治療

身体機能の喪失
〜66歳男性 直腸がんの場合〜

Uさん:66歳 男性 直腸がん・ステージⅡ
妻と二人年金暮らし。

血便で大腸・肛門科を受診したところ、直腸がんと診断されました。がんの位置が肛門からすぐ近くだったため、がんの切除と同時に人工肛門(ストーマ)を造設することになりました。

66歳男性

「人工肛門(ストーマ)と聞いて人生が終わったな、と思った」

「ストーマになると先生から説明されたときは、『俳優の〇〇〇さんと同じだな』なんて軽いノリで妻と話せていたんですけどね。一人になってしばらくしたら、“もう俺の人生は終わったな”と悲観しました」(Uさん)。

ストーマとは、手術によってお腹に作る便や尿を排泄する出口のことです。何か特別な機械を使うのではなく、自分の腸や尿道をお腹の外に出して、便や尿を排泄できるようにします。手術後しばらくは、看護師がストーマの管理を行いますが、退院に向けて徐々に自分で管理・処置する方法を学んでいきます。その過程でボディイメージの変化と向き合えるように心のケアも行われていきます。

一人で抱え込まず、サイコオンコロジスト(精神腫瘍医)などに相談しましょう

術後、Uさんは自分のお腹を見ようとはしませんでしたが、看護師さんがストーマケアをしてくれているときに、「とてもきれいな形のストーマですね」と言ってくれたのをきっかけに初めてストーマに目を向けました。“思ったより汚れていないんだ”と、少し安心したUさんは、それから看護師さんがケアをする合間に、質問をしたり手を出したりすることが増え、術後の痛みが小さくなってきた5日目には、自分でもやってみるようになりました。

ストーマについては術前の説明で理解していたとしても、現実に自分の身体の一部として受け入れるには誰でも時間がかかるものです。

また、入院中は医療者や家族などに励まされて一旦は受け入れることができたとしても、退院した後は生活のシーンごとに感情を揺さぶられることが出てきます。ストーマのことを家族以外には話せず、排泄の失敗が怖くて家に引きこもる人もいます。実際、Uさんも退院後2年近く外出を避けたそうです。

これが自分だと思えるまでには少し時間がかかるかもしれません。しかし、自分の気持ちに折り合いをつけるには必要な時間です。焦る必要はありません。そして、どうか自分一人で抱え込まず、医療者やサイコオンコロジストなどに今の気持ちを言葉にして吐き出してみてください。辛い気持ちはもちろんありますが、変化した生活の中でできていることにも意識を向けてみましょう。

ストーマの方を長期的にサポートするための専門外来「ストーマ外来」では、日常生活を快適に送るための細かいケアをお伝えしています。1歩1歩進むうちに、今ここでの生活に集中できるようになっていくことでしょう。

オストメイト(人工肛門・人工膀胱保有者)の交流会があります

現在、永久的なストーマを造設した方は22万人を超えており1)、オストメイト(人工肛門・人工膀胱保有者)が安心して暮らせる社会を目指す公益社団法人 日本オストミー協会のHP(2023年2月21日閲覧、http://www.joa-net.org/)には全国の支部が掲載されています。辛いときはお近くの支部が主催する交流会などに顔を出してみるのはどうでしょうか。先輩の経験談はきっとあなたを落ち着かせてくれるはずです。また「20/40フォーカスグループ」という若い世代の交流グループもあり、結婚、出産、仕事という大事な内容についての情報交換ができます。

近くの支部が主催する交流
監修:
国立がん研究センター東病院 精神腫瘍科
科長 小川 朝生 先生

(2023年4月作成)

身体機能の喪失