- Jさん:42歳 男性 リンパ芽球性リンパ腫(LBL)・フィラデルフィア染色体陽性
- 会社員。診断後、標準治療である骨髄移植を勧められる。
妻と11歳の長男、9歳の長女と暮らしている。
原因不明の発熱、疲労感が続き、首のリンパ節にしこりを見つけて総合病院を受診しました。すぐに血液内科に回され、リンパ芽球性リンパ腫(LBL)と診断。診断された病院で提示された治療方針は、強い抗がん剤でがんをできる限り叩いたあと、タイミングをみて骨髄移植を行うというものでした。LBLでは標準的な治療法ですが、Jさんは骨髄の移植関連死(非再発死亡)率(移植後5~10年ほどで2〜3割といわれています1、2))を知り、移植を避けたいと思うようになりました。
1)Kurosawa S et al. Bone Marrow Transplant. 2013; 48: 529-536
2)福田隆浩. 日内会誌. 2013; 102: 1737-1743
「標準治療以外にも選択肢はある」
「標準治療といっても、自分に合うとは限らないですよね。まあ、移植が怖かったのも事実です。それに維持療法をしているうちに画期的な治療法が出てくるかもしれないし。とにかく、子ども達が小さいうちに大きなリスクを負うのだけは避けたかった」(Jさん)。
がんの治療では「標準治療」という言葉をよく耳にします。標準治療とは科学的な根拠に基づいて、現時点で利用できる最良の治療として「推奨」されている治療を指します。標準治療というと「古い」「時代遅れ」というイメージがあるかもしれませんが、これは欧米と日本との間で「ドラッグ・ラグ」と呼ばれる治療格差があった時代のなごりです。最近は、日本でも新しい治療法や薬が登場するスピードが速まり、関連学会が発行する診療ガイドラインのアップデートも迅速になりました。
また、がん治療にまつわるもう一つの誤解は、何が何でも標準治療を守らなくてはいけない、というものです。確かに標準治療は「その時点で最良の治療」ですが、患者さん個人の体調や、希望、医療に対する考え方によって、医師の助言のもとで標準治療の範囲内で治療法を柔軟に選択することができます。だからこそ患者さんの意思決定が大きな意味を持つようになってきたといえるのかもしれません。
自分の価値観を大切にしながら、意思決定を行いましょう
Jさんは告知直後の苦しい時期に、妻や主治医と話し合い「子ども達が独り立ちするまで絶対に生きる」という目標にたどり着きました。そこから意思決定ができたと言います。
Jさんは「今、ここ」での移植関連死のリスクを避け、新しい抗がん剤を複数使った抗がん剤治療と、その後の維持療法(抗がん剤の種類を変えたり、量を減らして副作用をコントロールしながら、長期間投与する方法)で再発を予防する道を選択しました。
がんという病気の辛い点は、将来どうなっているのかを具体的に描けないことかもしれません。迷ったときは、あなたが大切にしていること、うれしいこと、誇りに思っていることに幾度でも立ち返ってみてください。病気になっても失うことのできない確かなものがあるはずです。その「何か」が、次へと進む道標になると思います。
- 監修:
- 埼玉医科大学国際医療センター 包括的がんセンター 精神腫瘍科
教授 大西 秀樹 先生