再発後の治療

精神的な苦痛への対処
~皆さまへ~

がん患者さんには身体的、社会的、精神的、スピリチュアルな苦痛があります1)

緩和ケアでは患者さんの「苦痛」を4つの視点でみることがあります。1つはがんの痛みや治療の副作用などから生じる「身体的な苦痛」、そして仕事が続けられなくなったり、経済的な問題や家族間の変化などから生じる「社会的な苦痛」、がんの進行を気にしたり、愛する人との別れの予感やがんの痛みに対する恐れから生じる抑うつや不安、苛立ち、怒り、恐怖、孤独感といった感情にさいなまれる「精神的な苦痛」、最後に、がんになることで生きる意味や目的が脅かされ、「自分の人生は何だったのだろう」といった人生の意味に対する疑問や、「何か悪いことをしたからがんになったのか」「死んだら遺された家族はどうなるのか」「周りに迷惑をかけてしまう」といった罪悪感などを伴った疑問に対して、答えを見い出そうともがく中で生じる「スピリチュアルペイン(霊的痛み)」です。

この4つの痛みはそれぞれが複雑に関連しています。たとえば精神的な苦痛から眠れない、食べられない、やる気が出ないといった症状が現われ身体の痛みを強めたり、逆に身体の痛みに心身の自由が奪われて苦痛が生じたりすることもあるでしょう。このため、4つの痛みを総合して「トータルペイン(全人的な痛み)」と呼ぶこともあります。

トータルペイン(全人的な痛み)

もちろん、4つの痛みは上記のような紋切り型で済まされるものではありません。また、一人ひとりの置かれた状況で、受けとめ方も違ってきます。ただ、がんの発症、再発という人生の危機に直面したときに、不安や苦悩に圧倒されることはごく自然なことで、がん患者さんの誰もが経験する痛みなのだということを覚えておいてください。

時には暗闇をひとり彷徨(さまよ)っている気持ちになるかもしれませんが、ご家族や友人をはじめ、主治医や緩和ケアチームなどの多くの人が少しでもあなたの苦悩を和らげ、支えたいと願っていることも頭の片隅に置いておいてください。そしていつでも近くの医療者に助けを求めてください。

1)日本緩和医療学会 編: 専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第2版 南江堂, 2019, p11.

前に進むために、病状や治療方針、今後の見通しについて確認しましょう

心身の苦痛が続く原因の1つに「これはいつまで続くんだろう」という強い不安があります。将来が見通せない不安は想像以上に心身に影響を及ぼします。怖いかもしれませんが、今のあなたの身体の状態とこれからどんな治療が行われるのか、それによって何が期待できるのかなど、今後の見通しを主治医に聞いてみましょう。その際に、自分自身の希望を伝えることも大切です。「薬以外の治療法を試してみたい」「痛みを抑えて仕事をしたい」「旅行に行きたい」「ぐっすり眠りたい」など自分が納得できる人生を送るために何でも尋ねてみましょう。医療者はあなたの苦痛を和らげ、希望を叶えるために最大限の努力をしてくれるはずです。

あなたの気持ちや心配事は、医療者に話しましょう

もしかしたら、今後、身の回りの始末が思うようにいかなくなり「家族に負担をかけたくない、こんな自分が生きる意味があるのだろうか」と自責の念に駆られたり、残された時間を意識したりする場面が出てくるかもしれません。ご家族や友人の前ではそうした複雑な思いを口に出せないこともあるでしょう。そのようなときは医師や看護師、緩和ケアチームのサイコオンコロジスト(精神腫瘍医や心理士など)に自分の気持ちや心配事を率直に話してみてください。話すだけでも心が軽くなることもありますし、思いがけないアドバイスをもらえるかもしれません。

また、これまでの人生の中で大切にしてきたことや、特に記憶に残っていること、誇りに思ってきたことなどを医療スタッフに話したり、ノートに書き出したりすると、一所懸命に生きてきた自分を再確認し、「よくやってきたな」と今の自分をいたわれるようになるかもしれません。もちろん苦悩が消えるわけではありませんが、少しは呼吸が楽になり、今、ここで生きている一瞬一瞬を味わいながら、今できることへと意識を向けられるようになると思います。

監修:
大阪国際がんセンター 心療・緩和科(精神腫瘍科)
部長 和田 信 先生

(2024年3月作成)

精神的な苦痛への対処