- MMさん:78歳 女性 小細胞肺がんの再発
- 一人年金暮らし。同じ市内に娘一家と、遠方に息子一家がいる。
77歳のときに小細胞肺がんと診断され、薬物治療(抗がん剤)と放射線治療を受けました。しかし、1年後に遠隔転移が見つかりました。
「年齢もあるし、治療はもういいかなと思いました」
MMさんは初期治療で抗がん剤と放射線治療を受け、一旦は病状が落ち着いて安定した状態(寛解)になりました。しかし、1年後に再発し、別の抗がん剤を主治医から勧められました。
「初期治療のときは下痢や吐き気がひどく、だるさもあって1日中寝込んでいました。もともと血圧が高くて心臓もあまり丈夫ではありません。子どもたちもそれぞれに独立して家庭も築いていますし、年齢も年齢ですしね。もう治療はしなくてもいいかなと思いました」(MMさん)。
積極的な治療をしない=がん放置療法ではありません
そんなとき、知人が「がん放置療法」の本を送ってきたそうです。
がん放置療法──週刊誌の見出しなどでこの文字を見た方は多いでしょう。抗がん剤は毒、抗がん剤を投与すると寿命が縮む、といった刺激的なワードで興味をひき、悩みと不安のなかにいる患者さんやご家族の心を揺さぶります。実際、「この記事に抗がん剤はやらないほうがよいと書いてある」と頭から治療を拒否される方もいます。
がん放置療法と、積極的な治療をしないことの違いはなんでしょうか。例えば抗がん剤を使うことで得られる効果と、予想される副作用を十分に理解し比較したうえで、患者さんご自身が抗がん剤を使わない(積極的な治療はしない)という選択をしたのであればその判断は十分に尊重されるべきです。主治医や看護師、そして緩和ケアチームも患者さんの選択を支えてくれるでしょう。
しかし、最初から「抗がん剤は使わない」ありきでがんを放置した場合は、抗がん剤を使わないことで生じるデメリットや、その後の結果から目をそらし続けることになります。しかも、「治療をしないから」と病院から足が遠のき、主治医とのつながりがなくなることも懸念されます。抗がん剤などの治療を受けないとしても患者さんの体に不具合が生じないように(生じても軽くすむように)、主治医は患者さんの体の状態をよく知っておく必要があります。そのために定期受診はとても大切です。
MMさんは、近くに住む娘さんと、「放置」と聞いて飛んで帰ってきた息子さんに正直な気持ちを打ち明けました。そして、三人で主治医の説明を改めて聞いたうえで、「積極的な治療をしない」という選択をしたそうです。「治療をしたくないなんて言って怒られるかもと思いましたが、先生はうなずいて、“治療をしなくても定期通院はしてくださいね。そして、痛みなどの不具合が出てきたら遠慮なく言ってください。これからも一緒に頑張りましょう”と言ってくれました」(MMさん)。
治療方針を決定する際は、あなたがなぜその考えに至ったのか、何を迷っているかなどを主治医や家族に忌憚なく話し、「これから自分らしく、どのように生きるのか」をみんなで考えるようにしましょう。
現場の医師は少しでも延命する可能性がある限り、医師としての倫理と責任において積極的な治療を勧めるでしょう。だからといって、MMさんのように体調や年齢を踏まえ、治療もよく理解したうえでの決断なら、治療をやめるという選択も頭から否定されることはありません。
- 監修:
- 大阪国際がんセンター 心療・緩和科(精神腫瘍科)
部長 和田 信 先生