あなたと一緒に、がんと向き合う
治療の選択

ドクターショッピングのわな
〜80歳男性 再発大腸がんの場合〜

Pさん:80歳 男性 大腸がん・再発転移、ステージⅣ
大腸がんで腸管切除などを受けたが、2年後に肝臓と肺に転移が見つかる。狭心症を合併。
配偶者と次女の三人暮らし。

2年前にステージⅢの大腸がんが見つかり、腸管切除とリンパ節郭清、および術後補助化学療法を受けたPさん。肝臓と肺への転移が見つかったのは、心臓の狭くなった血管を広げる経皮的冠動脈カテーテルインターベンションを受けた直後でした。

80歳男性

「再発しただけでなく、切除もできないなんて」と不満が募りました

「抗がん剤治療は本当に辛かった。それでも死なずに済むならと頑張ったのに、再発ですよ。定期検査で再発が発覚したときにはこれまでの頑張りは何だったのかと、医師に対して不信感を抱きました」(Pさん)。しかも画像検査の結果、転移巣の数と大きさ、また年齢と心臓の状態を考慮して手術ではなく局所への放射線照射と緩和治療を勧められました。転移巣を切除しないことに納得できなかったPさんは、手術をしてくれる病院を探そうとセカンドオピニオンを受けることにしました。

しかし、セカンドオピニオン先でも主治医の治療方針が支持されました。Pさんは「年寄りだから、積極的な治療(切除)をしても無駄だと思われている」と不満を募らせ、ドクターショッピングに陥ってしまいました。

ドクターショッピングから“トンデモ医療”に陥ることも

実は、高齢者のがん治療に関する「標準治療」は確立していません。標準治療を裏付ける臨床試験への参加者が少ないうえに、高齢になるほど体力、気力、そして全身の健康状態に個人差があるので「標準」と言える治療法を決めることが難しいからです。

実際、健康状態によっては積極的ながん治療の恩恵を期待できないばかりか、治療に伴う副作用や後遺症のダメージから回復できず、かえって寿命を縮めてしまう可能性もあります。このため近年は、高齢者のがん治療において生活の質(QOL)の維持を優先する例が増えてきました。まだまだ緩和医療を終末期医療と思い込んでいる方が多いですが、緩和医療へシフトすることでQOLの維持や向上だけではなく、延命効果も確認されています。

ただ、ご本人にしてみると積極的な治療を受けられないことに対して、簡単には納得できないかもしれません。特にPさんの場合のように再発の衝撃が大きくて、主治医の治療方針が信じられなくなる例は少なくありません。

ドクターショッピングのきっかけは様々ですが、主治医の説明が無神経に聞こえたり、治療方針に納得がいかなかったりするなど不信感や不満が重なると、同じような意見を拒絶し、自分にとって都合のよい意見を言う医師を探すことになるようです。

残念ですが、こうした気持ちにつけ込む悪質な存在も否定できません。ドクターショッピングが長引くほど、理想の医師がいないことへのいら立ちは「医者は誰もが敵だ」という孤立感へと変わっていきます。そこに、冷静なときなら鼻で笑ってしまうような「医師が認めた、奇跡の○○!」「△△でがんに勝つ!(効果には個人差があります)」などという宣伝文句を見たらどうでしょうか。自分のため「だけ」にもたらされた救いの糸のような気持ちになってしまいますね。

このように、ドクターショッピングは自らの首を絞める行為になります。医師探しが長引く前に、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターの相談員や緩和ケア外来、あるいはがん患者の心の問題のエキスパートである精神腫瘍医(サイコオンコロジスト)に医師の対応や治療方針に対する悩みを相談してください。ご本人が拒否されるようであれば、まずご家族が相談してみてもよいと思います。

監修:
埼玉医科大学国際医療センター 包括的がんセンター 精神腫瘍科
教授 大西 秀樹 先生
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