治療の選択

セカンドオピニオン
〜58歳男性 喉頭がんの場合〜

Mさん:58歳 男性 喉頭がん・ステージⅢ
会社員。喉頭がんと診断され、喉頭全摘手術と頸部郭清術を勧められる。
配偶者と二人暮らし。

Mさんは長年喫煙していて、声がれや、のどに違和感がありましたが放置していました。
たまたまテレビ番組で芸能人の喉頭がんの体験談が放映され、心配になり耳鼻咽喉科を受診。すぐに専門病院を紹介され、喉頭がんと頸部リンパ節転移と診断、喉頭全摘手術と頸部郭清術を勧められました。

58歳男性

「ほかの治療法を知りたくて、セカンドオピニオンを申し出ました」

「ずーっとたばこを吸ってきたし、大酒飲みだけど、肺がんでも胃がんでもなくて、のどのがんになるなんて思いもしなかった。しかも手術で声が出せなくなるなんて辛すぎる」(Mさん)。

喉頭は「のどぼとけ」周辺の器官のことで、空気を気管へ、食べ物を食道へ振り分ける役割と、左右にある声帯を振動させて声を出す働きがあります。食事を摂る、発声するといった機能は生きるうえでとても大切なので、喉頭がんの治療方針を立てる際は、できるだけこれらの機能を残す治療法が模索されます。

しかし、早期(ステージⅠ、Ⅱ)であれば放射線治療や部分切除術で機能を残したまま治療することができますが、進行がん(ステージⅢ、Ⅳ)では、咽頭をすべて取り除く手術と隣接するリンパ節の切除術を勧められることも少なくありません。進行がんでも機能の温存を希望する場合は、放射線治療と薬物療法を組み合わせた治療法がありますが、治療後がんが残っている場合は部分切除術または全摘術などを行わざるを得ないこともあります。

「がん専門病院だから間違いはないんだろうとは思いました。でも、声を失うのは嫌だったので、ほかに方法がないのかできる限り調べたかった」と、Mさんはセカンドオピニオンを申し出ることにしました。

セカンドオピニオンは「あなたが期待する意見をもらうため」ではありません

主治医にセカンドオピニオンを受けたいと申し出た当初は「嫌な顔をされるかな」と思ったそうですが、意外にも快く“その方がよいでしょう”と言われました。喉頭がんを含めた首から上に生じる「頭頸部(とうけいぶ)がん」は、治療によっては大切な機能や見た目に大きな影響が生じます。それだけにセカンドオピニオンに慣れている診療科といえますが、ほかの診療科でも遠慮は無用です。

セカンドオピニオンを受けるに際して注意してほしいのは「人間は自分が期待する意見を歓迎してしまいがち」だということです。しかも「がんの診断・告知」「声を失う治療方針」と自分にとって辛い体験の象徴になっている主治医の言葉より、初対面の医師の言葉のほうが何となくよく聞こえるものです。

Mさんを例にすると、喉頭全摘術よりも声を失う可能性が低い放射線治療や部分切除術を望む気持ちが強いはずです。もし、セカンドオピニオンで「部分切除術のみで大丈夫ですよ」という回答をもらったらどうでしょうか?うれしくてすぐにでも転院したい気持ちになりますね。

しかし、まずはセカンドオピニオンの結果を主治医のところに持ち帰り「自分はこちらの治療法がよいと思うのですが、先生はどう思いますか?」と話し合うことが大切です。セカンドオピニオンの目的は、多角的な視点でもって、あなたが納得する最善の治療法を探すお手伝いをすることであり、「あなたが期待する意見をもらうため」ではありません。

セカンドオピニオンで主治医の治療方針を肯定された場合は、安心して治療に向き合うことができると思います。逆に、異なる治療方針を提示された場合は、その治療のメリットとデメリットをきちんと尋ねてください。

例えばMさんで部分切除術のみの場合、声を温存できる可能性がある一方、再発リスクが高くなる可能性があります。この場合は、再発した時の治療法についても聞いておきましょう。そのうえで主治医と一緒によく考えることがあなたの納得する最善の治療につながります。

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監修:
埼玉医科大学国際医療センター 包括的がんセンター 精神腫瘍科
教授 大西 秀樹 先生

(2023年4月作成)

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