小野薬品の薬をご使用の方向け情報

大腸がんの治療でオプジーボとヤーボイの併用療法を受けた方へ

オプジーボ(一般名:ニボルマブ)とヤーボイ(一般名:イピリムマブ)は、私たちがもともと持っている免疫の力を回復させることでがんへの攻撃力を高める、これまでとは異なるメカニズムに基づく〝がん免疫療法〟の治療薬です。

大腸がんの治療と薬物療法

大腸がんの主な治療法には、内視鏡治療や手術治療、放射線療法などの局所的な治療と、薬による全身的な治療である「薬物療法」があります。このうち、がんが進行している患者さんや、再発をきたした患者さんについては、それぞれの治療の特長を生かしながら、単独またはいくつかを組み合わせた治療が行われます。
薬物療法については、従来の抗がん剤による薬物療法に加え、「分子標的薬」や「がん免疫療法」が臨床に使えるようになり、治療の選択肢がさらに広がりました※※
がん免疫療法の薬は、そのメカニズムから「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれています。
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬では、遺伝子変異をもつ大腸がんに対して効果が示されるものもあり、治療の前に遺伝子変異があるか、検査を行うことがガイドラインですすめられています。

※詳しくは「用語集」をご参照ください。
※※オプジーボとヤーボイによる併用療法の対象となる方(大腸がん)についてはこちらをご参照ください。
がん免疫療法
大腸癌研究会編:大腸癌治療ガイドライン 医師用, 2024年版, 金原出版, 2024

「がん免疫療法」「免疫チェックポイント阻害薬」について詳細をみる

がん免疫とは

オプジーボ・ヤーボイ併用療法とは

◆2種類の異なる免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせて用いる治療法です。

オプジーボとヤーボイは、T細胞にかけられた免疫のブレーキを解除する働きがある「免疫チェックポイント阻害薬」です。
オプジーボは「PD-1」、ヤーボイは「CTLA-4」と呼ばれるT細胞のアンテナにそれぞれ結びつくことで、抑制信号をブロックし、免疫のブレーキを外します。これによってT細胞は、妨害を受けることなく、再びがん細胞を攻撃できるようになります。
オプジーボ・ヤーボイ併用療法は、2種類の免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせることで、がんに対する攻撃力をさらに高め、より効果的な治療を行うために用いられます。

オプジーボとヤーボイの併用療法について詳細をみる

小野薬品の薬を使用された方へ
オプジーボ・ヤーボイ併用療法

治療の進め方(オプジーボ・ヤーボイ併用療法からオプジーボ単独投与への流れ)

◆オプジーボ・ヤーボイ併用療法は、通常4サイクル行います。その後オプジーボによる単独投与に移行します。

投与スケジュール
投与スケジュール画像拡大
オプジーボ電子添文 2025年8月改訂(第25版)/ヤーボイ電子添文 2025年8月改訂(第16版)より作成

投与方法(併用療法とオプジーボ単独投与)

◆オプジーボとヤーボイは、点滴で投与します。

投与スケジュール
オプジーボ電子添文 2025年8月改訂(第25版)/ヤーボイ電子添文 2025年8月改訂(第16版)より作成

オプジーボ・ヤーボイ併用療法の対象となる方

オプジーボ・ヤーボイの併用療法は、大腸がんの患者さんのうち、手術による治療が難しい、あるいは再発をきたした患者さんが対象となります。それに加え、がん細胞の検査で「高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-Highエムエスアイハイ)」や「ミスマッチ修復機能欠損(dMMRディーエムエムアール)」という特徴が認められた患者さんが対象となります。

MSI-HighやdMMRかどうかは、手術などで採取したがん組織のDNAを調べる「MSI検査」や、タンパク質を調べる「MMR検査」によって確認します(詳しくは「用語集」をご参照ください)。

治療を受けることができない患者さん

オプジーボやヤーボイに含まれている成分に対して、以前、アレルギー反応(気管支けいれん、全身性の皮膚症状、低血圧など)を起こしたことがある方は、さらに重いアレルギー反応が出る可能性があるため、オプジーボやヤーボイによる治療は受けられません。

治療を慎重に検討する必要がある患者さん

次のような方は、オプジーボやヤーボイによる治療を受けられないことがあります。

  • ◎自己免疫疾患にかかったことがある方
  • ◎間質性肺疾患**にかかったことがある方
  • ◎臓器移植(造血幹細胞移植を含む)を受けたことがある方
  • ◎結核にかかったことがある(発症する恐れがある)方
自己免疫疾患
免疫機能が正常に機能しなくなり、体が自分の組織を攻撃してしまう病気で、関節リウマチや1型糖尿病などが自己免疫疾患に含まれます。
** 特に注意すべき副作用をご参照ください。

オプジーボ電子添文 2025年8月改訂(第25版)/ヤーボイ電子添文 2025年8月改訂(第16版)

MSI-Highがんについて

◆大腸がんにおけるオプジーボとヤーボイの併用療法はMSI-Highが認められた患者さんが対象です。

◎ミスマッチ修復機構とMSI-Highがん

大腸がん患者さんの一部は、がん細胞のDNA上にある繰り返し配列の数が増えている「MSI-High大腸がん」と診断される場合があります。また、DNAの複製時に起きたミスを修復する機構の異常がある場合(dMMR)、繰り返し配列の数が増えたり、がん化に関与する遺伝子の異常が蓄積したりするため、MSI-Highがんの状態になると考えられています。

ミスマッチ修復機構とMSI-Highがん

◎MSI-Highがんとがん免疫療法

MSI-Highのがん細胞では、遺伝子変異によって異常なタンパク質が作られて免疫細胞が攻撃する際の目印になることで免疫が活性化される一方で、免疫チェックポイント機構によって免疫の働きにはブレーキがかけられています。そのため、MSIHigh大腸がんの患者さんには、がん免疫療法が効きやすいとされています。

MSI-Highがんとがん免疫療法

◎MSI-Highの検査とオプジーボ・ヤーボイ併用療法の適応

MSI検査は、腫瘍から採取した組織のDNAを抽出して繰り返し配列の増幅を調べます。MMR検査は、腫瘍から採取した組織でMMRに関連するタンパク質の発現状況を調べます。

※詳しくは「用語集」をご参照ください。
MSI-Highの検査とオプジーボ・ヤーボイ併用療法の適応

日本臨床腫瘍学会/日本癌治療学会/日本小児血液・がん学会編:
成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン 第3版, p9, 16-17, 20, 金原出版, 2022
オプジーボ電子添文 2025年8月改訂(第25版)/ヤーボイ電子添文 2025年8月改訂(第16版)

特に注意すべき副作用、注意が必要なその他の副作用、ご注意

オプジーボとヤーボイによる治療中または治療後は、副作用が現れることがあるので注意が必要です。下記リンクから詳細をご確認ください。

オプジーボ・ヤーボイ併用療法の副作用、注意点などについて詳細をみる

治療終了後の注意点

◆副作用は、治療期間中だけでなく、治療終了後にも現れることがあります。

副作用が発現しても、早期に見つけて適切な対処を行えば、重症化を防ぐことにつながります。治療が終わったあとも、気になる症状が現れた場合はご自分で対処せず、すぐに医師や看護師、薬剤師に連絡してください。

◎適切な治療のために

「オプジーボ・ヤーボイ連絡カード」

  • オプジーボとヤーボイによる治療を受けている(受けていた)ことを医療者に知らせる携帯用のカードです。
  • 他の病院を受診したり薬局でお薬を処方してもらう際は、このカードを必ずご提示ください。財布などに入れて常に携帯しておきましょう。
オプジーボ・ヤーボイ連絡カード

「おくすり手帳シール」

  • おくすり手帳に貼っておくことで、医療者に副作用への注意や相互作用の確認などを促すシールです。 /li>
  • 確認しやすいページに貼ってお使いください。
おくすり手帳シール

緊急時の病院への連絡について

◆緊急受診が必要になった場合に備えて次の点を確認しておきましょう。

オプジーボとヤーボイによる治療期間中や治療後に、病院への緊急連絡や緊急受診が必要になることがあるかもしれません。そのための備えとして、次の点を確認しておきましょう(緊急連絡先の電話番号は、目につくところに置いておくことも大切です)。

◎緊急連絡・受診の備えとして確認しておきたいこと

  • 病院の連絡先(夜間の連絡先)の電話番号
  • 病院に向かうための交通手段
  • 付き添いが必要な場合の支援方法と連絡先

(あわてなくて済むように、あらかじめ書き留めておきましょう)

連絡する患者さんのイラスト

◎病院に連絡する際に伝えておきたいこと

  • 患者さんの氏名、診察券の番号
  • 通院している診療科
  • オプジーボとヤーボイによる治療を受けている(受けていた)こと
  • いつから、どのような症状が出ているのか
  • その症状で、どんなことに困っているか

(電話する際は、診察券を手元においておくとよいでしょう)

治療についてのQ&A

用語集

進行がん
がんが大きくなっていたり、できた場所から広がっていて、治りにくいがんです。大腸粘膜から発生したがんはその進行と共に腸管壁の深部へと進展していきます。一般的には粘膜下層より深い層に達していると「進行大腸がん」と呼びます。
再発
手術による切除などの方法でがんが一度なくなったあとに、再び増殖したがんが発見されることが「再発」です。再発と転移は同時に見つかることもあります。
薬物療法(化学療法)
抗がん剤(細胞障害性抗がん剤)を投与して、がん細胞の増殖を抑える薬物療法は化学療法と呼ばれます。細胞障害性抗がん剤とは、主に細胞が分裂する増殖過程に作用して細胞の増殖を阻止する働きがある薬剤をいいます。
分子標的薬
がん細胞の発生や生存に強く関わっている遺伝子やタンパク質を標的にした薬のことを「分子標的薬」といいます。大腸がんでは、主にがんが新しい血管を作るための信号や細胞が増える際に使う信号、およびその伝達役として働くタンパク質を標的とした薬が使われます。
免疫チェックポイント阻害薬
免疫チェックポイントと呼ばれている免疫のブレーキ役の部分に結合する抗体(抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体など)を用いて、がん細胞による免疫のブレーキを外し、がん細胞への攻撃力を回復させる治療薬です。
T細胞
血液中を流れている白血球のうち、リンパ球と呼ばれる細胞の一種で、異物から体を守る司令塔となる細胞です。T細胞という名前は、胸腺(thymus)でつくられることから、頭文字のTを取って名付けられています。
抗原提示細胞
病原菌やがん細胞などの断片を「抗原」として取り込み、その情報をT細胞に伝える血液細胞です。T細胞は、抗原提示細胞から抗原の情報を受け取ることで活性化し、免疫反応が開始されます。
MSI(マイクロサテライト不安定性)検査
がん細胞のDNAにある「マイクロサテライト」と呼ばれる部分に異常がどのくらいあるかを確認する検査です。マイクロサテライトの異常の数は、免疫チェックポイント阻害薬の効果と関係があることから、治療効果を予測する指標としても用いられています。
正常細胞(上)とがん細胞(下)での繰り返し配列の検査イメージ
正常細胞(上)とがん細胞(下)での繰り返し配列の検査イメージ
MMR(ミスマッチ修復)検査
がん組織でDNAの複製時に起きたミス(ミスマッチ)を修復する機能を担うMMRタンパク質の存在を免疫染色によって確認する検査です。MMRタンパク質として発現を調べる4種類のうち、ひとつ以上で消失が確認された場合、dMMR(MMR機能欠損)として判定されます。dMMRのがんでは、免疫ががんの制御に重要な役割を担っているため、免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待されています。
MMRに関連するタンパク質の発現がなくなっている場合、dMMRと判定
MMRに関連するタンパク質の発現がなくなっている場合、dMMRと判定
1型糖尿病
主に自己免疫によって起こる病気で、 自分の体のリンパ球が膵臓にある膵島β細胞を破壊してしまうことで発病します。遺伝的な要因に運動不足や食べ過ぎなどの生活習慣が加わって発症する「2型糖尿病」とは発症原因が異なります。
アナフィラキシー
アレルギーの原因になる物質が侵入することで引き起こされる全身的なアレルギー反応をいいます。全身の発疹やかゆみ、呼吸困難などの症状が急速に現れ(数分~数時間以内)、重症になると生命に危険が及ぶこともあるため、迅速な対応が必要となります。

国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん(結腸がん・直腸がん)/がんに関する用語集/免疫療法/薬物療法」
日本臨床腫瘍学会編:新臨床腫瘍学 改訂第7版, p256-285, 641-643, 南江堂, 2024
カラー図解人体の正常構造と機能Ⅶ 血液・免疫・内分泌 改訂第5版, p32-33, 日本医事新報社, 2025
日本臨床腫瘍学会/日本癌治療学会/日本小児血液・がん学会編:
成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン 第3版, p9-20, 金原出版, 2022
日本糖尿病学会編:糖尿病診療ガイドライン2024, p14, 南江堂, 2024
日本臨床腫瘍薬学会編:臨床腫瘍薬学 第2版, p731-740, じほう, 2022

オプジーボ・ヤーボイ併用療法 治療日誌

オプジーボ・ヤーボイ併用療法による治療中、特に気をつけていただきたい症状をチェック項目としてまとめています。

監修:国立がん研究センター東病院
副院長(研究[医薬品]担当)
医薬品開発推進部門長/消化管内科医長(併任)
吉野 孝之 先生

(2025年8月作成)