職場の人達が、迷惑だと思っているとは限りません
Kさんのように職場に迷惑をかけたくない、と退職を選ぶ方は少なくありません。でも、もしかしたら「迷惑をかけている」というのはあなたの取り越し苦労かもしれません。また、あなた自身ががんになったことを受け入れられず、他人も自分を拒絶するに違いないと、思い込んでいるのではないでしょうか。
例えば、自分の上司や同僚、部下が病気になり、仕事の分担が増えたと考えてみてください。あなたは「迷惑だから、退職すべきだ」と思うでしょうか。それとも「こっちはみんなでカバーできるから、治療に専念してほしい」と思うでしょうか。
がん治療の辛さの1つに、体調の波に振り回され、感情のコントロールができなくなってしまうことがあると思います。吐き気やだるさ、痛みが続くときは、何もかも放り出してしまいたいと思うこともあるでしょう。また、がんという病気をきっかけに、これまでの働き方を見直す方もおられると思います。「同僚に迷惑をかけるべきではないから、退職すべき」という「べき」思考は望ましくありませんが、「これを機会に、ゆっくり休みたい」と思う気持ちもあるかと思います。
ただ、辛さの真っ只中にいるときは、人間誰しも視野が狭くなり、極端な判断を下してしまいがちです。できれば一旦休職をして治療の見通しをつけ、気持ちが落ち着いてから決断をしても遅くはありません。
がんの治療は一生続くわけではありません。抗がん剤の副作用は、治療が終了して薬の影響が消えるにつれ徐々に治まっていきます。もちろん、治療後に障害や後遺症が残ることもあります。しかし、そのときは「その時点での最善」の対処を考えることが大切なのだと思います。
自分の気持ちに追い詰められそうになったら、誰かに悩みを聞いてもらい、心の奥底にある本心を整理してみてください。家族、友人、あるいは信頼できる同僚や、病院の相談室やソーシャル・ワーカー、あるいは労働基準監督署などに設置されている「総合労働相談コーナー」を利用するのもいいと思います。最近は産業医や産業保健師を置いている職場もあります。複数の専門家の力を借りながら気持ちを落ち着け、治療と仕事、社会とのつながりを両立させる道を探してみましょう。