Step1 がんと免疫のはたらき

2免疫から逃れるがん

免疫の目を逃れて増殖したがん細胞が、「がん」として発見される

通常は免疫システムによって取り除かれるがん細胞ですが、自分自身の性質を少しずつ変化させながら、さまざまな方法で免疫による攻撃から逃れて増殖しようとします。こうして歯止めがかからずに増えていき、一定の大きさになったときに初めて「がん」として発見されるのです。このときのがんは、免疫に対して手ごわい性質をもったがん細胞の集まりです1)

がん細胞とT細胞

免疫の目をすり抜ける性質をもつがん細胞

がん細胞が免疫システムによる攻撃から逃れる性質を「免疫逃避機構」といい、さまざまな手段があることが分かっています2)

●「目印」を隠して、免疫システムから見つかりにくくする

がん細胞は、その細胞の表面に目印(「がん抗原」と呼ばれるタンパク質)をもっています。免疫細胞は、目印であるがん抗原を見つけると、がん細胞を自分ではない異物と見なして攻撃します2)(下図左)。そこでがん細胞は、このような免疫の性質を逆手にとって、この目印であるがん抗原を自分の細胞の表面から隠すことで、免疫細胞による攻撃から逃れていることが分かりました2)(下図右)。

免疫細胞ががん抗原を認識してがん細胞を攻撃する

免疫細胞ががん抗原を認識して
がん細胞を攻撃する

がん細胞の表面からがん抗原がなくなり(少なくなり)、免疫細胞ががん細胞を認識できない

がん細胞の表面からがん抗原がなくなり(少なくなり)、免疫細胞ががん細胞を認識できない

●免疫システムを抑制する

がん細胞は、免疫がうまくはたらかなくなるような物質(免疫抑制物質)を自分自身から出したり、また免疫を抑制する細胞から出させたりすることで、T細胞などの免疫細胞のはたらきを弱めることもできます2)

免疫を抑制する物質を出して、免疫細胞のはたらきを弱める

免疫を抑制する物質を出して、免疫細胞のはたらきを弱める

またがん細胞は、免疫が本来もっている免疫ブレーキ機能をうまく利用して、免疫のはらたきを抑制します。
私たちの体は、過剰な免疫反応によって自分の正常な細胞が傷つけられたりしないよう、免疫システムにブレーキがかかる機能をもっていて、これを「免疫チェックポイント」といいます1)。この機能に関わる分子は「免疫チェックポイント分子」と呼ばれ、T細胞の表面などに存在しています。T細胞がもつ免疫チェックポイント分子に「攻撃やめ!」の指令が入ると、T細胞のはたらきが抑えられて、過剰な免疫反応が起こらないようになっています1)(下図左)。
ところが、がん細胞の中には、その細胞表面上に免疫チェックポイント分子をもっているものがあります。そのようながん細胞は、自分の免疫チェックポイント分子とT細胞の免疫チェックポイント分子を結合させることで、T細胞に「攻撃やめ!」の指令を入れ、免疫反応にブレーキをかけることができるのです1)(下図右)。
このように、免疫が本来もつブレーキ機能をたくみに利用することで、免疫の攻撃から逃れ、生き残ろうとするがん細胞が存在することも分かりました。

T細胞の表面にある免疫チェックポイント分子に「攻撃やめ!」の指令が入り、免疫反応が抑制される

T細胞の表面にある免疫チェックポイント分子に「攻撃やめ!」の指令が入り、免疫反応が抑制される

がん細胞の免疫チェックポイント分子がT細胞の免疫チェックポイントに結合すると、「攻撃やめ!」の指令が入り、免疫反応が抑制される

がん細胞の免疫チェックポイント分子がT細胞の免疫チェックポイントに結合すると、「攻撃やめ!」の指令が入り、免疫反応が抑制される

がん細胞は、あの手この手を使って免疫の目をすり抜けて生き残り、体の中でどんどん増えていくのです。

参考
  • 1)河上裕, 実験医学 増刊. 31(12): 14-20, 2013
  • 2)医療情報科学研究所, がんがみえる(第1版), 8-11, 160-163, 2022

(2023年5月作成)