医療施設における就労支援:兵庫医科大学病院
(医師からのメッセージ)

がんの治療中も今まで通りに仕事や趣味を続けてください

横井 崇 先生

兵庫医科大学 胸部腫瘍学特定講座・内科学講座 呼吸器科
特任准教授 横井 崇 先生

就労を希望するがん患者さんに、「今まで通りに仕事を続けて!」とメッセージを送る兵庫医科大学 胸部腫瘍学特定講座・内科学講座 呼吸器科 特任准教授 横井 崇先生。治療と仕事をうまく両立するための秘訣を伺いました。

※ご所属・肩書は取材当時(2020年1月)のものです。

福島恵美
聞き手:
福島恵美(がんサバイバーのライター)

病院に相談会があることはありがたい

兵庫医科大学病院で行われている「がん治療生活を支える~仕事とお金のお悩み相談会~」でがん患者さんから相談を受けるがん専門相談員と、横井先生はどのように連携されるのですか。

私が担当する患者さんのカルテに、相談内容が記載されている場合はそれを読んだり、相談員の看護師から患者さんの情報を電話で聞いて共有したりしています。その他に、抗がん剤治療中の患者さんのお金の悩みを看護師が耳にしたら、フィードバックしてもらうことがあります。

この相談会のように、医療施設の中で就労相談支援をすることについて、横井先生はどのようにお考えですか。

とても良いことだと思います。私は呼吸器内科が専門なので、担当するのはほとんどが肺がんの患者さんです。ステージⅣといわれる進行性の肺がんの場合などは、治療の目的は必ずしも治癒を目指すことだけではなく、現状維持を目指すこともあります。その場合、できるだけ今と変わらない生活を長く続けることが治療の目的になるので、治療が終わることはないんですね。それまで通りに仕事や趣味などを続けてもらう方が、治療を継続しやすいので、主治医として相談会があることはとてもありがたいです。

横井 崇 先生

仕事を辞めなくても治療はできる

私自身(福島)は悪性リンパ腫を経験しているのですが、今でこそ、がんと共に働く人は多いものの、以前は「進行がんになると仕事はできない」と思っていました。

私の患者さんもそのように考える方が多いです。がんの告知をすると、患者さんから「仕事は休んだ方がいいですか、辞めた方がいいですか」とよく言われます。けれども、肺がんの場合は抗がん剤治療なら基本的に外来の化学療法室でできますから、仕事を続けられます。抗がん剤治療をするからといって、ずっと病院や家で寝ていなければならない、ということはありません。仮に肺がんの手術で入院したとしても、1週間くらいで退院できますので、その後は普段通りの生活に戻ってもらえます。

がんの告知の時に、仕事を辞めることを考える人があまりにも多いので、治療の説明に入る前にまず、「仕事や趣味など、今まで通りの生活スタイルを続けていいですよ」と患者さんに話すようにしています。患者さんは告知を受けたショックも強いですし、仕事や生活への不安が先に立ちますので、治療内容をちゃんと理解できなくなる可能性があります。ですので、「生活は変わらない」と先に伝えることで安心してもらってから、治療の説明をするようにしています。

外来で抗がん剤治療ができると分かれば、仕事と治療の両立を考えやすいですね。患者さんが働くことは生きがいにもなりますが、体に良い影響を与えるのでしょうか。

私の経験では、仕事をしながら治療する人の方が気が紛れたり、生活基盤があるから考え方がポジティブだったりするので、メンタル面が健全で治療もうまくいくような気がします。抗がん剤治療をするだけの生活になると、夜眠れなかったり、思考がネガティブになったりして、鬱っぽくなる人が多いように感じます。仕事をすると治療継続のモチベーションになりますし、体力も維持できます。

横井 崇 先生

お金や仕事、副作用の悩みは主治医に相談を

患者さんから主治医に、仕事の悩みをうまく相談するコツはありますか。

具体的な仕事の内容を伝えてもらえると嬉しいですね。事務職ならパソコンを使うのかどうか、営業職なら電話営業なのか外での営業活動なのか、車の運転をすることが多いのかなど、具体的に教えてもらえると対応しやすいです。

抗がん剤治療を受けている患者さんが、倦怠感などの副作用が強く出て仕事に行きたくても行けないということがあると思います。そのような時は、治療で使う薬の種類を見直すのでしょうか。

副作用の出方によって、治療薬を検討し直すことはあります。例えば、「車を運転する仕事だから、足にしびれが出ると困る」など、副作用が出ることで業務に支障をきたすのなら言っていただけると、治療薬を変えることはできます。特に肺がんの治療薬は種類が多いので、何かしら問題を解決できる可能性はあると思います。

抗がん剤治療をする患者さんの中には、吐き気など副作用が少し出ただけでそれに捉われてしまう方がいらっしゃいます。副作用を意識しすぎると、どんどん悪いことばかり考えてしまい、治療を拒否する人もいらっしゃいます。一定期間、どうしても副作用が出ることはあるので、「こんなものか」と気楽に構えて、治療を受けていただきたいですね。

治療と仕事のことで悩んでいるがん患者さんに、メッセージをお願いします。

患者さんはお金の問題を主治医には言いにくいようですが、「安価な薬に変えてほしい」といった相談も受けられるので、お金や仕事のことで困っていたら正直に医師や看護師に話してみてください。そして、進行がんの患者さんの治療目的は、今の生活を長く維持することだということを理解してもらいたいです。一定期間、治療を頑張れば済む問題ではないので、仕事の悩みも副作用のつらさも、我慢せずに相談していただければと思います。

(原稿作成 2020年1月)
(更新 2023年8月)