治療の選択

経済と就労の悩み
~32歳男性 非小細胞肺がんの場合~

Kさん:32歳 男性 肺がん・ステージⅢa
一級建築士(中堅建築事務所に在籍)。肺がんと診断され、手術と術後補助療法を受けることになる。一人暮らし。

乾いた咳がなかなか治らず、近隣の呼吸器内科を受診。胸部レントゲンで影を指摘され、総合病院を紹介されました。紹介先の総合病院で胸部CT検査と気管支鏡を使った生検を受けた結果、非小細胞肺がんのステージⅢa(リンパ節転移あり)と診断。手術と術後補助療法を受けることになりました。

32歳男性

「思ったより抗がん剤治療が辛く、仕事ができない……」

「手術が終わればすぐに仕事に復帰できると考えていました。手術前は取引先にも“しばらく留守にします”くらいの気持ちで挨拶をしていました」(Kさん)。

しかし、術後の抗がん剤治療は思ったよりも辛く、点滴治療を受けた翌日は吐き気と疲労感で1日中寝込んでしまい、その後も事務所に半日から数時間、顔を出すことがやっとだったそうです。現場に行くこともできません。

最初は事務所の勧めもあって長期休暇と傷病手当を申請しようと考えていたものの、何より現場の仲間に迷惑をかけているという罪悪感で眠れない日々が続きました。在宅ワークという選択肢もあったのですが、結局Kさんは退職を選びました。退職が決まったときは「将来の不安よりも、これでみんなの負担にならなくて済むとほっとする気持ちが強かった」と言います。

職場の人達が、迷惑だと思っているとは限りません

Kさんのように職場に迷惑をかけたくない、と退職を選ぶ方は少なくありません。でも、もしかしたら「迷惑をかけている」というのはあなたの取り越し苦労かもしれません。また、あなた自身ががんになったことを受け入れられず、他人も自分を拒絶するに違いないと、思い込んでいるのではないでしょうか。

例えば、自分の上司や同僚、部下が病気になり、仕事の分担が増えたと考えてみてください。あなたは「迷惑だから、退職すべきだ」と思うでしょうか。それとも「こっちはみんなでカバーできるから、治療に専念してほしい」と思うでしょうか。

がん治療の辛さの1つに、体調の波に振り回され、感情のコントロールができなくなってしまうことがあると思います。吐き気やだるさ、痛みが続くときは、何もかも放り出してしまいたいと思うこともあるでしょう。また、がんという病気をきっかけに、これまでの働き方を見直す方もおられると思います。「同僚に迷惑をかけるべきではないから、退職すべき」という「べき」思考は望ましくありませんが、「これを機会に、ゆっくり休みたい」と思う気持ちもあるかと思います。

ただ、辛さの真っ只中にいるときは、人間誰しも視野が狭くなり、極端な判断を下してしまいがちです。できれば一旦休職をして治療の見通しをつけ、気持ちが落ち着いてから決断をしても遅くはありません。

がんの治療は一生続くわけではありません。抗がん剤の副作用は、治療が終了して薬の影響が消えるにつれ徐々に治まっていきます。もちろん、治療後に障害や後遺症が残ることもあります。しかし、そのときは「その時点での最善」の対処を考えることが大切なのだと思います。

自分の気持ちに追い詰められそうになったら、誰かに悩みを聞いてもらい、心の奥底にある本心を整理してみてください。家族、友人、あるいは信頼できる同僚や、病院の相談室やソーシャル・ワーカー、あるいは労働基準監督署などに設置されている「総合労働相談コーナー」を利用するのもいいと思います。最近は産業医や産業保健師を置いている職場もあります。複数の専門家の力を借りながら気持ちを落ち着け、治療と仕事、社会とのつながりを両立させる道を探してみましょう。

一人で悩まない
監修:
埼玉医科大学国際医療センター 包括的がんセンター 精神腫瘍科
教授 大西 秀樹 先生

(2023年4月作成)

経済と就労の悩み