主に発現する時期が異なります
術後の合併症は手術に伴う出血や痛み、感染症、縫合不全(手術した後の組織がうまくくっつかない)などを指し、術後の比較的早い時期に生じます。術後後遺症とは手術のダメージから回復した後に残った傷跡のひきつれや痛み、癒着(ゆちゃく:本来、離れているべき組織がくっつくこと)、リンパ節切除に伴うむくみなどのほか、消化や排泄、発声、唾液分泌などの機能喪失といったものを指します。
一方、晩期合併症はがんそのものや治療の影響で、治療が終了してから数ヵ月〜数年後、ときには何十年もたってから生じることのある合併症のことで、がんの種類や、治療方法、治療した年齢などによって異なる症状が生じます。薬物療法や放射線療法などの治療の影響により正常細胞が傷つくことで生じる「二次がん」も晩期合併症に含まれます。そのため、治療終了後も患者さんの状況に合わせて長期の経過観察(フォローアップ)を必要とすることがあります。
術後合併症と後遺症によって生じる身体機能の喪失や外見の変化に対する辛さや対処法については、他のページで触れましたので、ここでは晩期合併症についてお話しします。
晩期合併症に備えて、治療の記録と症状日記をつけましょう
晩期合併症は小児がんで特に多く、ほかに血液がん(白血病、リンパ腫など)や胃がんなどでも現れることがあります。小児がんでは成長発達の異常、中枢神経系の異常(学習障害、てんかんなど)、心機能や呼吸機能の異常1)、血液がんでは慢性移植片対宿主病(GVHD:移植後、ドナー由来のリンパ球が正常臓器を異物とみなして攻撃することで皮膚や口腔粘膜、眼、肺に障害が起きます)や免疫力低下によるさまざまな感染症2)、胃がんではダンピング症状(胃の切除後の再建などで食べ物が直接腸に流れ込むことでめまいや動悸[どうき]、発汗などの症状が現れます)や骨粗しょう症3)などが知られています。近年の医療の進歩により、小児がんの治癒率は7~8割程度で4)、その他の多くのがんも治癒率は上向き傾向にあるようです。そのため、今後、長期フォローアップはますます重要になってきます。
晩期合併症は治療後、長期の潜伏期間を経て出現するケースがあり、就学や就労、結婚、出産などライフイベントのタイミングで出現し、人生の選択肢に影響する可能性があります。合併症に人生を左右されないよう、症状が出たらすぐに適切な治療が受けられるように備える必要があります。
治療を担当した主治医が経過観察を10年以上続けるケースは少ないと思います。したがって、晩期合併症の出現を前提に近隣で頼りになる「かかりつけ医」を探したり、「治療の記録」と「症状日記」をつけることが大切です。このほか、将来の医療費負担を見越して、加入条件が通常より緩やかで、がん体験者や持病がある人でも加入しやすい「引受基準緩和型医療保険」も考慮するとよいでしょう。
晩期合併症は、治療に何か問題があったからなるというものではありません。ほとんどの場合、何らかの変化を伴っており、ご自身でチェックしながら健康管理を続けていくことが重要です。
- 監修:
- 国立がん研究センター東病院 精神腫瘍科
科長 小川 朝生 先生