治療

身体機能の喪失
~皆さまへ~

ボディイメージが変わる苦しみ

ボディイメージは、自分自身が無意識のうちに持っている「私の身体」についてのイメージ(身体像)を指し、自我が芽生えた子どもの頃から身体の成長や経験、他者のまなざしや社会的な価値観に影響を受けて形成し、変化をし続けます。

このため、手術や放射線治療、薬物療法などによって外見が変わり、ボディイメージの変化が強いられるとすぐには受け入れられず、「自分が自分ではなくなる」といった不安や、「これがこれから続く」といった絶望などの辛い気持ちが生じます。

思うようにできなくなったことで生まれる苦しみ

ボディイメージの変化に直面したとき、多くの人は動揺して抑うつ的になったり、「身体の一部を失うくらいなら、死んだ方がましだ」と医療者や身近な人に怒りをぶつけたりすることがあります。それでも治療の真っ最中は、治療のことで頭がいっぱいで、心の痛みについて考える余裕はないでしょう。

しかし、治療やリハビリテーションを終えて日常生活に戻ったとき、否応(いやおう)なく以前とは違う自分自身と向き合うことになります。喉頭を摘出して声を失ったある患者さんは、久しぶりの一家団らんで思うようにコミュニケーションがとれず、「強烈なもどかしさと情けなさがこみ上げてきました」と打ち明けてくれました。身体の機能を失ったときの心の痛みや苦しみは、この状況がずっと続くのかという絶望感が生み出すのかもしれません。

あなたの気持ちに寄り添ってくれる人を見つけましょう

「失ったものは仕方がない。1日も早く、この身体を受け入れなくちゃ」と考える必要はありません。第一、そんなに簡単に「受容」できるものでもありません。

身体機能の喪失と折り合いをつけるには、患者さんが感じる否定的な気持ちを黙って聞いてくれる“誰か”が必要です。それは家族やパートナーかもしれませんし、リハビリテーションを一緒に行う仲間や同じ経験をしている患者会の友人かもしれません。医療相談室のスタッフやサイコオンコロジスト(精神腫瘍医)といった専門家にも相談しましょう。特に疲れる、夜眠れない、食欲がない、何もしていないのに涙が出るなど、気持ちが落ち込むときは、ぜひサイコオンコロジストに話してください。誰かが寄り添ってくれる安心感は、確実に自分自身と向き合う力になります。

〇〇が辛い、悲しい
監修:
国立がん研究センター東病院 精神腫瘍科
科長 小川 朝生 先生

(2023年4月作成)

身体機能の喪失