がん患者さんのご家族は、「第2の患者」です
家族の誰かががんになると、大切な人を失うかもしれないという恐怖に加え、患者さん本人の辛そうな様子を目の当たりにして「もっと早くに私が気づいていれば…」と自分を責めたり、「これからどうなってしまうのだろう」といった漠然とした不安を強く感じたりします。このようにご家族はがんになった本人と同等かそれ以上の感情を抱くため、「第2の患者」といわれています。
家庭内での役割の変化や経済的負担がストレスになります
日常生活でも変化を迫られることがあります。例えば、これまで家事や育児を引き受けていた方が入院した場合は、配偶者や子ども、場合によっては祖父母などの親類がその役割を担う必要が出てきますし、世帯の大黒柱が発症した場合は、生活費や治療費を確保するために他の家族が仕事を始めたり、仕事量を増やしたりする必要が出てきます。ほかにも、介護が必要となったために休職や退職を余儀なくされ、経済的な問題が生じるなど、頭を悩ませ、うまく対処できないことが出てくることもあります。
一時的な変化であれば「とにかく今を頑張ればよい」と思えますが、がんの治療・療養のゴールは見通しが立ちにくいのでご家族の方も「いつまで頑張ればよいのだろう」「なぜ、自分がこんな目にあうのだろう」と不安や不満が募り、そんな自分を「がんになった本人が一番辛いのに、自分はだめな人間だ」と責めてしまうこともあります。さらに、周りの第三者から「頑張るしかない」「患者さんを支えられるのは、あなただけなのよ」などと正論を述べられて追い詰められることもあるでしょう。こうした心身の疲れから、眠れなくなったり、体調を崩されたりするご家族も多くいらっしゃいます。
自分自身をいたわることを優先させましょう
自分の大切な家族ががんになるということは、とても辛いことです。病気や人間関係をめぐって、怒りや悔しさといった整理できない感情が湧き上がるのは当たり前のことであり、決して特別なことではありません。しかし、ご家族は「一番辛いのは本人だから」と内面の怒りや衝動などを抑え込み、自分自身へのケアを後回しにしがちです。そのような状態が続くと疲れ果ててしまい、共倒れになりかねません。患者さんのそばを離れて自分自身のために時間をつくりましょう。
もし辛い気持ちが続いたり、仕事や家事などで困っていたりする場合は、がん相談支援センターや緩和ケアチームの看護師、あるいはサイコオンコロジスト(精神腫瘍医)に話してみてください。漠然とした不安や困りごとであっても、話をしていくうちに問題点がわかり、解決法がみえてくることもあります。がん医療に従事する医療者は、ご家族の辛さもよく理解しています。安心して本当の気持ちを吐き出してみてください。遠慮する必要はありません。
また、がん相談支援センターに籍をおく医療ソーシャルワーカー(MSW:Medical Social Worker)は経済的な問題や医療費の負担を軽減する方法、療養生活を支える介護保険の利用方法といった具体的な支援制度についてよく知っています。経済的・社会的な悩みがあれば、MSWに相談すると新たな活路を見出すきっかけになると思います。
監修:
国立がん研究センター東病院 精神腫瘍科 科長 小川 朝生 先生