【対談】ヤングケアラー経験者とスクールソーシャルワーカーに聞く

対談

ヤングケアラー経験者と
スクールソーシャルワーカーに聞く

ヤングケアラーイラスト
ヤングケアラー経験者 野口 詩織 さん(仮名)
カウンセラー画像
ソーシャルワーカー 田中 陽子 さん(仮名)

学業や部活動などで忙しい日々を過ごす中学生・高校生。ある日、家族ががんと診断され、家事や患者さんの生活のサポート、幼い弟や妹の世話などを余儀なくされる「ヤングケアラー」が存在します。日常生活や交友関係、進路などにも影響するヤングケアラーとしての役割に、彼ら彼女らは悩み、孤独な想いを抱えています。そんな経験をしたヤングケアラー当事者と、彼ら彼女らを支えるスクールソーシャルワーカーの方に、当時の気持ちや好ましいサポートの在り方について、お話を伺いました。

個人的見解を述べているものであり、特定の事柄をアドバイスしたり推奨したりすることを目的としておらず、閲覧者が当該記載事項を意思決定や行動の根拠にしたとしても、小野薬品は一切の責任を負いません。

プロフィール

野口 詩織さん(仮名):

現在20代 女性 ヤングケアラー経験者
中学2年生~3年生 祖母が大腸がんに罹患
高校2年生~3年生 母親が胃がんに罹患
当時、祖父母・母・兄と同居、父は単身赴任

田中 陽子さん(仮名):

スクールソーシャルワーカー・元小学校教諭
中学2年生~大学4年生 ヤングケアラーの経験あり

受験と重なった祖母・母のがん罹患、家事を一手に引き受けることに

野口さんの祖母と母親ががんと診断されたのは、高校受験、大学受験をそれぞれ控えていたころ。父親は単身赴任であったため、学業と両立して家事を一手に引き受けることになりました。

スケジュール

04:00

起床
その後、2時間勉強

学校イラスト

07:00

登校
授業・自習時間を含めて学校で勉強

18:00
19:00

下校

買い物イラスト

20:00

夕飯の買い物、家族のご飯をつくる
お風呂、掃除、洗濯

23:00

就寝

勉強と家事に追われ、睡眠時間は4時間程度。休日は平日の疲れから寝て過ごすことが多く、友達と遊んだ記憶はなく、今後の人生に対する不安や絶望感を強く覚えたといいます。

こうした子どもたちの中には、「家事が自分の役割」「お手伝いだから当たり前」という意識もあり、ヤングケアラーという自覚を持っていない子どもも多く、水面下には相当数のヤングケアラーがいるのではないか、とスクールソーシャルワーカーの田中さんは話します。

みんなとは違う、つらかった高校時代

同級生は両親が学校行事への参加や送り迎えをすることが多いなか、野口さんの場合は、祖母が闘病中の母親の代わりに学校行事に来るなどのサポートをしてくれていました。しかし周りから「母親がいない子」と思われ、悲しい思いをすることもあったと振り返ります。また、学校には、個別に話を聞いてくれる先生もいましたが「自分の気持ちは当事者でないと分からない」と、素直に受け入れられませんでした。

進路に関しては、経済的負担を減らすこと、母親に何かあったときに対応できることを優先。大学進学から短大へ変更しました。

多感な思春期に悩みを抱えるヤングケアラー。自身が困難に感じていることを相手に伝え、要望を示す“相談力”を持つことについて、田中さんは「ものすごい高等技術」と、その難しさを指摘します。

子どもたちが孤立しないよう、子どもたちが出す小さなサインに気づけるよう、教職員や地域の方が温かく見守り、日頃から「元気?」などと声を掛けることが重要と語りました。

結婚を経て報われた過去、修復された母親との関係

学生時代、自分の気持ちを伝えたり、甘えたりすることができなかった野口さん。成人、結婚を経たことで、感情を人に話し、甘えることができるようになり、母親に対する気持ちが変わったといいます。

現在では、自身ががんになって一番つらい時期に、子どものことを想い続けてくれた母親へ、感謝の気持ちを伝えられたといいます。また、母親との関係が修復できたことで、過去の自分も許すことが出来たそうです。

具体的かつ適切な情報提供を、寄り添う気持ちで

ヤングケアラーとして日々を精一杯過ごしていた学生時代。野口さんは、言葉よりも日々の生活を助けてくれる機関やサービス、精神的なサポートをしてくれる相談機関など、具体的なアドバイスをもらいたかった、と当時を振り返ります。

田中さんも自身がヤングケアラーであった学生時代を振り返り、当事者にしか分からない「かけてほしくない言葉」があったといいます。その経験を活かし、スクールソーシャルワーカーとして関わる思春期の子どもたちには、言いにくい気持ちを伝えてくれることに感謝し、子どもと寄り添うこと、そして適切な情報提供を心がけているそうです。

ヤングケアラーイラスト
~ヤングケアラーの子どもたちへ~
もう十分に頑張っているから、気を張って頑張らなくていいよと伝えたいです。支えてくれる大人もきっとたくさんいるので、つらい時はつらいと発信してどんどん頼ってください。
カウンセラーイラスト
~ヤングケアラーの子どもたちへ~
言いにくいことを伝えてくれてありがとうございます。
とにかく諦めないで周りの大人、誰かを頼ってください。
ヤングケアラーイラスト
~周りの大人の方へ~
頑張っている子どもたちをさらに追い詰めないように、普段の生活状況に目を配って気付いてあげてほしいです。
学校が支援のロードマップを準備して困っている子どもたちを迅速にサポートしてあげてください。
カウンセラーイラスト
~周りの大人の方へ~
小さなサインを見逃さないアンテナを一緒に培っていきましょう。
子どもが心を開くようなコミュニケーションが非常に大事だと思います。
【参考】

ヤングケアラー協会 https://youngcarerjapan.com/for-youngcarer/(閲覧日2024年8月26日)

(2024年10月作成)