尿路上皮がんの術後の「不安」に関するアンケート調査

尿路上皮がん(膀胱がん、腎盂がん、尿管がん、尿道がん)の手術を受けた患者さんと手術経験のある医師各110名にご協力いただき、患者さんの手術後の不安や心配についてのアンケート調査を行いました。ここではその結果と併せて、調査結果に対する患者さんの感想をうかがうインタビューを実施しましたので、コメントを紹介します。

詳しい調査結果は論文にまとめ、医学雑誌に報告しています。(「泌尿器外科」2023年36(3),253-264)

Ⅰ.調査結果のポイント

  • 患者さんのがんに対する不安は手術後時間が経過しても持続しており、術後1~2年未満でも約5割の患者さんが、がんの不安や心配を感じていた。
  • 最も多くの患者さんが不安・心配を感じているのは「がんの再発」であった。手術前では80.0%の患者さんが、手術後1~2年未満でも56.7%の患者さんが再発の不安を感じていた。
  • 患者さんの約3割は医師に自分の不安や心配を伝えられていなかった。病気に対する不安や心配を強く感じている患者さんほど、医師に伝えることができていない傾向が見られた。

Ⅱ.調査の目的

尿路上皮がんは膀胱がん、腎盂がん、尿管がん、尿道がんの総称で、そのほとんどが膀胱がんです。患者さんはがんの再発・転移の不安のほか、手術にともなう排尿やストーマに対する不安や性活動の低下など、さまざまな不安が生じることが知られています。

患者さんが治療を選択する上で、これらの不安や心配は少なからず影響することが考えられます。患者さんの刻々と変化する不安や心配を医師と共有することは、治療選択についての共同意思決定(SDM:Shared Decision Making)のためにきわめて重要であると考えられます。

そこでこの調査では、尿路上皮がん患者さんの手術前から手術後にかけての不安がどう変化するか、また手術に携わる医師が患者さんの不安・心配をどのように認識しているかを明らかにすることを目的として行いました。

https://p.ono-oncology.jp/cancers/uc/06/01_treatment/01.html

Ⅲ.調査概要

「尿路上皮がんの術後に関するアンケート調査─ Urothelial cancer Patients’ Real Intention SurvEy:UPRISE研究」

【調査対象】 膀胱または腎盂尿管の手術を受けた経験のある20歳以上の尿路上皮がん患者110名
5年以内に尿路上皮がんの手術経験がある医師110名
【調査方法】 インターネットによるアンケート調査
患者調査は3Hクリニカルトライアル株式会社が運営するがん情報サイト「オンコロ」と、GMOリサーチ株式会社のアンケートパネルを使用して実施。 医師調査は株式会社プラメドのアンケートパネルを使用して実施。
【調査時期】 2022年3月8日~2022年3月23日

調査結果に対する患者さんのコメントは、2023年4月4日~2023年4月7日に実施したインタビューにて聴取。
(参加者はGMOリサーチ株式会社のアンケートパネルより募集。)

Ⅳ.調査結果

1.手術前後の患者さんの不安・心配

「とても不安・心配を感じていた」「やや不安・心配を感じていた」患者さんの合計は術前では70.9%に上り、術後1年~2年未満の時間が経過しても、49.5%でした。時間が経過しても不安や心配が解消するわけではなく、手術前・手術後ともに、多くの患者さんが不安や心配を抱えていることがわかりました(図1)。

患者さんが感じていた不安・心配の項目と経時的変化

【図1】病気に伴う不安・心配の強さ

病気に伴う不安・心配の強さ

また、手術前・手術後ともに最も多いのは「がんの再発」であり、術前は80.0%、術後1年~2年未満では56.7%でした。次いで、「排尿全般(術前51.8%、術後1年~2年未満26.8%)」が挙げられました。一方、「余命」への不安・心配を挙げた患者さんは術前・術後とも30%程度でした(図2)。

【図2】患者さんが感じていた不安・心配の項目と経時的変化

患者さんが感じていた不安・心配の項目と経時的変化
尿路上皮がん患者さんが、それぞれの不安・心配の項目**に対して「とても不安・心配を感じていた」「やや不安・心配を感じていた」と回答した

結果に対する患者さんのコメント

不安な表情の女性のイラスト

治療が終わっても、定期検診のたびに再発が心配になります。入院したくないですし、再発することで自分がやりたいことができなくなってしまうのでは、という不安もあります。

不安な表情の男性のイラスト

再発は心配です。入院、手術で仕事にも影響するし、家族を不安にさせてしまう…再発しても早めに見つかれば命にかかわらないと思いますが、生活上の不安が伴います。

2.患者さんの不安・心配に対する医師の認識

患者さんが不安を感じていると思うかを医師に尋ねたところ、術前ではほとんどの医師(91.8%)が患者さんは「とても/やや不安・心配を感じていた」と回答しました。しかし、術後1年~2年未満では26.4%に減っており、実際の患者さんの不安・心配との間にギャップ(患者さんは術後1年~2年未満で49.5%が「とても/やや不安・心配を感じていた」と回答)が見られました(図3)。

患者さんの不安・心配に対する医師の認識

【図3】病気に伴う不安・心配の強さ

病気に伴う不安・心配の強さ

結果に対する患者さんのコメント

納得した表情の男性のイラスト

先生はいろいろな患者さんを診ているし、研究データもご存じなのだから、ギャップがあるのは仕方ないかな、と思います。

考えている表情の男性のイラスト

先生は、術後1~2年未満で不安を感じている患者が26.4%しかいないと考えているようですが、実際はもっと多くの患者が不安を抱えていると思います。

3.患者さんが医師に不安・心配を伝える割合

手術前~手術後のいずれの時期においても、約30%の患者さんが病気に対する不安・心配を医師に伝えられていませんでした。3人に1人が医師に不安・心配を伝えられないまま、治療選択を行っていることがうかがえる結果に、患者さんからも共感の声が上がりました(図4)。

患者さんの不安・心配に対する医師の認識

【図4】患者さんが医師に不安・心配を伝える割合

患者さんが医師に不安・心配を伝える割合

結果に対する患者さんのコメント

不安な表情の女性のイラスト

先生方はいつも忙しそうなので、時間をとって話を聞いてもらうのは悪いと思ってしまって…どうしても引け目を感じてしまいます。

納得した表情の男性のイラスト

自分の不安な気持ちを先生に話しても、受け入れてもらえないんじゃないかと心配で…伝えられない気持ちはわかります。

不安な表情の男性のイラスト

治療のことをいろいろ尋ねたり、不安だなんて先生に話したら、「私を信用していないのか?」と思われてしまいそうで、言いづらいです。

4.患者さんの不安・心配の強さと医師に伝える割合

患者さんが不安・心配を医師に伝えている割合を不安の強さ別にみると、不安・心配をとても感じていた人ほど、医師に伝えることができないという結果になりました(図5)。

患者さんの不安・心配に対する医師の認識

【図5】不安・心配を医師に伝えられなかった人の割合

不安・心配を医師に伝えられなかった人の割合

結果に対する患者さんのコメント

不安な表情の女性のイラスト

先生にこの先の不安を聞いてもらいたい気持ちもあるのですが、先生からすべてをお聞きすることでもっと不安になりそうな気がして怖いです…。

納得した表情の男性のイラスト

先生をすごく信頼できて、「この先生は自分のことをわかってくれている」という確信が持てないと、本音で不安を打ち明けるのは難しい。

Ⅴ.監修医・上村博司先生からのコメント

監修医・上村博司先生

上村 博司 先生
横浜市立大学附属市民総合医療センター 泌尿器・腎移植科 診療教授

今回のアンケート調査から、多くの患者さんが再発に対する不安を手術後も抱えていらっしゃることがわかりました。また、患者さんの中には不安や心配を医師に伝えづらいと感じていらっしゃる方がおり、その理由は、医師が忙しそうにしているから、伝えた時に医師がどのように感じるかわからないから、というものでした。しかし、治療を決めていく過程で、その患者さんの仕事や趣味などの生活環境や価値観、どのような不安をお持ちかを知ることで、医師はより患者さんに合った治療を提案することが可能になります。医師はこれまで多くの患者さんを診てきた経験や専門的知識がありますので、あなたの不安を解消できるような説明ができるかもしれません。
がん治療には、長い闘病生活の道のりを一緒に歩む患者さん・医師間の信頼関係がとても大切です。どんな小さなことでも構いませんので、遠慮なく何でも聞いてください。本音で話し合うことが、信頼関係を築く第一歩です。そうすることによって、あなたの医師への信頼はもっと高まることでしょう。

(2023年8月作成)