あなたと一緒に、がんと向き合う
再発後の治療

精神的な苦痛への対処
~60歳男性 食道がんの再発の場合~

RRさん:60歳 男性 食道がんの再発
小さな印刷業を代々経営。妻と跡継ぎ夫婦と同居。

食道がんの再発後、抗がん剤治療をしていましたが、薬剤耐性(薬の効き目が落ちてくることです)により、新しい抗がん剤による治療を受け始めました。

60歳男性

体調不良の裏には、息子さんに対する自責の念がありました

新しい抗がん剤に切り替えた頃から、RRさんの不眠と抑うつ症状が強くなったので精神腫瘍医が面談を行いました。最初は「体調が悪くて、新しい薬をやめたいんです」と話していたRRさんですが、「今、一番困っていることは何でしょうか」との質問に「息子は自分には何も言わないけれど、会社が赤字で生活は苦しいはずなんです。それなのに新しい薬に切り替えて治療費が高くなったのが心苦しい」と、つらい心情を打ち明けてくれました。

話を聞いていくうちに、RRさんがだるさや痛みで思うように仕事が手伝えず、跡継ぎの息子さんの重荷にしかなっていないと思い詰めていることがわかりました。「自分も親父から会社を継いで、従業員たちのためにも潰さないように必死でやってきました。息子にも跡を継ぐのが当たり前だと言い聞かせてきましたが、今の時代に町の印刷工場はラクじゃありません……息子に申し訳ない」(RRさん)。

苦悩があれば、悩まず医療チームに相談しましょう

人間は必ず死にゆく定めにありますが、がんの再発・転移という状況は、いやがおうでもその事実に向き合わざるを得ません。自分自身が限りある命だと理解したとき、何が思い浮かぶでしょうか。これまでの人生でやり残してきたことでしょうか。あるいは、やり直したいと願っていることでしょうか──。

ときには無意識のうちに心の奥底に押し込めていた感情が蘇り、心身の痛みや焦燥、抑うつ感となって現れることもあります。RRさんは稼業を継いでくれた息子さんに対する自責の念があり、責任を感じるあまり不眠や抑うつ症状が現れ、積極的な治療を諦めようとしていました。医師は黙って長い間RRさんの話を聞き、少し眠れるようにと軽めの睡眠薬を出してくれました。その夜、RRさんは久しぶりにゆっくり眠れたからか、気持ちが落ち着き、次の治療について前向きに話を聞こうと思えるようになったそうです。

次に来院したとき、主治医はまだまだ延命が期待できること、治療費については医療ソーシャルワーカーに相談して対策を考えてもらえることをRRさんに伝えました。そして、「治療はいつでもやめることができますし、ご家族のご意見もあるでしょう。もしよかったらRRさんの息子さんや奥さま、担当の精神腫瘍医にも同席いただいて、今後のことを話し合いませんか」との提案があったそうです。

話し合い

RRさんは医師から「医療ソーシャルワーカーは社会福祉の専門家で治療費の公的支援制度についてよく知っています。専門家がいて支援制度があるということは、治療費で悩まれる方は多いということです」と聞いて、とても心が楽になったそうです。

あなたを支援する医療チームのメンバーは、あなたの苦悩を頭から否定することはありません。その苦悩を受けとめ、少しでも和らげようと様々な手段を考えてくれます。もちろん、全てがうまくいくとは限りませんが、心の中に淀んでいた思いを人に伝えるだけでも苦悩が軽減することがあります。どうぞ一人で胸にしまい込まず、医療チームに話してみてください。これからのことを一緒に考えていきましょう。

監修:
大阪国際がんセンター 心療・緩和科(精神腫瘍科)
部長 和田 信 先生
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