緩和ケアは、苦痛の緩和をがん治療と並行して行います
緩和ケアと聞くと皆さまは何を思い浮かべるでしょうか? つい最近まで、緩和ケアはターミナル(終末期)ケアと混同されていました。このため「緩和ケア」という名称に強い拒否感を持つ方もいるようです。
しかし、緩和ケアとはがんと診断されたときから始められるもので、がんの発症や進行、治療に伴って生じる痛みやだるさ、食欲不振、心の不調といった様々な「苦痛」を和らげ、がんと共存する上で必要なケアのことをいいます。緩和ケアががん治療と同時に行われる一方、ターミナルケアはがん治療を行わず、緩和ケアのみを行うことを指します。
このように緩和ケアはがん治療とともに、あなたの毎日を支えてくれる両輪となります。特に再発や転移を告げられたときは強い精神的ダメージを受けるので、心身ともに不調をきたしやすくなります。再発や転移の際は迷わずに主治医や看護師、あるいはがん相談支援センターを通じて、専門的技術を持った緩和ケアチームにつないでもらうようにしましょう。
がんの痛みは具体的に伝えましょう
がんの痛みの原因には、がん自体が臓器や組織に刺激を与えて生じる痛みや、その痛みやだるさで体を動かさないことから起こる筋肉のこり(腰痛、肩こり)や手足のむくみ、また、がん治療(手術や薬物療法、放射線照射)で神経が傷ついて生じる痛みやしびれなどがあります。このうち、がん自体が原因の痛みを「がん性疼痛(がんせいとうつう)」と呼び、がん患者さん全体の約半数、進行・転移がん、あるいは終末期がんの患者さんで約6割に起こると報告されています1, 2)。
このがんに伴う痛みのほとんどは、適切な治療で取り除くことができます。ただし、痛みの原因や持続時間、強さは人それぞれであり、治療法もそれに伴い異なってきます。個人的な痛みを第三者に理解してもらうのは難しいのですが、適切な治療をしてもらうために次のことを意識して話してみましょう。
痛みを伝えるときの大切な点3)
①痛みが生じる時期 |
1日中痛い、突然痛みが生じる、何かをしているときに痛くなる など |
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②場所 |
どこが痛いのか、1ヵ所なのか広い範囲なのか、痛む場所はいつも同じなのか など |
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③感じ方 |
ビリビリ、ジンジン、ズキズキ、しびれる、ヒリヒリ、キリキリ、ぎゅっと締めつけられる感じ など |
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④日常生活への影響 |
体を動かせない、眠れない、食べられない、座っていられない など |
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⑤痛みの程度 |
1から10の間で、これまで感じた最大の痛みが10とすればどのくらい痛いのか |
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⑥痛み止めの効果 |
ほとんど効果を感じない、途中で効果が切れる など |
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1)
van den Beuken-van Everdingen MH et al. Ann Oncol. 2007; 18(9): 1437-1449.
2)
van den Beuken-van Everdingen MH et al. J Pain Symptom Manage. 2016; 51(6): 1070-1090.
3)
国立がん研究センターがん対策情報センター 編著. 患者必携 がんになったら手にとるガイド, 2017, p168より一部改変
(2024年1月11日閲覧、https://ganjoho.jp/public/qa_links/book/public/pdf/0_all.pdf)
緩和ケアは痛み以外の、心身の不調にも対応します
緩和ケアはがんの痛み以外にも、がんやがんの治療に伴う倦怠感や食欲不振、睡眠障害、つらい気持ちといった様々な心身の不調に対応します。
- 倦怠感・疲労感(だるさ・疲れ):
- がんになると、日々の活動と不釣り合いなだるさや疲れを感じる頻度が高くなるといわれています4)。対処法としては体を動かしたり、日記をつけてだるさや疲れの強い時間帯は活動を抑えたり、これらを和らげるためのお薬を処方してもらったりします。
- 食欲不振:
- がんになると食欲がなくなったり、抗がん剤の副作用で吐き気や消化不良、あるいは口内炎の痛みなどで食べられなくなったりすることがあります。食べられない状況は想像以上につらいものです。「食欲の話なんて聞いてもらえるのだろうか?」と思わずに、医師や看護師、緩和ケアチームに相談してください。あなたの症状に合わせた食べやすい食材や調理の工夫、高エネルギーで必須の栄養素が摂れる栄養補助食品などを紹介してもらえるでしょう。
なお、国立がん研究センター東病院のホームページに掲載されている「柏の葉料理教室から生まれた がん症状別 レシピ検索『CHEER!(チアー)』」は、食欲不振や吐き気・嘔吐などの症状別レシピに対応した、検索機能付きレシピ集です。ぜひ活用ください。
- 睡眠障害:
- がんの痛みやストレスで眠れなくなることがあります。なかなか寝付けなかったり、夜中に目が覚めてしまったり、一度目が覚めると眠れなくなってしまったりなど、睡眠に問題があるときは主治医や緩和ケアチームに相談しましょう。必要に応じて、痛みなどの眠れない原因を取り除く薬や睡眠薬を処方してもらえます。また、患者さんができる工夫としては、寝具やパジャマを心地のよいものに変えたり、寝る前のカフェインの摂取を控えたり、寝る体位によって痛みが出る場合は抱き枕や補助具を使い、眠りやすい姿勢に整えたりなどがあります。
これらの症状やその他の症状については「がんに伴う様々な症状を乗り越えるために(2024年1月11日閲覧、https://p.ono-oncology.jp/care/symptom/)」で詳細に説明していますので、ぜひご活用ください。
4)
日本緩和医療学会 編:専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第2版 南江堂, 2019, p89.
- 監修:
- 大阪国際がんセンター 心療・緩和科(精神腫瘍科)
部長 和田 信 先生