【対談】小児がんの親子と小児がんの子どもの支援を行った学校関係者に聞く

対談

小児がんの親子と
小児がんの子どもの支援を行った学校関係者に聞く

がん患者さん
がん患者さん 石嶋 壮真 さん
がん患者さんの母
がん患者さんの母 石嶋 瑞穂 さん
小学校教諭
小学校教諭 高島 由美 さん(仮名)

小児がんとは、15歳未満の子どもに発生する悪性腫瘍の総称を指します。日本では年間2,000~2,300人程度が小児がんに罹患します1)。小児がんは、早期発見が難しく、薬物療法や放射線療法などの合併症への対応や経過観察が長期間にわたることもあります。そのため、長期的に休学したり、学校生活に制限が生じたり、勉強の遅れ、友達とのコミュニケーション、周りの子との見た目の違いに悩み、不安を感じたりします。小児がんの子どもとその家族がどのように病気を受容していったのか、受け入れる学校側はどのような支援を行ったのかなどを伺いました。

1)小児がんの患者数(がん統計)/がん情報サービス

個人的見解を述べているものであり、特定の事柄をアドバイスしたり推奨したりすることを目的としておらず、閲覧者が当該記載事項を意思決定や行動の根拠にしたとしても、小野薬品は一切の責任を負いません。

プロフィール

石嶋 壮真さん:

高校1年生 急性リンパ性白血病
【経過】
小学校2年生の時、足の痛みに対して検査を行い
急性リンパ性白血病と診断される
抗がん剤治療を行い、小学校3年生の2学期から復学
その後は再発なく現在も寛解を維持

石嶋 瑞穂さん:

壮真さんの母
壮真さんの経験を基にアピアランスや
家族のQOLの向上を目的とした法人を運営している

高島 由美さん(仮名):

小学校教諭
小児がん(小学校1年生)の子どもの担任となる
小学校2年生の時に手術のため入院
2つ下の弟の担任となり兄弟ケアも行った

予想もしていなかった「白血病」の診断と突然の長期入院

壮真さんが白血病と診断されたのは小学校2年生のある日。足の痛みや発熱がありましたが、子どもゆえに大げさに訴えているだけだと、母瑞穂さんは気にも留めていませんでした。本人を納得させるために「やれる検査は全部してください」と検査をしてもらったところ、急性リンパ性白血病と診断され入院することに。瑞穂さんは当時を振り返り、申し訳ない気持ちでいっぱいだったと話します。

入院期間は約1年。入院当初、病名は告げられず、症状が落ち着いたらすぐに退院するものだと思っていた壮真さん。「がん」というのは大人がかかる病気だと思っていたため、自分が小児がんだとは思いもよらなかったと言います。しかし、入院が長期化し、周りで抗がん剤治療をしている子ども達の姿を見て、自分もがんなのかもしれないと思い始め、母親に尋ねました。それをきっかけに、瑞穂さんと医療従事者で相談し、瑞穂さんから告知をすることになりました。告知をされた際、壮真さんはがん=死ぬ病気という認識だったため、「死にたくない、治療を頑張ろう」と思えたと振り返ります。そこからは自分の治療に興味を持ち、薬剤師さんに薬の作用や副作用、投薬のタイミングなどをアニメの柄などを入れてわかりやすく説明してもらい、主体的に治療に取り組みました。

また、入院当初は院内学級に対して抵抗感のあった壮真さんですが、この告知を機にこれまで通っていた学校の代わりに入院中に通う学校だと院内学級について理解を示し、体調に合わせて先生と二人三脚で勉強に励むようになりました。

学校に戻ってきた時に困らないように…保護者の意向を確認しながら行った支援

高島さんが担任した小児がんのお子さんは、入学前からすでに診断がついていたため、入学後すぐに保護者と面談を行い、クラスメイトへ病気のことをどこまで開示するか、どんな支援が必要かを確認するところから始まりました。まだ低学年の児童が「小児がん」という言葉をどう受け止められるかわからない、その言葉を広めていいか迷うという葛藤が保護者にもあり、病名は開示せずに「病気がある」ことのみを子ども達に伝えたと言います。

入院中も保護者と連絡を取り、継続的に支援を行ってきた高島さんは「病気のことに関しては保護者の要望を受けてどういう支援ができるかを考えるのが学校の仕事。学校に戻ってきた時に困らないように学校関係者、保護者の方とよく話し合っていました」と話します。具体的なサポートとして、入院によって勉強ができなくなり、成績が落ちるのではないかと心配していた保護者に対し、あらかじめ年間の授業計画を渡し、どの程度の学力が身についていれば困らないかを示しました。一方で、一番重要なこととして「入院中に成績が落ちたとしても復学後に取り返せるので、まずは体を最優先に治療に取り組んでほしい」と強調しました。

見た目も変わり、体力もない…スモールステップを積み重ね復学へ

退院が決まった時、壮真さんは治療の副作用で脱毛と顔のむくみが生じており、「友達から見た目で何て言われるんだろう」と不安で、復学に前向きになれなかったと言います。すぐに元の小学校には戻らず、院内学級の先生が自宅まで来て勉強をサポートしてくれました。その後、院内学級の先生、元の小学校の先生が協議し、壮真さんと瑞穂さんの要望も取り入れて、約半年かけて復学にいたりました。

体力がかなり落ちていた壮真さんは、長時間座っているのもつらい状況で、1日を通して授業を受けることができませんでした。まずは友達と給食を食べること、授業1コマだけ座って受けることといったスモールステップを積み重ねていきました。復学時、壮真さんはまだ小学3年生であり、「何がしんどい」「どのくらいしんどい」ということを言語化するのが難しかったため、瑞穂さんは壮真さんの気持ちを汲み取り、他者へ伝達することに苦労したと当時を振り返ります。

日々子どもと接する高島さんは、自分から助けてと表出できない子どもを見逃さないために「大丈夫?」「どうしたの?」「よくできているね」など、どんな形でも必ず一言声をかけてあげることが重要だと話します。また、病気を抱えた子どもを支援する教員という立場から、戻ってくる子どもが望んでいること、周りの友達に知っておいてほしいこと、どんな支援が必要かということを子ども本人と保護者から聞くことが支援の第一歩だと考えています。

小学校中学年、高学年と子どもの年齢が上がると仲間意識が強く芽生え、周りの友達が受け入れられる事象や受け入れられない事象が生じてきます。子どもの発達段階を踏まえ、周りの友達に伝える情報を小児がんの子ども本人と保護者と学校で協議することの大切さにも高島さんは触れました。

友人関係の再構築、勉強の遅れ…多くの負担を周囲の力で軽くするサポートを

復学してしばらくは体調を見ながら勉強をセーブしてもらっていた壮真さん。しかし、高学年になった時には自ら遅れを自覚し、危機感を抱いたと言います。放課後、先生が一緒に残って復習をしてくれたのは、必要なサポートだったと話します。

復学当初は元のコミュニティに戻ることに奮闘していた壮真さん。そんな壮真さんを傍で見てきた瑞穂さんは「勉強が遅れちゃっている、運動が遅れちゃっている、友達とのコミュニケーションもやらないといけない。頑張るところが多すぎるんです」と小学生ながらに日々気を遣って過ごす子どもの大変さを強調し、少しでも負担が軽くなるように周りの支援者が手を差し伸べることも必要なサポートだと締めくくりました。

がん患者さん
~小児がんの親子の方へ~
自分の思っていることを単語だけでもいいから周りの信用できる人に伝えていってください。
小学校教諭
~小児がんの親子の方へ~
望んでいることがわからないとできないこともあるので、やってほしいことやサポートしてほしいことを遠慮せず周りの大人に話してください。
がん患者さんの母
~小児がんの親子の方へ~
小児がんの子どもを支えるご両親は頑張り過ぎないようにしてください。ボーダーを越えてしまうので、まずは自分のケアをしてください。
小学校教諭
~小児がん子どもの支援者の方へ~
小学生は自分の気持ちをうまく言葉にできないことも多いので、日々の様子と違うことがあればどんな子にも声をかけてください。また、保護者ともよく連絡を取ってほしいです。
がん患者さん
~小児がん子どもの支援者の方へ~
自分の思いはたわいもない話から出てくるので、学校の先生や親御さんには普段の会話を大切にしてほしいと思います。
がん患者さんの母
~小児がん子どもの支援者の方へ~
特別扱いをされると当事者は疲れてしまいます。変に気を遣うのではなく、雑談ができる距離感で適切にコミュニティに混ぜてほしいと感じます。
【ご紹介】

チャーミングケア
今回体験談をお話しくださった石嶋瑞穂さんが運営しているチャーミングケアでは、子どもの病気と寄り添ってきた家族の体験やニーズから生まれた医療ケアグッズや情報を発信しています。

(2025年1月作成)