納得して治療法を選ぶことができた患者さん
~54歳男性の場合~

Dさん:54歳 男性 尿管がん
妻と1男1女の家族がいる。製造業に勤務。持病でこれまでに何度も入退院の経験がある。

長男の結婚式を間近に控え、孫の誕生にも思いをはせていた2019年(51歳)、右下腹部痛から尿管がんが発覚。主治医の説明に納得し、自ら選んだ全摘手術。食事制限や手術後の痛みと戦いながらも、後悔はなかった日々を語っていただきました。

54歳男性

ペイシェントジャーニー

ペイシェントジャーニー

【がん発覚】いつかはと思ってはいたが…

がんが見つかったときのことを教えてください。

Dさん:私は小さい頃から持病の腸閉塞に悩まされており、何度も入院を経験しています。51歳の時、右の下腹部が痛いと気づいたのですが、いつもの腸閉塞の痛みとは違う感じがしました。かかりつけのクリニックで勧められ、大病院の泌尿器科で精密検査を受けたところ、右の尿管にがんが見つかったのです。日本人の2人に1人ががんになる時代なので、私もきっといつかはがんになる日が来るのだろうとは思っていました。でも、50代に入ってすぐというのはあまりにも早いとショックを受けました。妻が泣く姿を見て私も気持ちが落ち込んでしまい、もともと心配性なので悪い方へばかり想像がふくらんでしまいました。実は、がん告知を受けたとき、長男の結婚式が1ヶ月後に控えていたのです。ゆくゆくは孫の成長も見られると思い楽しみにしていた矢先の告知でした。妻とも相談して、結婚式が終わるまでは夫婦2人だけの秘密にしておくことにしました。その間下腹部痛を取るための治療を受けながら仕事を続けていました。

国立がん研究センターがん情報サービス https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

【治療法決定】全摘手術を選択

主治医からはどのような治療法が提案されたのですか。

Dさん:外科手術で、右側の尿管から腎臓までをすべて切除するという説明がありました。初めての開腹手術であること、左右2つあるべき臓器が片方だけになることが不安でしたので、インターネットで調べては先生に質問をしていました。
片方の腎臓を摘出すると、もう片方の腎臓に負担をかけないための食事療法が必要になることがわかりました。正直なところ、食事制限はいやでした。しかし、がんの再発リスクを下げるためには先生のご意見に従うべきだろうと思い、全摘手術を選択しました。全摘手術の場合、術後どのくらいで社会復帰できるかが一番気になりました。「早ければ手術の次の日にベッドから立ち上がれる人もいるし、歩ける人もいます。あなたご自身のがんばり次第です。私たちの方でもしっかりサポートをします」という先生の言葉に勇気づけられ、「この先生にお任せすればなんとかなる、がんばろう」と思いました。

先生に積極的に質問するイラスト

【手術前】家族の動揺を目の当たりに…

治療方法が決まってから、手術まではどのくらいの期間があったのですか。

Dさん:1ヶ月ほどでした。具体的な手術日を聞いて「そんなに先なのか」と驚きました。でも、いま振り返って考えると、その間にいろいろと考える時間ができたことはよかったと思います。長男の結婚式も無事終わり、子どもたちと両親に手術を受けることを伝えました。妻の両親は動揺が激しく、その場で大泣きしていました。家族にこんな思いをさせるのは申し訳ない気持ちになってしまいました。

【手術後】歩けない自分に落ち込む

手術後の経過はいかがでしたか。

Dさん:麻酔から覚めたらすべて終わっていました。 主治医の先生が「がんだけでなく周辺の脂肪なども広く切除したので、ほぼ大丈夫」と自信のある口調で言ってくださったのでとても安心したことを覚えています。ただ、手術後の痛みは想像以上で、立つことはおろか、最初は体を起こすことすらできませんでした。「次の日に立てる人もいるのに、こんなにがんばれない自分は大丈夫なのか」と落ち込みました。

食事療法は現在も続けておられますか。やってみていかがでしょうか。

Dさん:説明を聞いたときは厳しそうだと思ったのですが、実際にやってみるとそれほど難しいことはありませんでした。大事なのは塩分を取り過ぎないようにし、カリウムの摂取を控えることだそうです。私の好きな野菜ジュースはカリウム含有量が多いということで飲めなくなってしまったのは残念でした。退院直後はかなり食事に気をつけていましたが、術後4年が過ぎ、最近はたまにコンビニのお弁当を食べたりしています。今のところ腎機能の数値は悪化せずに済んでいますが、腎臓への負担が蓄積しないように気をつけています。

【現在】 痛みが残ったが再発はなく、治療にはほぼ満足

退院後、どのくらいでお仕事に復帰されたのですか。

Dさん:退院後1ヶ月で復職はできたのですが、仕事は思ったようにできませんでした。右下腹部に神経痛が残ったのです。主治医の先生に聞くと「切除した範囲が広い分、神経を傷めたのかもしれない」とのことでした。仕事中でも、痛みがくると 1、2分程じっと耐えていました。たびたび仕事を中断せざるを得ない状況が続き、同僚や上司など周りの理解が得られず、休職から最終的には退職することになりました。今も、月1回のペインクリニック通院を続けています。この痛みが残ったことは残念ですが、納得して自分で選んだ治療法ですし、主治医の先生にはがんが疑われる場所をくまなく取ったと説明していただけているので、先生を恨む気持ちはありません。まもなく、がん治癒の一つの目安と言われる手術後5年になりますが、再発もなく、画像ではがんが疑われる要素はない状態なので、治療にはほぼ満足しています。

最後にがん患者さんへのメッセージをお願いします。

Dさん:がんと診断された方はいろいろな心配をされるかと思いますが、医師はプロであり、多くの経験があるので、患者である自分がすべてを把握しておかないといけないということはありません。不安な点はしっかり医師に質問した上で、医師の判断にお任せすることも大切だと思います。がんになると悪いことばかり考えがちですが、心配しすぎが体に負担になるようではよくありません。あまり心配しすぎずに治療を受けていただけたらと思います。

54歳男性のイラスト

どうもありがとうございました。

【監修医・上村博司先生からのコメント】

監修医・上村博司先生

上村 博司 先生
横浜市立大学附属市民総合医療センター 泌尿器・腎移植科 診療教授

Dさんは、提示された治療法について不安や疑問に思ったことを主治医に確認し、納得した上で全摘手術を受けられました。素晴らしいことです。残念ながら手術後に痛みが残ったとのことですが、がんの再発は無く、自ら選んだ治療に満足されております。昨今、さまざまな医療分野でSDM(Shared decision making:共同意思決定)という考え方が取り入れられており、がん診療でも広がりつつあります。従来は医師が患者さんの同意を得ながら治療法を決めていったのに対し、SDMでは患者さんと医師・医療者が協力して最善の治療法を一緒に決めていきます。不安や自分の思いを一人で抱え込まずに、あなた自身の価値観や治療に望むことなどを医師・医療者に伝えることは、とても大切なことです。ぜひ伝えていただきたいと思います。

(2023年10月作成)