ドクターショッピングとは、次々に病院を変えることをいいます
改めて「ドクターショッピング」とは何かを考えてみましょう。ドクターショッピングとは「一つ目の病院の診察に満足がいかず、二つ目の病院へ行ったけれど同じようなことを言われ、また別の病院へ行く」という行動をくり返すことをいいます。“何かもっとよい治療法があるはずだ”と、根拠のない思い込みのもと、理想の治療法を示してくれる医者を探し求めた結果、何軒まわっても不満足なまま時間とお金を浪費することになります。
日本の医療保険制度はフリーアクセス、国民皆保険が原則なので、いつでも、誰でも、どこの病院でも所得に見合った費用で受診できます。極端なことをいえば一つの病気について、10件、20件と医療機関を渡り歩いて受診し続けることができるのです。しかし、病院を何度も変えることで診療情報が一つの病院に蓄積されず、症状の変化がわからなくなるといったデメリットも生じます。
ドクターショッピングとセカンドオピニオンの違い
「自分が納得する治療を受けるために意見をもらうのだから、セカンドオピニオンもドクターショッピングも同じでしょう?」と思う方もいるでしょう。確かに複数の医師の意見を聞くという面では同じように見えるかもしれません。しかし、大きな違いがあります。
まず、セカンドオピニオンは主治医の「第一の意見」を別の視点からも検討し、患者さんにとってより納得のいく、最善の治療法を選択するためのものです。これに対してドクターショッピングは、患者さん自身が期待する治療法を勧める「理想の医師を探す」という側面が大きいようです。そのため理想の医師を求め続けるうちに時間が経ち、適切な治療を受ける機会を逃しかねません。
また、セカンドオピニオンでは医師間で診療情報をやり取りし、そのうえで「第二の意見」を聞いて、改めて主治医と患者さんで治療方針を話し合いますが、ドクターショッピングではこのようなことがありません。最終的に個々に情報や意見が集まるだけで、何が自分にとって最善の治療なのかわからないままになります。
これらがドクターショッピングをお勧めできない理由です。
医師のどこに不満や不信感があるのか、自分に問いかけてみましょう
がん治療とは違う領域ですが、慢性的な痛みを抱えている方はドクターショッピングに陥りやすいことが知られています。
痛みは原因不明なことが多く、個人差もあるため「薬が効くまで耐えるしかない」「あとは心の持ちようだ」と心ない言葉を口にする医療者もいるようです。患者さんは痛みから解放してくれる医師を求め、文字通り死にもの狂いでドクターショッピングを続けます。こうした必死の行動を第三者が責めることはできません。
一方、興味深いことにようやく信頼できる医師と巡り会えた方は異口同音に「痛みを否定しない先生に出会えた」「一緒に頑張りましょう、と言ってもらえた」と痛みの治療そのものよりも、医師の言葉や態度に救われたと言います。なかには理解と共感を示す医師と出会えたことで「痛みが消えたり軽くなったりしたわけではないけれど、痛みを受け入れながら生活できるようになった」という方もいます。
もし、あなたがドクターショッピングに陥っているなら、医師のどこに不満や不信感があるのか、がんという病気を受け入れられているのか自分の心に問いかけてみましょう。ドクターショッピングの背後には、あなたにしかわからない何かしらの意味があるはずです。
同じ悩みをくぐり抜けてきた患者さんの会や、精神腫瘍科で話を聞いてもらってもよいでしょう。ドクターショッピングで治療のタイミングを逃すことだけは、どうか避けてほしいと思います。
- 監修:
- 埼玉医科大学国際医療センター 包括的がんセンター 精神腫瘍科
教授 大西 秀樹 先生