8薬物療法について
薬物療法とは、どのような治療ですか?
薬剤を全身に行き渡らせてがん細胞を攻撃する治療法です。
肺がんに対しては、化学療法(細胞障害性抗がん剤)、分子標的療法、がん免疫療法の3つの種類があります。
薬物療法とは、薬剤を注射や点滴、内服などで全身に行き渡らせることで、がん細胞を攻撃する全身的な治療です。
薬物療法は、主に手術が困難な場合に、単独、または放射線療法と組み合わせて用いられます。また、手術の対象となる患者さんのうち、手術だけではがんを抑えることが難しいと考えられる場合は、手術の前後に薬物療法が追加されることもあります。
肺がんの薬物療法は大きく分けて、化学療法、分子標的療法、がん免疫療法の3種類があり、それぞれ異なる特徴を持っています。
薬物療法では、最も効果的と考えられる薬の組み合わせとスケジュールがいくつか決まっています。これを「レジメン」といいます。
最初のレジメン(1次治療)の効果がみられなかった場合は、別のレジメンを使った2次治療、3次治療が行われることもあります。
実際の治療戦略については、がんの組織型や遺伝子変異の有無などの指標をもとに、薬剤の副作用や程度、患者さんの全身状態などを考慮して決められます。
(治療中の対処法については「薬物療法で使われる薬の副作用と知っておきたい対処法について教えてください」をご参照ください)

インフォームドコンセントのための図説シリーズ肺がん 改訂5版, p84-87,医薬ジャーナル社, 2017
NPO法人キャンサーネットジャパン: もっと知ってほしい肺がんのこと, p12-15, 2017
化学療法(細胞障害性抗がん剤)
細胞障害性抗がん剤は、主に細胞が分裂する増殖過程に作用してDNAの合成を妨げたりその機能を障害することで、がん細胞の増殖を抑える働きがあります。非小細胞肺がんでは、「プラチナ製剤」と呼ばれる抗がん剤を中心に、作用の異なる薬を組み合わせて治療する方法が多く用いられています。
標準化学療法(例)
- プラチナ製剤+第3世代抗がん剤

分子標的療法(分子標的薬)
分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わる特定の遺伝子の産物(タンパク質)に作用し、がん細胞が増えるのを抑える働きがあります。
非小細胞肺がんの分子標的薬は、大きく2種類あります。
チロシンキナーゼ阻害薬 | がん細胞の増殖を促している特定の分子に作用して、増殖に必要な指令の受け渡しをブロックする働きがあります。肺がんでは、EGFR遺伝子、ALK遺伝子、ROS1遺伝子、BRAF遺伝子、MEC遺伝子、NTRK遺伝子の変異に対して、それぞれ使用できるお薬が登場しています。 |
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血管新生阻害薬 | がんの栄養の補給路として生まれた異常な血管(血管新生)を促す指令をブロックする働きがあるお薬です。 |

NPO法人キャンサーネットジャパン: もっと知ってほしい肺がんのこと, p12-15, 2017
国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん」
がん免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)
私たちの体は、免疫機能が正常に働いている状態では、T細胞などの免疫細胞が、がん細胞を「自分でないもの」と判断し攻撃します。しかし、がん細胞が、免疫機能から逃れようと免疫細胞にブレーキをかけ、攻撃から逃れていることがわかっています。
薬剤を用いて、がん細胞による免疫細胞へのブレーキを解除し、患者さん自身にもともとある免疫の力を使って、がん細胞への攻撃力を高める治療法を「がん免疫療法」といいます。
使われる薬剤
「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれる治療薬が使われます。 免疫チェックポイント阻害薬は、免疫のブレーキ役の部分(免疫チェックポイント)に結合する働きがある抗体薬です。 別の種類の免疫チェックポイント阻害薬や、抗がん剤、血管新生阻害薬と組み合わせて使われることもあります。 |

国立がん研究センター がん情報サービス「免疫療法」「肺がん」
- 監修:
- 近畿大学医学部 内科学 腫瘍内科部門 主任教授
中川 和彦 先生
(2023年3月作成)