あなたと一緒に、がんと向き合う

医療施設における就労支援:兵庫医科大学病院(相談会の実際)

病院内外の専門職がチームとなって患者を支える
兵庫医科大学病院の就労支援

がん患者さんの約3割が就労世代(15~65歳)といわれます。「仕事を続けながら治療を受けたい」という声が高まる中、治療と仕事の両立を社会でいかに支えるかが求められています。がん患者さんの就労支援に内外の専門職がチームとなって取り組む、兵庫医科大学病院のサポート体制をご紹介します。

兵庫医科大学病院
福島恵美
聞き手:
福島恵美(がんサバイバーのライター)

お話を聞いた皆さん

兵庫医科大学病院

(左から順に)

  • がん看護専門看護師 がん化学療法看護認定看護師西村裕美子さん
  • 乳がん看護認定看護師平野ゆりさん
  • 医療ソーシャルワーカー(MSW)三浦恵里子さん
西村裕美子さん,平野ゆりさん,三浦恵里子さん

NPO法人がんと暮らしを考える会

(左から順に)

  • 理事・ファイナンシャルプランナー(FP)岡本英夫さん
  • 社会保険労務士竹谷光代さん
岡本英夫さん,竹谷光代さん

就労支援の重要性を感じ、専門のNPOと連携

がん診療連携拠点病院である兵庫医科大学病院には、患者さんやそのご家族、通院していない人でもがんに関する様々な相談ができる「がん相談支援センター」があります。その中で、就労支援の相談もされていますが、なぜ医療施設で就労支援を行うことが必要なのでしょうか。

西村看護師:国の第2期がん対策推進基本計画(平成24年6月閣議決定)で、働く世代へのがん対策の充実が位置付けられた時から、患者さんの就労支援の重要性は認識していました。実際に、がんと診断された方の多くが仕事を辞めてしまったり、働けない環境に追いやられたりするなど、がん患者さんの就労支援の必要性を感じていました。外来化学療法室では、通院で抗がん剤治療をしながら働く人もいらっしゃいますが、就労支援相談の取り組みを行おうとした場合、病院の中でできることは限られていました。そこで、社会保険労務士やファイナンシャルプランナー(以下FP)といった専門家の助言が大事なのではないかと考え、そのような専門家が集まる「NPO法人がんと暮らしを考える会」と連携することになったのです。

兵庫医科大学病院「がん相談支援センター」は、厚生労働省が公募した「平成30年度がん患者の仕事と治療の両立支援モデル事業」の対象施設に指定されていますね。

西村看護師:がん患者さんの治療と仕事の両立支援のため、1年間の事業計画を立てて応募し、承認いただきました。2年目となる令和元年度も採択されています。

相談会では、医療者は体と心、専門家はお金と仕事の問題をサポート

兵庫医科大学病院とNPO法人がんと暮らしを考える会が就労支援を協働で行っているのが、「がん治療生活を支える~仕事とお金のお悩み相談会~」ですね。

西村看護師:はい。がん相談支援センターがん診療支援室で、月に1回(第2金曜日)相談を希望される方に無料で実施しています。この相談会は、2013年から始まりました。病院側のスタッフである私たちがん専門相談員(看護師、医療ソーシャルワーカー(以下MSW))が悩みのある患者さんとそのご家族の体調や精神的な面をしっかりとサポートし、NPO法人がんと暮らしを考える会の専門家が就労やお金の問題など経済的な面をしっかりとサポートするので、幅広く相談に応じられます。

西村裕美子さん

岡本FP:治療しながら働くということは、収入を得るという側面はもちろんですが、その人の生きがいにもつながります。私たちは患者さんの働き方の相談を受けるだけでなく、経済的な問題を抱えている時は解決策を一緒に考えたりしています。例えば、毎月多額の治療費が掛かるのに住宅ローンをどうやって返していけばよいのか、がんになってライフプランが変わった場合に子どもをどのようにして大学まで行かせるかなどです。そのようなお金に関する困りごとのサポートも、就労支援になると考えています。

「がん治療生活を支える~仕事とお金のお悩み相談会~」のパンフレット

「がん治療生活を支える~仕事とお金のお悩み相談会~」のパンフレット

相談会は1組50分の個別面談で

私自身(福島)がん経験者で、医療施設での就労支援の取り組みは、まだ十分ではないと感じています。病院の内外の専門職が連携する「がん治療生活を支える~仕事とお金のお悩み相談会~」はとても興味深いです。具体的にどのように行われるのでしょうか。

西村看護師:相談会は1日に3組まで、それぞれ50分間面談します。1回だけで終わる人もあれば、複数回相談に乗ることもあります。がん相談支援センターでは通常のがんに関する相談を通常面談30分、電話20分で受けていて、相談会の後にこちらで引き続き相談を受ける人もいます。

面談室

三浦MSW:当院に入院・通院されている患者さんとそのご家族なら、私たちがん専門相談員が、事前に相談内容を聞き取ります。それを相談シートにまとめ、面談の前にスタッフ間で打ち合わせをしてから患者さんたちと話します。基本的に予約制ですが、患者さんが不安を感じている時など、必要な時に対応できるのがベストですので、当日は可能な限り予約外でも相談を受けるようにしています。

「がん治療生活を支える~仕事とお金のお悩み相談会~」の相談シート

「がん治療生活を支える~仕事とお金のお悩み相談会~」の相談シート

患者さんそれぞれの気持ちをくみ取ってサポート

相談会には、相談員の方々はどのような気持ちで臨まれるのでしょうか。

岡本FP:相談内容は千差万別で、勤めていらっしゃる職場も雇用形態も様々です。相談に来られるその人の状況を把握して、気持ちをくみ取ることを心掛けています。例えば、がんと告知されると驚いて「会社を辞めないといけない」と相談に来られる方がいらっしゃいますが、そうした告知を受けた衝撃やつらさを受け止めたうえで、慌てて退職などの大切な決断をしないようにお伝えします。

岡本英夫さん

竹谷社労士:多くの方が社会保険制度を詳しくご存知ないので、相談者の状況に合わせて、どのような社会保険制度が使えるのかを分かりやすくお話しするようにしています。

三浦MSW:患者さんの中には、経済的な相談をすることを恥ずかしいことだと考えたり、仕事の相談を病院でしてよいのだろうかと思ったりする方もいらっしゃり、そこをすくい取っていければと考えています。病院の職員である私たちが事前に相談内容を聞き、専門家の皆さんとの相談会に同席することで患者さんに安心感を与えられるよう心掛けています。

西村看護師:患者さんの考えや意向、価値観をお聞きし、現状とすり合わせて考えることが大事だと思っています。最終的に何を選択するかを決めるのは患者さんご本人ですから、そうした決定ができるように支えていくようにしています。併せて、私たち看護師は副作用対策や手術後の生活など身体的なアドバイスなどもしています。

平野看護師:私は主に、乳がんの患者さんをサポートさせていただくことが多いのですが、乳がんの患者さんは比較的若い女性の方が多いので、お金のことをご主人に相談するのをためらったり、病気のことを家族にどう伝えるか悩んだりする方もいらっしゃいます。このような患者さんのそれぞれのライフスタイルについては、ゆっくり話してみないと見えてこないと感じますので、しっかりとお話を伺い、その方の状況に合ったアドバイスをすることを心掛けています。

平野ゆりさん

事例 Aさんの就労支援のケース

実際に「がん治療生活を支える~仕事とお金のお悩み相談会~」で相談された患者さんのケースをお教えください。

西村看護師:婦人科系がんの40代の女性Aさん。治療終了後に復職を希望されました。患者さんの状況を整理し、相談会ではこの方の上司にご自身の意向をどう伝えるかをまず助言しました。社労士さんからは、社内の休職制度や、時短勤務、フレックスタイム制があるかなど労務規程をご本人に確認してもらうようアドバイスさせていただき、職場と折り合いを付けながら復職を目指す、という方向で進みました。

Aさん:40代女性(正社員) 婦人科系がん

2度目の抗がん剤治療終了後に、復職を希望。共働きで子どもを持つ。

最初にがん相談支援センターの看護師が、Aさんが置かれている家庭での役割や働く必要性などを確認。
その後、復職に向けて使える制度などを整理するため、「がん治療生活を支える~仕事とお金のお悩み相談会~」で相談。現時点での休職制度や、今後利用できる社内の制度などを確認した。
3ヵ月後に、がん相談支援センターの看護師が、就労に関する意見書の書き方を主治医と調整。
復職から5ヵ月後、がん相談支援センターの看護師が復職後の状況を確認。配置転換を打診されるなど働く環境が変わり、相談会で2回目の相談。休職前の職種で働けるように会社との交渉を再検討した。

西村看護師:この方の場合は病状に心配なところがあったので、私たち相談員は体の状況と仕事内容を考えながら、治療と仕事を両立するためのご本人の意思決定をサポートするように心掛けました。

竹谷社労士:Aさんの場合も、休職制度や傷病手当金をうまく活用しながら、冷静に復職について一緒に考える期間を設けるなど、相談会に来られた患者さんにとって、一番良い方法は何かを社労士の立場で常に考えながら相談に応じています。

多職種でチームになって患者さんを支える

がん患者さんが知っておいたほうがよい支援制度には、どのようなものがありますか。

竹谷社労士:ご自身の職場の就業規則をご存知ない方が多いので、まずはその内容を確認し、どのような制度があるかを調べましょう。それから、高額療養費制度、傷病手当金、障害年金などは事前に知っておくとよいですね。

西村看護師:働いている人については、就業規則と照らし合わせながら、できることを考えていきます。転職を考えているのなら、患者さんのやりたいこと、生きがいになることを一緒に探していく作業になりますね。

がん患者さんの中には、「主治医に仕事の相談をしていいのかな」とためらう人もいるようです。医師にはどのように伝えるのがいいでしょうか。

西村看護師:患者さんは治療の見通しが立たないために不安になって、今後の仕事や生活を考えにくくなっているように見受けられます。医師には治療期間や、治療によってどのような影響が出てくるのか、という質問をすることが大事だと思います。そのようなアドバイスを踏まえて、職場と交渉していくための糸口を見つけられるように、私たちが支えられればと考えています。医師、看護師、医療ソーシャルワーカーなど多職種で、チームとして患者さんをサポートしていきます。

三浦MSW:入院の申し込みをする入退院支援センターでは、治療開始前のがん患者さんと面談する看護師が、「困った時にはがん相談支援センターがありますよ」と案内してくれます。そこを通して、私たちとつながる人も非常に多いです。

西村看護師:外来の看護師も、がん患者さんの不安そうな表情に気付いたり、診断時など気になるがん患者さん、ご家族に、がん相談支援センターのパンフレットを渡してくれています。

西村裕美子さん

一人で抱え込まず、気軽に相談を

治療と仕事の両立で悩んでいるがん患者さんに、メッセージをお願いします。

平野看護師:医師に話しにくいことでしたら、外来の看護師でもいいので、一人で悩みを抱え込まずに気軽にお声掛けください。

岡本FP:「本当は相談したいのに、できない」という方は多いと思います。お金の具体的な相談は、夫婦や親にもしにくいものです。支援してくれる第三者にどんどん相談してほしいと思います。

竹谷社労士:今後のことを今の気持ちだけでなく、長期的な視点で考えて決めていただければと思います。職場には「お互いさま」ということがありますし、その気持ちを持ちながら仕事をしていただきたいですね。

西村看護師:患者さんにとって働くことは、生きがいや病気と向き合っていく力になると思います。つらいことは我慢せず、言葉にしてみてください。「これは関係のない話かな」と思うことでも実は社会的困りごとなどの問題と関わっていることがありますので、相談してみてください。一緒に考えていきましょう。

ありがとうございました。

相談風景

(原稿作成 2020年1月)

記事一覧に戻る