8薬物療法について
薬物療法とは、どのような治療法ですか?
薬剤を全身に行き渡らせて、がん細胞を攻撃する治療法です。
大腸がんでは、手術後に行う「術後補助化学療法」と、切除ができない進行・再発大腸がんに対する薬物療法があります。
- 術後補助化学療法は、手術後に残っている可能性がある目に見えないがん細胞を根絶し、再発を防ぐために行われます。主な対象は、ステージⅢ、または再発の危険性が高いと考えられるステージⅡで、全身状態が良好な患者さんです。
「フッ化ピリミジン系」と呼ばれる抗がん剤を中心に、単剤、または作用の異なる薬を組み合わせた治療法が用いられます。
治療は、術後8週間ごろまでに開始し、6ヵ月間続けるのが一般的です。 - 切除が難しい進行・再発大腸がんに対する薬物療法では、がんの進行スピードを抑え、つらい症状を緩和して、よい状態を長く維持することを目指します。
使われる薬剤は、「抗がん剤」「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」などの種類があり、患者さんの全身状態や合併症の有無、がん細胞の性質(遺伝子変異など)を考慮して決められます。
初回治療では、複数の抗がん剤に1種類の分子標的薬を加えた治療法を行うのが一般的です。ただし、BRAF 遺伝子検査で異常が認められた患者さんでは、使われる薬剤が異なることがあります。
最近は、薬物療法が大きく進化し、治療の反応性を予測するための検査法も登場したことで、個々の患者さんの状態に応じた治療が行えるようになってきました。
国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん」
もっと知ってほしい大腸がんのこと, p14-18, NPO法人キャンサーネットジャパン, 2019

化学療法(抗がん剤)
抗がん剤(細胞傷害性抗がん剤)は、主に細胞が分裂する増殖過程に作用してDNAの合成を妨げたり、その機能を障害することで、がん細胞の増殖を抑える働きがあります。

- 「フッ化ピリミジン系」と呼ばれる抗がん剤が基本として用いられます。
投与法は、点滴によるものと、内服(飲み薬)よるものがあります。 - 大腸がんの化学療法では、フッ化ピリミジン系の抗がん剤に、他の抗がん剤を2〜3種類組み合わせた併用治療が多く用いられます。
分子標的療法(分子標的薬)
分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わる特定のタンパク質に作用し、がん細胞が増えるのを抑える働きがあります。大腸がんでは3つの種類があります。

- 抗
EGFR 抗体薬
がんの増殖に関わるEGFRタンパク質の働きを抑える働きがあるお薬です。
対象は、RAS 遺伝子に変異のない(野生型の)患者さんに限られます。 - 血管新生阻害薬
がん細胞に栄養を与える新しい血管の形成を抑える働きがあるお薬です。 - キナーゼ阻害薬
がん細胞の増殖に関わる複数のタンパク質の働きを抑える働きがあるお薬です。
がん免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)
私たちの体は、免疫機能が正常に働いている状態では、T細胞などの免疫細胞が、がん細胞を「自分でないもの」と判断し攻撃します。しかし、がん細胞が、免疫機能から逃れようと免疫細胞にブレーキをかけ、攻撃から逃れていることがわかっています。薬剤を用いて、がん細胞による免疫細胞へのブレーキを解除し、患者さん自身にもともとある免疫の力を使って、がん細胞への攻撃力を高める治療法を「がん免疫療法」といいます。
- 使われる薬剤
「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれるお薬が使われます。
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫のブレーキ役の部分(免疫チェックポイント)に結合する働きがある抗体薬です。 - 大腸がんに対する治療対象
切除が難しい進行・再発大腸がんで化学療法を受けたことがある患者さんのうち、がん細胞に「高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI -High )」と呼ばれる特徴が認められた方が対象となります。
MSI-Highかどうかは、内視鏡や手術で採取したがん組織のDNAを用いた「MSI 検査」によって確認します。
国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん」
もっと知ってほしい大腸がんのこと, p14-18, NPO法人キャンサーネットジャパン, 2019