あなたと一緒に、がんと向き合う

家族も大切な対象者、がん治療に向き合うために
知っておきたい心のケア

松岡 弘道 先生

国立がん研究センター中央病院
精神腫瘍科長 松岡 弘道先生

※ご所属・肩書は作成当時(2023年12月)のものです。

がんは「家族の病気」

がんは患者さんだけでなく、ご家族のとっても精神的なダメージを受け、悲しみを感じる事象です。また長期にわたり付き合っていく疾患であるため、患者さんとご家族が二人三脚で治療に取り組むという特徴があり、言わば「家族の病気」です。

一方で、患者さんの方がつらいから我慢しなければと思い、つらい感情を抑え込んでしまうことで、ご家族も患者さんと同等あるいはそれ以上の精神的負担を感じる場合があります。

落ち込むのはご家族も同様、我慢・無理をせずに

がんと診断されるなどの悪い知らせを聞くと、否定したくなる気持ちや絶望を感じ、一時的に落ち込みを経験します。その後、徐々に適応し、今後の生活に目を向けていくのが通常の経過(図1参照)です。

悪い知らせを受け入れ、適応していく過程には個人差がありますが、多くの方はおおよそ2週間~1ヶ月、長い方でも3ヶ月ほどといわれています。一時的に落ち込むのは普通の反応であるため、この時期に我慢をしたり、無理に気丈に振る舞ったりする必要もありません。

図1

図1
1) Massie, M. J.& Holland, J. C. (1990).Overview of normal reactions and prevalence of psychiatric disorders. In Holland, J. C. and Rowland, J. H. ed. Handbook of psychooncology, 1st Ed, Oxford University Press, New York, 273-282.河野博臣・濃沼信夫・神代尚芳(監訳)(1993).サイコオンコロジー 第2巻 がん患者のための総合医療.メディサイエンス社. 2) 内富庸介, 福江真由美, 皆川英明:がんに対する反応.サイコオンコロジー がん医療における心の医学(山脇成人監修).診療新社.大阪(1997)) より作図(松岡先生ご提供資料)

一方で、長期にわたる心理的苦痛や身体的症状によって、日常生活に支障をきたす方もいます。その場合は精神腫瘍科などがんと心の専門家による診察を受けることが好ましいです。

気分が落ち込む、眠れない、食べられないなどの症状が長期化している場合には、患者さんの主治医や看護師などの医療者、もしくはがん相談支援センターに相談し、専門的な心のケアを受けることも検討してみましょう。

混乱は治療の障壁に、正しい情報の入手を

がんと診断された時は、患者さんもご家族も混乱を生じます。そこから徐々に状況を受け入れ、多くは約1~2週間の間に治療の選択のため情報収集を始めます。

がん治療は、これまでの科学的知見から現時点で最良とされている「標準治療」が存在します3)。標準治療がきちんと示されている情報を選択するようにしましょう。その際はがん情報サービスなどの信頼できる情報源から情報を入手し、標準治療がどのようなものなのかを把握することが重要です。

昨今、インターネットやSNSなどで情報があふれています。さらに「がんが治る」というフレーズで高額な金額がかかる情報も多く、信頼できる情報がどれか悩むことも多いと思います。信頼できる情報かどうかに迷った場合は、がん診療連携拠点病院などにあるがん相談支援センターで話を聞いてみましょう。

3)松岡先生ご提供資料「悪い知らせを聞いた後、自分と家族をまもる」

1人で悩まないことが重要、専門的な介入も選択肢

一般的に、つらい体験に直面したときは、家族や友人など周囲の人にその体験を話すことで気持ちの整理がつき、受容していくというプロセスがあります。がんと診断された患者さんやご家族も他者に話すことで回復の経過をたどると期待されます。
しかしながら、「患者さんの方がつらいのに弱音を吐いてはいけない」「心配をかけるから誰に相談していいのかわからない」と、1人でなんとかしようと抱え込んでしまうご家族もいらっしゃいます。

また、患者さんががんに罹患したということにイライラし、無意識に自分を守るためにご家族に怒りをぶつけてしまうことがあります。それを受け止めるご家族は、さらなる心理的負担が生じるとともに、患者さん自身が抱える感情の混乱に巻き込まれてしまいます。このような場合も、第三者に相談し、落ち着きを取り戻すことが重要です。

また、ご家族は、介護や経済的な問題などにより、友人や他の家族との時間を十分に設けられず、社会から孤立してしまうことも少なくありません。そのため、ご家族のうつの有病率は42%、不安の有病率は46%と報告されています4)。そのため、ご家族が受ける精神的サポートは非常に重要な項目です。専門的な介入が必要な場合は、精神腫瘍科という診療科もあります。

4)Geng HM, Chuang DM, Yang F, et al. Prevalence and determinants of depression in caregivers of cancer patients: a systematic review and meta-analysis. Medicine(Baltimore)2018; 97: e11863

精神腫瘍科は患者さんとご家族も対象の診療科

精神腫瘍科は、がん患者さんとご家族を対象に心のケアを行う診療科であり、いわゆる精神科とは異なります。患者さんの疾病や治療状況に合わせ、患者さんやご家族が孤立しないように情緒的に支え、カウンセリングや処方などを希望に合わせて行います。精神腫瘍科を受診する方は、うつ病や適応障害など診断のつかない方が最も多く5)、サポートを受けることで通常の経過をたどることが期待されます。

「こんな小さなことで」と思わず、1人で抱え込んで不安な気持ちになっていたり、眠れない、食べられないなどの身体症状が現れたりしたら、早めに受診しましょう。また、ご家族本人は自覚がなくても医療者から見て必要性を感じた場合には、受診を勧められることがあります。不安に感じていることや困っていることを相談する場所として活用してください。

5)松岡先生ご提供資料 国立がん研究センター中央病院精神腫瘍科受診患者さん内訳(2016~2020年)

キーパーソンを決めて「家族の病気」に一丸でのぞ

近年、がん治療は医療の発展とともにさまざまな治療選択肢が登場してきました。また、治療が長期にわたることも多く、場合によっては一生付き合っていくこともある疾患です。

治療が患者さんやご家族の生活の一部となるため、患者さんの価値観やライフスタイルに合った治療選択というのもがん治療においては重要です。がんと診断されてから、治療方針を決定するまでの期間はおよそ1~2週間が一般的です。その間に患者さんとご家族でよく話し合い、納得のいく治療に臨むための準備を行います。

その際、主治医からの説明を患者さんと共に聞き、一緒に意思決定を行うキーパーソンを決めることが非常に重要です。患者さんに対する心配の気持ちから、家族の間でもさまざまな意見が出てきますが、それを集約する必要があります。また、家族間の意思がバラバラであると、かかわる医療者も混乱し、患者さんの価値観に基づいた治療の提供が難しくなります。そのためにもキーパーソンを決め、「家族の病気」として一丸となって治療に取り組める体制を作ることが好ましいと言えます。

安易な励ましはせず、そっと寄り添いを

がん患者さんとそのご家族はがんと診断され、つらい思いと戦いながら日常生活を取り戻そうとしています。病気のこと、仕事のこと、家族のこと、不安の要素はたくさんあります。

不安を話した際に、職場の方や友人など周りの方は傾聴しましょう。「大丈夫だよ」や「わかるよ」といった言葉は「根拠もないのに大丈夫なんて言わないでほしい」「この気持ちがわかるわけない」と、かえって患者さんやご家族を傷つけることもあります。安易な励ましはせず、表出した患者さんの言葉や気持ちを受け止めるようにしましょう。

また、患者さんの勤め先や学校の方は、通院の必要があることや体調に変化があることなど、がんに罹患する以前とは異なることを理解し、企業の支援プランに沿って接することが重要です。その際に、どのように接していいかが分からないという気持ちから、腫れ物に触るようなかかわり方などをすると、患者さんやご家族を傷つけてしまう可能性もあります。以前と変わらないかかわり方をしつつ、仕事や学業の内容については配慮をするという姿勢で接しましょう。

(2023年12月作成)