再発に不安や恐れをいだくのは当たり前のことです
初回治療を終えたがん患者さんの多くは、異口同音に「“再発するかもしれない”という不安が頭を離れない」と言います。「不安」や「恐れ」という感情は、危険をいち早く察知して対処するために備わった生き物の本能ですから、再発という未知の危機に対して強い不安を感じるのはごく当たり前のことです。ただ、心身の健康や生活に支障が出るほどに不安や恐れが強いときは、何らかの対策が必要です。
強い不安や恐れを感じる原因の一つは「よくわからないこと」です。ですから、初回治療が終了して落ち着いたころを見計らい、再発率や再発した際の治療法などについて主治医に詳しく聞いてみましょう。「そんな話を聞いたら、ますます怖くなるのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、知ることで、具体的な対処法などを前もって考えておけることから、不安が限定される可能性は高いと思われます。また、再発リスクを少しでも抑えるための具体的な方法(適切な運動や食事など)を主治医を含む医療者から教えてもらうのもよいでしょう。
不安や恐れといった感情から、気をそらしてみましょう
「再発については考えないようにしている」という方も多いと思います。ただ、「考えてはいけない」と努力をしているようであれば、本当は不安で頭がいっぱいになっているともいえます。こういうときは一度、気持ちを切り替えて緊張を解くことが大事です。緊張を解くために、目を閉じてゆっくり腹式呼吸をしましょう1)。この呼吸法は簡単なリラックス法として知られており、筋の緊張緩和、心拍数の減少、血圧の低下などにつながり、精神面や身体面の回復に役立つとされています1, 2)。
ときには、別なことに気持ちを向けてみるのもよいでしょう。散歩や運動で体を動かす、好きなテレビ番組を見る、凝った料理を作る、買い物に出かける、あるいは趣味やお気に入りのことなどをしてみたり、日常であなたがくつろげる時間、楽しめる時間に注意を払ってみましょう。最初は難しいかもしれませんが、意識して続けていくうちに「不安に陥りそうだな」というタイミングで、うまく気持ちを切り替えることができるようになると思います。
あるがん体験者の女性はこう語っていました。「何年たっても不安が消えることはありません。今でもちょっとしたことがきっかけで息が詰まったり、恐怖に襲われたりします。でも、そうしたときは空を見上げたり、道ばたの草木に触れたりして、“自分は今、生きている”と気をそらすようにしています。すると、なぜか支えてくれている家族や周りの友人に感謝の念が湧いてきて、がんになる前よりも1日1日を大切に過ごすようになりました」
ただし、「眠れない」「何を食べても味がしない」「何をしても楽しいとは感じない」という状況が続くときは、主治医や看護師、サイコオンコロジスト(精神腫瘍科)などに相談してください。カウンセリングや投薬など、気持ちを休ませる工夫を一緒に考えてくれるでしょう。
1)清水研 ほか 監. 国立がん研究センターのこころと苦痛の本 p46-49, 2018, 小学館
2)国立がん研究センターがん対策情報センター 編著. もしも、がんが再発したら [患者必携]本人と家族に伝えたいこと 2020, 英治出版
- 監修:
- 国立がん研究センター東病院 精神腫瘍科
科長 小川 朝生 先生