【対談】高齢がん患者さんのご家族と医療ソーシャルワーカーに聞く

対談

高齢がん患者さんのご家族と
医療ソーシャルワーカーに聞く

がん患者さんのご家族

がん患者さんのご家族

大島 一貴 さん 幸子 さん(仮名)
カウンセラー
ソーシャルワーカー 坂本 はと恵 さん

がんに罹患している方の約75%は65歳以上の高齢者であり、75歳以上でも約45%を占めます1)。また、75歳以上の後期高齢者の約64%は2つ以上の慢性疾患を抱えており2)、中には認知症や脳卒中などの疾患による介護を要する方もいらっしゃいます。

こうしたご高齢患者さんのがん治療や介護にかかわるご家族、そして医療関係者の方々はどのような悩みや課題を感じ、日々患者さんと向き合っているのでしょうか。

今回は、認知症と前立腺がんを併発している患者さんを介護するご家族と、がん患者さんとご家族のサポートを行うがん相談支援センターの医療ソーシャルワーカーの方に、お話しを伺いました。

個人的見解を述べているものであり、特定の事柄をアドバイスしたり推奨したりすることを目的としておらず、閲覧者が当該記載事項を意思決定や行動の根拠にしたとしても、小野薬品は一切の責任を負いません。

1) 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録). 全国がん罹患データ(2016年~2019年)
2) 厚生労働省保険局.高齢者医療の現状などについて(参考資料)(平成28年5月26日) 

プロフィール

大島 幸子さん・一貴さん(仮名):

父親:90代 前立腺がん
2013年 認知症を発症
2023年 前立腺がんステージIVが発覚
現在は前立腺がんの治療で3~6カ月ごとに通院、認知症の治療で3カ月に1回通院中
父親は姉と実家で同居中、週の大半は大島さんご夫婦も通い、二拠点生活を送る

坂本 はと恵さん:

国立がん研究センター東病院
サポーティブケアセンター副サポーティブケアセンター長
医療ソーシャルワーカー・がん専門相談員

「治療できない」にショックも、セカンドオピニオンを経て納得

幸子さんのお父さんは、10年前に認知症の診断を受けました。当時はお姉さんとお父さんの二人暮らしでしたが、徐々に認知症が進行し、日常生活を含めサポートが必要となったため、大島さん夫婦は、お父さんの介護のため、週の半分を実家で過ごしていました。

前立腺がんの診断時、お父さんの認知症は進行しており、「がん」と言われても分からない状態でした。医師からは、90代という高齢のため手術のリスクも高く「もう治療ができない」と言われたこともショックを受けたといいます。しかし、セカンドオピニオンを受け、他の医師からも同様の見解を示されたことで、納得して治療に向かうことができたそうです。

家族で役割分担、チームで臨むがん治療と介護

現在、通院時には家族内で役割分担を行っているという大島さんご家族。幸子さんは医師との受け答えを行い、一貴さんはその記録を取りつつ幸子さんをサポート。そしてお姉さんはお父さんの車いすを押したり、診察室外で一緒に待機するなど、「3人それぞれの得意分野を活かしながら、お互いに補うことができている。助け合える家族がいて本当に幸せだなって思っています」と一貴さんは話します。

現在、お父さんの介護度は要介護5。がん治療で使用している薬剤の影響で骨折しやすいため、転倒には細心の注意を払っています。お父さんが1人で歩き回ることがないよう、朝型のお姉さんと夜型の幸子さんで常に目が行き届く環境を作っているといいます。

使用している介護サービスは、10年前に認知症発症時に取り付けた手すりと電動ベッドのみ。要介護認定を取得して間もなくは、デイサービスにお父さんを連れて行こうとしましたが、2時間ともたなかったといいます。幸子さんとお姉さんはケアマネジャーに相談しましたが、一貴さんの「無理に行かせなくてもいいんじゃないの?」という一言にはっとして、全面的に在宅で介護することを選びました。

「定年で退職しているので。これが10年前だったら、同じくらい介護に時間を割けたかというとわからないですね」と話す一貴さん。坂本さんは、がん患者さんやご家族自身の状況が変わったときには、早めにケアマネジャーに相談しながら体制を考えること、介護に対する気持ちが変わった時は周りに知らせることが大切、と語りました。

いつでもだれでも立ち寄れるがん相談支援センターの活用を

大島さん家族は、お父さんががんと診断され、在宅介護を行う中でさまざまな悩みにぶつかったといいます。その悩みは金銭的なことから肉体的なことまで、多岐にわたったことから、どのタイミングでどんな相談をしていいのかが分からず、がん相談支援センターを活用できなかったそうです。

がん相談支援センターは、診断時のみではなく、治療中含め、不安なことや疑問点があればいつでも立ち寄ることができる場所です。坂本さんは「患者さんやご家族が安心して受診すること、そしてその積み重ねが安心して納得して治療を受けることにつながるので、積極的に活用してほしい」と話します。

がん相談支援センターは匿名での相談も受け付けています。

また、大島さん家族は情報収集にも苦労したといいます。そのアドバイスとして、坂本さんは「国立がん研究センターが作っている(ウェブサイトの)『がん情報サービス』をよりどころにしてほしい」と語るとともに、学会が発行するガイドラインや患者さん向けのガイドラインなど、出所が確かな情報を参考にするよう強調。そして、「情報に繋がり、人に繋がり、その後どのように動くのかは、やはり人と人とで会話をしながら、作戦会議をしてお手伝いをします」と語りました。

高齢がん患者さん
~高齢がん患者さんのご家族へ~
我が家では、役割を分担して、協力しながらその時目の前に起こっている問題を一つ一つ解決して進んでいます。
ずっと先まで見通して完璧なことをやろうとしても、結局自分がパンクしてしまう、とにかく完璧を目指さずに、いい意味での適当で介護を行っていってください。
ソーシャルワーカーイラスト
~高齢がん患者さんのご家族へ~
がんの告知、その後の治療中など、がん患者さんもご家族も混乱するときがあると思います。そういう時こそ、がん相談支援センターに立ち寄って話をしてください。一緒に考えましょう。いつでもお待ちしています。

(2024年9月作成)