを産みたい」「海外で暮らしたい」などなど──。限界を決めずに思いを巡らせたあとは、それに近づくためにはこの治療法でよいのか、妥協点はあるのか、ほかの治療法はないのかを主治医や看護師などと一緒に考えていきましょう。

1)日本皮膚科学会 日本皮膚悪性腫瘍学会 編. 皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン 第3版, 2022, 金原出版
監修:
埼玉医科大学国際医療センター 包括的がんセンター 精神腫瘍科
教授 大西 秀樹 先生

(2023年4月作成)

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