PPさん:79歳 男性 非小細胞肺がんの再発
妻と二人暮らし。
再発により抗がん剤で治療していたところ、薬剤耐性(薬の効き目が落ちてくることです)と痛みが生じてきたため、抗がん剤の変更を勧められました。
治療をせず、緩和ケアのみを受けるという選択肢もあります
「主治医はまだ次の手があると言ってくれましたが、治療に疲れてきてね。妻とも相談して緩和ケア(心身の苦痛を取り除くケア)だけを受けることにしました」(PPさん)。
再発・非小細胞肺がんに対する薬物治療は新薬の開発に伴い、ある薬の効果が薄れても他の薬に切り替えて治療を続けていくこともできます。その一方で、がん以外の病気や加齢による全身状態の変化などによって、治療そのものがつらく苦しいものになることがあります。もしかするとあなたもPPさんと同じように、ある日、積極的な治療を受けるのがつらい、あるいは自分らしく生きるために、治療に時間を割くのが惜しいと思うときが来るかもしれません。
緩和ケアが、延命につながるケースもあります
米国のマサチューセッツ総合病院が、転移のある非小細胞肺がん患者さんを対象に標準的がん治療に加えて「早期から定期的に緩和ケア」を受けたグループと、受けなかったグループに分けて調査したところ、早期/定期的に緩和ケアを受けたグループは受けなかったグループと比較して、生活の質(QOL)と抑うつ症状が良好になり、さらに延命も確認されました1) 。この報告は、当時のがんの専門医に大きな驚きをもって迎えられ、ここから一気に緩和ケアを推進する流れが加速しました。
その後、「なぜ、延命が叶ったのか」ということも考察しています。それによると、緩和ケアチームが手厚く支えることで、患者さんが自分自身の状態を正しく理解して2) 無理な治療を行わず、ソーシャルサポートなどを受ける中で、心身の穏やかさを取り戻したことが延命の一因になったのかもしれないということでした3) 。
1)
Temel JS et al. N Engl J Med. 2010; 363(8): 733-742.
2)
Temel JS et al. J Clin Oncol. 2011; 29(17): 2319-2326.
3)
Greer JA et al. CA Cancer J Clin. 2013; 63(5): 349-363.
転院する場合は、がん相談支援センターや地域包括支援センターを頼ってみてください
緩和ケアのみを受ける選択をした場合、治療による「根治」「延命」を目指しているがん専門医の多くは、あなたの選択にとまどい、うまく対応できないことがあります。また、病院によっては治療を受けない患者さんに転院をお願いすることがあり、自分で転院先を探す必要が出てくるかもしれません。そのような場合は、病院内、もしくは地域のがん相談支援センターや地域包括支援センターを頼ってみてください。
PPさんは主治医に、治療はせず緩和ケアだけを受けたいと話しました。「そうしたら、転院を勧められて“見捨てられた”と落ち込みました。でも、妻から“先生は治療が専門だから仕方がないよ。今度は緩和ケアを専門とする先生を頼ろう”と言われて、そうだなと素直に納得しました」とPPさんは笑っていました。
なお、緩和ケアにかかる費用は、療養場所や内容によってばらつきがあるので、がん相談支援センターや病院の医療福祉相談窓口などでよく相談しましょう。費用の概算については、日本緩和医療学会が運営する「緩和ケア.net」の「緩和ケアにかかる医療費は?(2024年1月11日閲覧、https://www.kanwacare.net/forpatient/howmuch/ )」で知ることができます。また、本サイト内の「知っておきたい!がんの支援制度(2024年1月11日閲覧、https://p.ono-oncology.jp/support/system/ )」も参考になるでしょう。
監修:
大阪国際がんセンター 心療・緩和科(精神腫瘍科) 部長 和田 信 先生