- LLさん:64歳 女性 S字結腸がんの再発
- 専業主婦で夫と二人暮らし。
S字結腸がんと肝転移が見みつかり、手術と抗がん剤治療を受けました。しかし、治療終了1年後の定期検診で再発(肝転移)がわかり、抗がん剤治療を勧められました。
「副作用がほとんどないとうたっている自由診療を見つけました」
初期治療(手術と抗がん剤治療)を終了してちょうど1年を過ぎたある日、定期検診で肝臓に新しい転移が見つかりました。すぐに入院、手術となったものの、予想よりがんが大きかったようで、結局そのまま切開部を閉じて、抗がん剤を再開しましょうと主治医に言われました。
「初期治療の抗がん剤の副作用が本当につらかったんです。吐き気もひどかったし、脱毛も女性なので悲しかった。なのに、また抗がん剤…どうしようもなく胸が苦しくなりました。落ち込んでいたら、夫がインターネットであるクリニックが行う自由診療の免疫療法を見つけてきてくれて、副作用はほとんどないと書いてありました」(LLさん)。
自由診療では、効果や安全性が証明されていない治療を受けることになります
免疫療法とは、ウイルスなどの異物を排除する「免疫」の力を利用して、がん細胞を攻撃する治療法です。薬物療法で起こるような、吐き気や脱毛などの副作用は少ないと報告されていますが、全身に様々な副作用が起こる可能性があります1)。2023年現在、国の厳しい基準で治療効果が認められ、保険診療で利用できる免疫療法はICI(免疫チェックポイント阻害剤)とCAR-T(カーティー)療法、BCG、インターフェロン、インターロイキン、免疫抑制阻害薬(抗CCR4抗体、抗CD38モノクローナル抗体)および一部の二重特異性抗体や遺伝子発現治療製品などであり、使えるがんの種類も限られています2)。
一方、LLさんのご主人が探してきた自由診療の免疫療法は、ペプチドワクチンや樹状細胞ワクチンを使うがんワクチン療法というもので、効果や安全性が証明されていません。また一部には、保険診療と自由診療を併用するクリニックもありますが、こうしたクリニックでは副作用に対してきちんと対処できず、死亡例が報告されています3)。このような危険性もあるということを知っておいてください。
自由診療に対して、「これしかないんだ」と思い詰めないようにしましょう
さらに、自由診療は高額療養費制度の対象外のため、高額な費用が全額自己負担になります。なかには1コース数百万円という高額の前払い金を請求されたうえに、「治療の途中で何があっても、返金はしない」という契約書に押印させられたケースもあるようです。確かに自由診療は、不安を鎮め希望をつなぐものなのかもしれません。しかし、自分とご家族の時間やお金を費やすに値するかどうかは考えどころです。「これしかないんだ」と思い詰めずに、「利用しない」という選択肢もあるということを頭の片隅においておきましょう。
LLさんとご主人は、自由診療の治療費が高額なことに驚いたそうです。「でも、これがしたい!と諦めきれなかったんです。ある日、夫が“初期治療の抗がん剤の副作用がひどかったので、副作用が少ないというがんワクチン療法を受けさせてやりたくて…”と主治医に相談したところ、主治医は自由診療についてわかりやすく説明してくれ、“副作用が少ない抗がん剤を検討します”と言ってくれました。結果、自由診療に頼らず、以前より副作用の少ない治療を受けられるようになりました」(LLさん)。
このように「自由診療を受けたい」と主治医に相談することはとても大切です。「あきれられるかも」「先生との関係をこわしたくない」という気持ちが強いときは、がん相談支援センターのスタッフや緩和ケアチームのメンバーなどに打ち明けてみましょう。
- 監修:
- 大阪国際がんセンター 心療・緩和科(精神腫瘍科)
部長 和田 信 先生