【発症から約1年半】60代男性 水野さん(仮名)

・発症から約1年半
・数年前に定年退職
・趣味:散歩

60代男性

【発症】長年続く貧血の原因を知るため血液内科を受診し、WMが発覚。

私が原発性マクログロブリン血症(以降、WM)であることに気付いたきっかけは、血液内科の専門病院で受けた血液検査でした。50代から健康診断で毎年貧血を指摘されていましたが、周囲にも貧血の人が多かったため、当時は深刻に考えずに過ごしていました。しかし、退職後の健康診断で赤血球数が徐々に低下し、不安を感じるようになりました。加えて、長年続く貧血の原因を知りたいと思い、大学病院の内科を受診しました。はじめに内科を受診した理由は、同じ病院の歯科に通院しており、利便性がよかったからです。

内科の血液検査で鉄欠乏性貧血でないことは分かりましたが、貧血の原因は特定されませんでした。内科医からは「貧血の原因は複雑で多岐にわたり、ここでは調べきれないため、血液内科の専門病院を受診してほしい」と言われました。大きな病院でも原因が分からなかったことが不安で、家から30分ほどで通える血液内科を探し、翌週には受診しました。血液内科の初診時に血液検査を行い、翌週の診察時に「悪性リンパ腫、WMの疑いがある」と告げられました。

血液内科の初診時に血液検査を行い、翌週の 診察時に「悪性リンパ腫、WMの疑いがある」と告げられた

【診断】骨髄生検に恐怖を感じ、一度は検査を断ってしまう。

悪性リンパ腫と聞いて驚きましたが、それ以上に、はじめて耳にする「原発性マクログロブリン血症」という病気がまったくイメージできず、漠然とした不安を覚えました。また、「診断には骨髄生検が必要」と説明されましたが、検査が怖くて一度断ってしまいました。麻酔をするとはいえ、注射よりも太い針を腰に刺すのがとても痛そうで、耐えられないと思ったのです。その後、自分でもWMを理解しようと、インターネットで調べたり、図書館で血液がんに関する本を借りたりして情報収集をしました。「検査しないことには治療できない」という主治医の説明に納得し、覚悟を決めて翌月に骨髄生検を受けました。最終的に遺伝子検査も実施され、WMと診断されました。

、自分でもWMを理解しようと、 インターネットで調べたり、図書館で血液がんに関する本を借りたりして情報収集をした

どのような症状が出るのか分からないことが不安で、同じ病気の人に話を聞きたかった。

診断時、主治医から「WMはゆるやかに進行するが、治ることはない。経過観察を続け、悪化したら治療を開始する」と説明されました。この「治らない」という事実に私は大きなショックを受けました。痛みやリンパの腫れ等の自覚症状はなかったものの、進行した場合にどのような症状が出るのか、貧血で立てなくなることがあるのか、食事や運動などの普段の生活をどこまで続けられるのかなど、具体的なことが分からず不安でした。同じ病気の人と話したいと思い、病院のがん相談センターに問い合わせましたが、WM患者さんは見つからず、患者会も存在しませんでした。一人で悩み続けていた時、YouTubeで悪性リンパ腫の患者さんが自身の経験を紹介する動画を見つけ、それが今後の生活をイメージする助けになりました。

【治療】治療期間が明確な方が自分の性格に合うと考え、化学療法を選択した。

しばらくは血液検査に加え、レントゲン、CT、PET、心エコー検査を受けながら経過観察を続けていましたが、診断から4ヵ月後に眼科で目の腫れを指摘され、主治医に治療開始を提案されました。自覚症状がなく、むしろ治療による副作用の方が不安だったので、このまま経過観察でいきたい本心はありましたが、翌月にはIgM値が5,000mg/dL程度まで上昇したため、治療を決意しました。最初の治療として、複数の抗がん剤を組み合わせた点滴による化学療法か、飲み薬が選択肢として提案されました。どちらも有効性に差はないとのことでしたが、飲み薬は効いている限り飲み続けなくてはならないと知り、私は治療期間が決められている化学療法の方が性格に合っていると判断しました。

PET(positron emission tomography:陽電子放出断層撮影)検査:核医学検査の一種で、放射性薬剤を体内に投与し、その分析を特殊なカメラで捉え画像化する検査。ブドウ糖代謝などの機能から異常を確認でき、全身を一度に調べることが可能。

主治医に治療開始を提案され、何が自分には合っているのか聞いた

治療を決める上で細かい情報を知りたかったので、主治医に自作の質問状を渡した。

限られた診察時間で治療について詳しく確認することが難しかったため、自分で作った質問状を主治医に渡し、次の診察時に答えてもらっていました。質問内容は、IgMが増えることによる他の臓器への影響、WM治療の実績や効果、血漿交換療法、免疫療法、ナチュラルキラーT細胞療法を含む治療選択肢、根治の可能性、入院期間、自費治療と保険治療の併用などについてです。主治医はすべての質問に対し、質問紙に書き込む形で細かく回答してくださったため、納得して治療を選択できました。セカンドオピニオンはしませんでしたが、血液内科専門医が解説する動画を視聴したり、治療法について書かれた本を調べたりもしました。しかし、希少がんであるWMの情報量は限られていたため、今後WMの疾患や経過、治療に関して詳しい情報がまとまっているパンフレットが発行されることを願っています。

便秘や腹部膨満感、血管痛などの副作用を経験しながらも治療を継続できた。

副作用に対する不安が強く、また、一人暮らしであったため自宅で急変する可能性を恐れ、主治医に頼んで化学療法が終わるまで入院させてもらいました。はじめに主治医・薬剤師から副作用を緩和する治療について説明を受けたことで、化学療法に対する不安が少し和らいだと思います。しかし、化学療法1サイクル目の投与開始後から便秘が5~10日間続き、便秘薬を服用しても腹部膨満感がなかなか解消されませんでした。吐き気も伴い、食事をうまく摂れない日々も続きました。2サイクル目以降は薬剤の投与時に血管痛を感じるようになり、注射部位に温かい布巾をあてて痛みを緩和する対策をとりました。当初、化学療法は4週毎6サイクルを予定していましたが、体調不良のため、途中で投与が8週に延期されたこともあり、治療を完了するまでにほぼ1年を要しました。インターネットで他の患者さんの体験談を読むと、自分の副作用は軽い方だったかもしれないと感じましたが、治療中は辛かったので、長い治療が終わってほっとしています。

【現在】再発するまでの間に、自分のしたいことをできる限りしておきたい。

現在は月1回の診察と血液検査でIgM値を確認しています。治療中はIgM値1,000mg/dL以下を目指していましたが、治療終了時には500mg/dL程度になり、現在も600mg/dL程度を維持しています。痛みなどの症状はなく、治療前と同じように生活できています。この先WMが再発することへの不安はありますが、少なくとも1~2年はこのまま過ごせることを期待しています。また、感染症に注意しつつ、元気なうちに旅行を楽しみたいと考えています。

感染症に注意しつつ、元気なうちに旅行を楽しみたいと考えている

水野さんからWM/LPLと向き合うすべての方への3つのメッセージ

  • 1. 希少がんで患者が少なく、孤独を感じることもあるかもしれないが、全国には同じ病気を抱える患者が確かに存在する。
  • 2. 検査や治療への不安はあると思うが、私自身は再発せず元気に過ごしているので、諦めずに取り組んでほしい。
  • 3. 納得して治療を選ぶためにも、自分で情報を調べるほか、不安があれば主治医に相談するのがよい。診察前に質問項目をまとめておくのは一つの手。

(2025年7月作成)