がんの発生と免疫の関係
がんは、体の中の正常な細胞の遺伝子が変化を起こした異常な細胞(がん細胞)の集まりです。私たちの細胞は、日々新しく作られて入れ替わっています。その中で、がん細胞のようにこれまでとは少し形や性質の違う不良品が作られることも珍しくありません。実は、私たちの体の中では、1日に数千個ものがん細胞が発生しているといわれています1)。
このとき活躍するのが、「免疫」です。
免疫とは、自分にとっての「異物」を見つけて、攻撃し取り除くはたらきのことです2)。異物には、細菌やウイルスなどの病原体だけではなく、自分の体の中の異常な細胞であるがん細胞もあてはまります1)。この免疫のはたらきによって、がん細胞の多くは異物と認識され、攻撃・排除されています。その中で、異物と認識されずに残ってしまったものがどんどん増殖していき、「がん」として発見されるのです。
免疫では、白血球などの免疫担当細胞がはたらきます。このうちT細胞は、免疫反応の司令塔であるとともにがん細胞を認識して直接攻撃する性質をもっていて、がん免疫で重要な役割を果たします。
1,2)より作成
免疫によってがん細胞が取り除かれる仕組み
免疫は、まず「自然免疫」、次に「獲得免疫」という、二段構えで体を守っています1)。がん細胞は通常、これらの免疫システムによって攻撃・排除されています1,2)。
(免疫の基本的なはたらきについてはこちらをご覧ください。)
第一の防衛ラインである自然免疫では、マクロファージなどの食細胞ががん細胞を直接食べて、がん細胞が増えるのを食い止めます。またNK(ナチュラルキラー)細胞はがん細胞を異物と見なして直接攻撃し、体からがん細胞を取り除きます。これに加えてNK細胞は、サイトカインという物質を出すことでT細胞やマクロファージを活性化させ、間接的にがん細胞を攻撃します1)。
第二の防衛ラインである獲得免疫では、T細胞に異物の情報を伝える樹状細胞や、免疫系の司令塔であるT細胞が活躍します。
がん細胞はその細胞の表面に、目印となる「がん抗原」というタンパク質をもっています。自然免疫の攻撃などによりがん細胞が破壊されると、がん細胞からこのがん抗原が放出されます。自然免疫によって活性化された樹状細胞は、このがん抗原を取り込んで自分の細胞表面にもち出し、T細胞に差し出す(抗原提示する)ことで、がん抗原の情報を記憶させます1)。がん抗原の情報を記憶したT細胞は、同じ目印をもつがん細胞を体中から探し出し、ピンポイントに攻撃して取り除くのです。
このように、がん細胞をはじめとする体の中のあやしい細胞を異物と見なしてすばやく攻撃する仕組みが自然免疫であるのに対して、獲得免疫はこれまでに記憶した異物の目印であるがん抗原をもつお目当てのがん細胞を効率よく認識し、ピンポイントに攻撃をしかける仕組みといえます1)。
免疫は、自然免疫と獲得免疫という二段構えの作戦で、私たちの体をがん細胞から守ってくれています。