【インタビュー】AYA世代にがんに罹患したご夫婦に聞く
インタビュー
AYA世代にがんに罹患したご夫婦に聞く
中山翔さん・美穂さんご夫婦
AYA世代とは、Adolescent and Young Adult(思春期・若年成人)の頭文字をとったもので、主に、思春期(15歳~)から30歳代を指します。特に20歳代から30歳代は親から独立し、結婚・妊娠・出産の過程を経て自分の家庭を築いていく方が多い世代です。また、がん治療は、妊娠に関わる臓器のがんの場合だけでなく、治療内容によっては生殖機能に影響する場合もあります。AYA世代にがんに罹患したご夫婦にとって、
※個人的見解を述べているものであり、特定の事柄をアドバイスしたり推奨したりすることを目的としておらず、閲覧者が当該記載事項を意思決定や行動の根拠にしたとしても、小野薬品は一切の責任を負いません。
プロフィール
妻: |
中村 美穂さん(仮名) 30代 子宮頸がん |
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夫: |
中村 翔さん(仮名) 40代 |
2020年1月 検診で異常を指摘 高度異形成の診断
2020年9月 子宮頸がんステージIB1期
2020年10月 広汎子宮頸部摘出術(トラケレクトミー)施行
2022年12月 不妊治療を経て第1子出産
経過観察から一変、衝撃的だった子宮頸がんの診断
子宮頸がんと診断されたのは、がん検診で異常が指摘されてから約8カ月後のこと。高度異形成と診断され、子宮頸がんのリスクが高いことはわかっていたため、医師の指示通りに定期的に通院し経過観察を行っていた美穂さん。病気が進行し、がんの宣告を受けた時は、衝撃的で、何をしていても涙が止まらないような状態ですごく辛かったと話します。
診断時を振り返り、「経過観察の間に、何かしたらいいことがあったらやったのに…」「こうしていたら、がんにならなかったんじゃないか?」と後悔の念でいっぱいだったと話す夫の翔さん。治療が始まるというタイミングでは「妻の希望を最優先にしてあげたい」という想いで論文なども調べ、納得のいく決断ができるよう情報を揃えることに注力してきました。
まず手術、その後抗がん剤治療と聞かされ、治療に対する恐怖や予後に対する不安が強く、投げ出したような気持ちになっていた美穂さんを支えたのは「一緒に乗り越えていこう」という夫・翔さんの声掛けでした。そこから2人は治療や家族について話し合いを重ね、覚悟を持って治療に臨んでいます。
病気をきっかけに認識した子どもが欲しいというお互いの気持ち、子どもの存在が前向きに生きる活力に
医師からはまず手術となること、子宮温存ができるかもしれないという説明を聞いた中村さんご夫婦。子どもが欲しいか欲しくないかという気持ちをお互いに初めて話したところ、夫婦どちらもどこかで子どもを望んでいたことを認識し、広汎子宮頸部摘出術(トラケレクトミー)を受け、子宮温存の道を選択しました。また、妊娠するためには、手術1年後以降に不妊治療を行う必要があると医師からの説明を受け、覚悟を決めて不妊治療にも臨みました。
望んでいた妊娠も、いざ判明すると不安半分喜び半分でした。妊娠中も「再発したら子どもは諦めてください」と医師から言われていたこともあり、再発への恐怖も大きかったといいます。また、再発をせず妊娠が継続できたとしても早産となったり、NICU(新生児集中治療室)での治療を受けなければいけなくなったりする可能性も事前に医師から聞いており、妊娠中も不安は付きまとっていました。
幸い元気に第一子が誕生し妊娠中の不安は解消された美穂さんですが、今も再発への不安は心の奥底に抱えた状態での育児を行っていると話します。しかし、それ以上に、「家族のために生きないといけない」と以前より前向きに生きることを捉えるようになり、経過観察の通院も前向きな気持ちで行っています。
確証のない中での意思決定、決断に後悔をしないように…
治療、特に抗がん剤に対して恐怖心が強かったと話す美穂さん。効果と副作用を把握して納得して治療選択ができるよう、情報収集は重要なプロセスだと感じています。医師や看護師といった医療従事者に相談するだけでなく、夫婦でセカンドオピニオンを複数回受けたり、論文を調べたりしました。しかし、情報を集めても美穂さんに当てはまるのかというところがわからず、確証の持てない中での意思決定が一番苦労した点だったと翔さんは話します。
中村さんご夫婦は、最終的に抗がん剤治療を受けずに経過観察をするという選択をしました。この選択についても「僕らはこの決断をすることで、この先どうなっても自分たちで責任を取るという意思決定を2人で相談して出したので、今後悔していませんし、この先何があってもこの決断に後悔をしないという意思決定をしたという感じです」と力強く述べています。
また、幸い現在再発せず、子宝にも恵まれた中村さんご夫婦ですが、治療ができない患者さんがいる現状も踏まえ、新たな治療の開発が速いスピードで進み、あらゆる症例に対応できる世の中になって欲しいと日本の医療への期待を持っています。
病気は決して喜ばしいことではないですが、人生を考えるきっかけになると思います。塞ぎ込んだり後ろ向きになったりせずに、自分たちはどうしていきたいのか、今後の人生設計について前向きに考え、選んだ道を諦めずに進んでいっていただきたいと思います。
実際に私たちのように妊孕性のある手術を受け、子どもが産まれたケースもあるので、前向きに治療をしてほしいと思います。自分に合った治療があると思いますし、今医療もどんどん進歩しているので、何事も諦めずに前向きに取り組んでほしいです。
(2024年10月作成)