治療の選択

医療不信
~61歳男性 食道がんの場合~

Hさん:61歳 男性
会社員。食道がんが見つかり、胸腔鏡下食道切除術を勧められる。
妻と二人暮らし。

Hさんは胃の痛みで受診した内科で念のためにと内視鏡検査を受けたところ、偶然、食道がんが見つかりました。精密検査の結果、ステージIIということで、侵襲の少ない胸腔鏡下食道切除術を勧められました。

61歳男性

「医療ミスや医療批判の報道に迷いが生じた」

Hさんが治療の選択肢に悩んでいたちょうどそのとき、内視鏡(胸腔鏡、腹腔鏡)下手術に関する死亡事故の例が報道され、大きな社会問題になりました。

「私も医療事故にあうのでは?と、すっかり不安になってしまいました」(Hさん)。

インターネットや週刊誌でも医療ミスや事件の報道といった医療を批判する記事はよく読まれているようです。これだけ否定的な情報を目にする機会があれば、医療に対する不信感を抱いても不思議ではありません。中には、病院でのがん医療をすべて否定し、民間療法だけを信じる方もいるかもしれません。

ただ、インターネットや週刊誌といったニュース性がある情報はときに極端に省略、一般化され、真実から遠ざかることがあります。また、科学的根拠のない治療法を載せていることもあります。こうした極端な情報や、あるいはほんの少数の経験に基づく情報の中に「あなた自身の病気」と合致した良質な情報が含まれていることは少なく、そのような情報を信じた結果、治療に悪影響を及ぼす恐れがあります。

一方、あなたの主治医は、あなたの全身状態や年齢、これまでの生活習慣や病歴などを理解したうえで、科学的根拠のあるデータを用いて「あなたに最適と考える提案」を行ってくれるので信頼できる情報源です。

場合によってはセカンドオピニオンも受けましょう

確かに主治医自身がよく使う治療法を勧める傾向はあるかもしれません。もし、提案されている治療法に納得できないときは、率直に「別の方法はないでしょうか」と質問をしてみましょう。正直に「あの報道(情報)が気になっている」と話をしてもよいでしょう。ほかの治療法を提案、もしくは納得のいく説明をしてくれるでしょう。

また、別の医師の意見も聞きたい場合は、その旨を伝えてセカンドオピニオンを受けるための資料を揃えてもらいましょう。主治医に内緒で受ける方もいますが、これまでの検査資料があった方が的確なセカンドオピニオンを受けることができます。

セカンドオピニオンを申し出ることで、医師から嫌われないか不安に思う方もいるかもしれません。しかし、納得がいかない気持ちを抱えたまま治療を受けると、後悔することになりかねませんし、がん治療医のほとんどはセカンドオピニオンの申し出に誠実に対応します。いずれにしても、あなたの納得のいく治療を受けるために、勇気を出して「こうしたい」という希望を打ち明けてみてください。

セカンドオピニオン
監修:
埼玉医科大学国際医療センター 包括的がんセンター 精神腫瘍科
教授 大西 秀樹 先生

(2023年4月作成)

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