【対談】働き盛り世代のがん患者さんと職場での就労支援を行った方に聞く
対談
働き盛り世代のがん患者さんと
職場での就労支援を行った方に聞く
今や、2人に1人ががんになる時代です。働き盛り世代の方ががんを患った時、「仕事は続けられるのか?辞めた方がいいのか?」「家族や子どもの将来はどうなるのか?」「治療にいくらかかるのか」など不安の種は尽きません。また、経済的な観点や社会的役割の維持のために仕事を続けたいという希望を持つ方も多くいます。
がん患者さんの治療と仕事の両立支援についての考えも徐々に普及し、企業に対応が求められる項目の1つとなっています。がん患者さんが病気について同僚や上司などにどこまで開示するのか、周囲の方はどんなサポートができるのか、企業ごとにルールがある反面、個別性を求められる部分もあり、対応に頭を抱えることも少なくありません。
今回は、働き盛りの世代でがんに罹患した方と、同僚として職場での就労支援を行った経験のある方、専門職として企業の就労支援を行っている方の目線でお話しを伺いました。
※個人的見解を述べているものであり、特定の事柄をアドバイスしたり推奨したりすることを目的としておらず、閲覧者が当該記載事項を意思決定や行動の根拠にしたとしても、小野薬品は一切の責任を負いません。
プロフィール
佐藤 和枝さん(仮名): |
多発性骨髄腫
【治療内容】
【使用した制度】 |
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村田 裕子さん(仮名): |
会社員 |
松本 明美さん(仮名): |
元産業保健師 |
教育費にローンに…金銭面への不安となかなか復職できないもどかしさを抱えた闘病期間
高校1年生と小学校6年生の息子の子育てをしながら介護職に従事していた佐藤さん。がんと診断された時に一番不安に思ったことは、子どもの教育費や住宅ローンといった金銭面でした。また、職場や同僚に申し訳ない気持ちがあり、代わりを立てずに休職ギリギリまで仕事したいという思いから、ご自身の病気や体調のことは同僚にはなるべく話さずに仕事を続けたと言います。
入院、移植治療のために休職し、はじめは「職場に戻りたい、早く戻ろう」と思って治療に向き合いましたが、髄膜炎を併発し入院期間が長くなるにつれて、「休職前のような働き方ができない」、「まだまだ戻れないな」と思っているうちに年月だけが経ち、復職は諦めることになりました。その間、休職制度や奨学金など使用できる制度を使いながら子どもの教育費にあてていたといいます。
がん患者さんと一緒に働いた経験をもつ村田さんは、金銭面に対する不安からがん患者さんが無理して働いてしまうところがあるという状況に触れ、企業の保健師として、働き盛り世代のがん患者さんをサポートしてきた松本さんも、「ご自身の病気よりも家族やお金、職場に迷惑をかけないようにという気持ちが強いですが、使える制度は全部使って、自分を第一優先にして治療を始めて欲しい」と強調しました。
がん患者さんと一緒に並走したい…職場全体でのサポート体制構築が重要
村田さんの同僚はがんであることを職場には公表せずに仕事を続けていました。同僚の方に仕事を続けて欲しいという思いと、無理なく働けるように属人化している業務は引き継げるようにしたいという思いから、業務整備に励んだそうです。しかし、治療に伴う痛みなどから同僚であるがん患者さんの感情の起伏が激しい時もあり、それに影響を受ける自身の感情をコントロールすることが特に大変だったと語ります。それでも村田さんは、同僚の「しんどい」という気持ちを受け止め、一緒に並走したいと思い、医療従事者や緩和ケアの看護師に相談していました。
“自分にしかできない業務”と思うと人はストレスを感じてしまう、相談できるような人間関係づくりと誰がやってもできるような仕事の標準化は、企業が行う大事な仕組みづくりだと松本さんは話します。また、「がん患者さんにかかわらず、誰でもしんどいと感じることがある、そんなときにサポートしている方も含めてどこでも相談できる、しんどい時にしんどいと言える職場環境があるといい」とアドバイスをしました。そのために管理職を巻き込んで、職場全体でケアを行うことの重要性を述べました。
職場全体で、病気に対して理解を示しサポートできるような社内研修やフロー図などがあると、疾病を持つ労働者が穏やかな気持ちで過ごせ、気兼ねなく勤務できるのではないか、と村田さんも話します。がん患者さんの立場からも、サポートしてくれる方が相談できる状況が整っていれば、がん患者さんも気軽に相談できるような気がすると佐藤さんは期待を示しました。
また、松本さんは疾病を抱える方に向けて、どんな小さなことでも見通しを立てることが気持ちの負担を軽減できるとアドバイスを送っています。具体的な方法としては、ご自身のスケジュールでわかっているものは、すべて職場へ伝えたり、仕事内容の見通しを職場内で共有したりすることだそうです。
状況に応じた仕事を、病気のことをすべて打ち明けた再就職
多発性骨髄腫の治療を経て、4年前に現在の仕事に再就職した佐藤さん。休職期間が長くなり、再発するかもしれない自分を雇ってくれる企業なんてないんじゃないかと、不安な気持ちで就職活動を始めたと言います。がんと付き合いながら仕事ができるよう、現在の職場には治療状況などをすべて話したことで、受診や急な体調不良の際も他の方がフォローできる体制になっており安心して働けていると言います。
また、現在は企業にも『治療と仕事の両立支援』に関する考えが普及してきており、企業側は業務内容の開示、主治医は治療に関する情報と業務に関する意見のやり取りができる様式があります。それに則って業務の調整を行うことも企業に推奨されています。実際に、産業医や産業保健師といった専門職からアドバイスをもらえる環境があると、がん患者さんがよりがん治療と仕事の両立のしやすい職場環境の構築につながるとされています。
治療しながら働く人を応援する情報ポータルサイト 治療と仕事の両立支援ナビ(2024年10月閲覧)
事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン/厚生労働省(PDF)(2024年10月閲覧)
治療と仕事の両立支援関係様式 様式例
※治療と仕事の両立支援のための情報のやりとりを行う際に活用できる書類の一例です。
がん相談支援センターを探す (2024年10月閲覧)
※仕事の継続・再就職など就労支援に関する相談は、がん相談支援センターで相談が可能です。
無理しすぎず、我慢しすぎず、周りの方への感謝を忘れずに、治療と仕事を長く両立させていってください。
働きたいのに一歩踏み出せない人は、自分もまだやれる!と前向きに気持ちをもって頑張っていただきたいです。
仕事を辞めてしまうと、お金の縁も切れてしまうので、慌てて仕事を辞めないでください。そして、社会資源がもっと豊かになるのを願う一方、患者のみなさんには使えるものを貪欲に使ってください。
一人で悩まずに人に相談するということを忘れないで欲しいです。
どうしても通院や体調不良で負担をかけてしまうこともあると思います。しかし、みんなで支えあうのが当然だという気持ちに素直になれるような会社の風土作りをお願いたいです。
いつ誰が、働けなくなるどんなリスクを背負うかわかりません。自分だけは大丈夫ではなく、支援を必要としている方に手を差し伸べられるような環境が整う社会になれば一番いいなと思っています。
病気を持っていようがいまいが、気持ちがしんどい時もあり、人生には波がたくさんあります。そういった波を穏やかに過ごせるような社会になっていってくれればいいなと思います。
(2024年11月作成)