小野薬品の薬をご使用の方向け情報

非小細胞肺がんの治療でオプジーボと化学療法による術前補助療法を受けた方へ

オプジーボ(一般名:ニボルマブ)は、私たちがもともと持っている免疫の力を回復させることでがんへの攻撃力を高める、これまでとは異なるメカニズムに基づく〝がん免疫療法〟の治療薬です。

非小細胞肺がんと術前補助療法

非小細胞肺がんの治療のうち、がんが手術で取り切れる範囲内にとどまっている患者さんに対しては、手術(外科治療)が中心となります。しかし、がんの進行の程度(臨床病期)によっては、手術のみの治療ではがんを抑えることが難しい場合があります。

このような患者さんについては、手術の効果をより高めるために、手術の前に薬物療法や放射線療法の実施を検討されることがあります。こうした治療を「術前補助療法」といいます。

これまでは、化学療法(抗がん剤治療)や放射線療法による術前補助療法が中心でしたが、近年、がん免疫療法の治療薬「オプジーボ」と化学療法による術前補助療法が加わり、治療の選択肢がさらに広がっています※※

※術前補助療法については 「用語集」をご参照ください。
※※オプジーボと化学療法による術前補助療法の対象となる方(非小細胞肺がん)についてはこちらをご参照ください。
治療の目的
国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん」
日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック 2023年版, p148, 金原出版, 2023

「がん免疫療法」「免疫チェックポイント阻害薬」について詳細をみる

がん免疫とは

オプジーボとは

◆ブレーキを外してT細胞の免疫力を回復させ、がん細胞への攻撃を助ける治療薬です。

オプジーボは、T細胞にかけられた免疫のブレーキを解除する働きがある「免疫チェックポイント阻害薬」です。
オプジーボは、血液に入ると「PD-1」と呼ばれるT細胞のアンテナに結びつくことで、抑制信号をブロックし、免疫のブレーキを外します。
こうしたオプジーボの作用によってT細胞は、妨害を受けることなく、再びがん細胞を攻撃できるようになるのです。

オプジーボについて詳細をみる

小野薬品の薬を使用された方へ
オプジーボ

化学療法(抗がん剤治療)とは

◆がん細胞を直接攻撃する従来型の抗がん剤(細胞障害性抗がん剤)を用いた治療法です。

がん細胞は、細胞分裂を繰り返して異常に増殖します。化学療法で使われる細胞障害性抗がん剤は、主にがん細胞の増殖過程に作用して、がん細胞の増殖を阻止する働きがあります。

オプジーボと化学療法の併用療法について詳細をみる

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オプジーボ・化学療法併用療法

オプジーボと併用される抗がん剤

オプジーボと化学療法による術前補助療法で使われるお薬は、がん細胞の組織型 (扁平へんぺい上皮じょうひがんか扁平へんぺい上皮じょうひがんか)によって異なりますので、ご⾃⾝が受ける治療法について確認しておきましょう。

オプジーボと併用される抗がん剤
†臨床試験で使用された薬剤名を記載しています。 オプジーボ電子添文 2024年2月改訂(第20版)

治療の進め方とスケジュール

◆オプジーボと化学療法による術前補助療法は、最大3サイクル行います。その後、体調や全身状態を確認したうえで、手術の予定が決まります。

投与スケジュール

投与日と休薬期間をあわせた21日間(3週間)を1サイクルとして、最大3サイクル行います。
手術は投与終了から概おおむね6週間以内に行われます。(患者さんによっては前後する可能性があります)

治療の進め方とスケジュールオプジーボ電子添文 2024年2月改訂(第20版)より作成

手術後の生活アドバイス

◆手術を受けたあとの患者さんは、自らの活動を制限しがちになりますが、特別な指示がない限り、通常の日常生活を送っていただいて構いません。下記のアドバイスを参考に、体力の維持・回復に努めましょう。

◎食事について

体力の維持・回復には、栄養のバランスがとれた食事をとることが大切です。手術後も通常は普通の食生活が可能ですので、かたよりのない食事を心がけて体力低下を防ぎましょう。

参考
国立がん研究センター東病院のサイト「CHEER!チアー」では、がん患者さん向けのレシピ動画や食事のアドバイスなどをご紹介しています。ぜひ参考になさってください。

国立研究開発法人国立がん研究センター東病院 栄養管理室
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/CHEER/about/index.html

◎リハビリテーション

肺がんの手術後は、たんが増えます。痰が増えると肺炎やはいなどの合併症が起こりやすくなりますので、手術の前から「深呼吸」や「ハッフィング法(下図)」など痰を出しやすくする練習をしておきましょう。

※ 肺の組織が詰まったり圧迫されて肺がしぼんでしまうこと。

痰を出しやすくする練習(ハッフィング法)

痰を出しやすくする練習(ハッフィング法)
がんのリハビリテーションマニュアル 第2版, p372, 医学書院, 2021 の記載をもとに作図

◎運動

手術後はできるだけ体を動かすように心がけ、今まで通りの生活に近づけるようにしましょう。適度な運動(ウォーキングなど)を続けることで呼吸も徐々に回復していきます。適度な運動を継続することが、体力の回復、呼吸機能の回復に大きく影響を与えますので、運動を取り入れた生活を送りましょう。

◎こころのセルフケア

病気のことを忘れる時間を持つことも大切です。熱中できることを見つけて気分転換をはかったり、リラックスできる時間を持つようにしましょう。
リラックスできる工夫としては、深呼吸やめいそう、音楽、アロマセラピー、適度な運動(ストレッチや散歩)、入浴、マッサージなどがあります。自分に合った方法を見つけて、気持ちをリフレッシュさせましょう。

◎手術後の経過観察

手術後の経過観察では、体調の変化や再発・転移の有無などを調べる検査が行われます。検査の頻度や内容は患者さんごとに異なりますが、患者さんからの自覚症状の訴えが早めの検査実施につながります。気になる症状がみられたら、早めに主治医や看護師に伝えてください。

国立がん研究センター東病院「呼吸器外科 手術後の生活について」 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん・経過観察」「がんと上手に付き合うための工夫」 日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック 2023年版, p94,150, 金原出版, 2023

投与方法

◆オプジーボと抗がん剤は、点滴で投与します。

オブジーボと化学療法による術前補助療法の場合
オプジーボ電子添文 2024年2月改訂(第20版)より作成

治療の対象となる方

◆オプジーボと化学療法による術前補助療法は、手術が可能で、これまで薬物療法を受けたことがない患者さんが対象となります。

治療を受けることができない患者さん

オプジーボに含まれている成分に対して、以前、アレルギー反応(気管支けいれん、全身性の皮膚症状、低血圧など)を起こしたことがある方は、さらに重いアレルギー反応が出る可能性があるため、オプジーボによる治療は受けられません。

治療を慎重に検討する必要がある患者さん

次のような方は、オプジーボによる治療を受けられないことがあります。

  • ◎自己免疫疾患にかかったことがある方
  • ◎間質性肺疾患**にかかったことがある方
  • ◎臓器移植(造血幹細胞移植を含む)を受けたことがある方
  • ◎結核にかかったことがある(発症する恐れがある)方
自己免疫疾患
免疫機能が正常に機能しなくなり、体が自分の組織を攻撃してしまう病気で、関節リウマチや1型糖尿病などが自己免疫疾患に含まれます。
** 特に注意すべき副作用をご参照ください。
オプジーボ電子添文 2024年2月改訂(第20版)

オプジーボの特に注意すべき副作用、注意が必要なその他の副作用、ご注意

オプジーボ治療Q&A

術前補助療法で起こる可能性がある副作用

◆オプジーボと化学療法による術前補助療法では、以下のような副作用が起こる可能性があります。

症状によっては日常生活での対応が必要になったり、症状を抑えるためのお薬が使われることもありますので、体に異常を感じたら、早めに医師、看護師、薬剤師に伝えてください。

◎オプジーボと化学療法との術前補助療法でみられた主な副作用(発現頻度10%以上

  • 吐き気
  • 貧血
  • 便秘
  • 食欲減退
  • 好中球減少症・好中球数減少
  • 倦怠感
  • 発疹
  • 疲労 など
吐き気や食欲減退の症状がある患者さんのイラスト
※小野薬品工業:国際共同第Ⅲ相(ONO-4538-55/CA209816)試験成績(社内資料)承認時評価資料より

参考:化学療法の主な副作用について

化学療法で使われる細胞障害性抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常細胞にも作用するため、副作用が現れることがあります。
副作用の現れ方には個人差があり、症状の種類や強さも人によって異なります。また、患者さんが気づくものと、検査で確認するものがあります。
副作用の程度によっては、症状を抑えるお薬が使われることもありますので、体に異常を感じたら、早めに医師、看護師、薬剤師に伝えてください。

※細胞障害性抗がん薬と呼ばれることもあります。

細胞障害性抗がん薬の副作用と発現時期

細胞障害性抗がん薬の副作用と発現時期
国立がん研究センター がん情報サービス「化学療法全般について」より許可を得て転載
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/drug_therapy/dt02.html
国立がん研究センター がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく知りたい方へ」

治療終了後の注意点

◆副作用は、治療期間中だけでなく、治療終了後にも現れることがあります。

副作用が発現しても、早期に見つけて適切な対処を行えば、重症化を防ぐことにつながります。治療が終わったあとも、気になる症状が現れた場合はご自分で対処せず、すぐに医師や看護師、薬剤師に連絡してください。

◎適切な治療のために

「オプジーボ連絡カード」

  • オプジーボによる治療を受けている(受けていた)ことを医療者に知らせる携帯用のカードです。
  • 他の病院を受診したり薬局でお薬を処方してもらう際は、このカードを必ずご提示ください。財布などに入れて常に携帯しておきましょう。
オプジーボ連絡カード

「おくすり手帳シール」

  • おくすり手帳に貼っておくことで、医療者に副作用への注意や相互作用の確認などを促すシールです。
  • 確認しやすいページに貼ってお使いください。
おくすり手帳シール

緊急時の病院への連絡について

◆緊急受診が必要になった場合に備えて次の点を確認しておきましょう。

オプジーボの治療期間中や治療後に、病院への緊急連絡や緊急受診が必要になることがあるかもしれません。そのための備えとして、次の点を確認しておきましょう(緊急連絡先の電話番号は、目につくところに置いておくことも大切です)。

◎緊急連絡・受診の備えとして確認しておきたいこと

  • 病院の連絡先(夜間の連絡先)の電話番号
  • 病院に向かうための交通手段
  • 付き添いが必要な場合の支援方法と連絡先

(あわてなくて済むように、あらかじめ書き留めておきましょう)

連絡する患者さんのイラスト

◎病院に連絡する際に伝えたいこと

  • 患者さんの氏名、診察券の番号
  • 通院している診療科
  • オプジーボによる治療を受けている(受けていた)こと
  • いつから、どのような症状が出ているのか
  • その症状で、どんなことに困っているか

(電話する際は、診察券を手元においておくとよいでしょう)

オプジーボ治療日誌

オプジーボによる治療中、特に気をつけていただきたい症状をチェック項目としてまとめています。

用語集

術前補助療法
手術の前に行われる治療をいいます。導入療法またはネオアジュバント療法と呼ばれることもあります。手術前に治療を加えることで、がんを完全に切除できる確率を高めたり、目に見えないごく小さながん細胞の転移を抑えることを目的に行われます。
組織型
組織型とは、顕微鏡などの検査でがん細胞の顔つき(病理組織学的な特徴)を詳しく調べて分類したものをいいます。
非小細胞肺がんでは、「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」の3つのタイプがあります。このうち扁平上皮がん以外のがんを「非扁平上皮がん」といいます。
組織図
T細胞
血液中を流れている白血球のうち、リンパ球と呼ばれる細胞の一種で、異物から体を守る司令塔となる細胞です。T細胞という名前は、胸腺(thymus)でつくられることから、頭文字のTを取って名付けられています。
1型糖尿病
主に自己免疫によって起こる病気で、自分の体のリンパ球が膵臓にある膵島β細胞を破壊してしまうことで発病します。遺伝的な要因に運動不足や食べ過ぎなどの生活習慣が加わって発症する「2型糖尿病」とは発症原因が異なります。
アナフィラキシー
アレルギーの原因になる物質が侵入することで引き起こされる全身的なアレルギー反応をいいます。全身の発疹やかゆみ、呼吸困難などの症状が急激に現れ(数分〜数時間以内)、重症になると生命に危険が及ぶこともあるため、迅速な対応が必要となります。
◎非小細胞肺がんの薬物療法
細胞障害性抗がん剤(化学療法)
抗がん剤(細胞障害性抗がん剤)を投与して、がん細胞の増殖を抑える治療法です。細胞障害性抗がん剤とは主に細胞が分裂する増殖過程に作用して細胞の増殖を阻止する働きがある薬剤をいいます。
免疫チェックポイント阻害薬
免疫チェックポイントと呼ばれている免疫のブレーキ役の部分に結合する抗体(抗PD-1抗体など)を用いて、がん細胞による免疫のブレーキを外し、がん細胞への攻撃力を回復させる治療薬です。
分子標的薬
がん細胞の発生や生存に強く関わっている遺伝子やタンパク質を標的にした薬のことをいいます。非小細胞肺がんでは、EGFR 遺伝子やALK 遺伝子、ROS1 遺伝子、BRAF 遺伝子、MET 遺伝子、RET 遺伝子、KRAS 遺伝子などの異常に対して、それぞれ使用できるお薬が登場しています。

国立がん研究センター がん情報サービス「がんに関する用語集/肺がん/免疫療法」
日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック 2023年版, p148, 金原出版, 2023
カラー図解人体の正常構造と機能Ⅶ 血液・免疫・内分泌 改訂第4版, p32, 日本医事新報社, 2021
日本糖尿病学会編:糖尿病診療ガイドライン2019, p10-11, 南江堂, 2019
日本臨床腫瘍薬学会編:臨床腫瘍薬学 第2版, p731-740, じほう, 2022

監修:
国立がん研究センター東病院 呼吸器外科 科長
坪井 正博 先生

(2024年5月作成)