~医師が答えるAYA世代・働く世代の相談室~
仕事のお悩み編

AYA世代とは、15歳~39歳の思春期・若年成人世代のことをさします。

変に気を使われるので、職場でがんと言いたくありません。
周囲にどのように伝えるのがよいでしょうか?

女性のイラスト

復職したら、部署が異動になっていました。
前の部署で働きたいのですが、会社にどのように伝えたらよいでしょうか?

男性のイラスト

すぐに入院することになりました。
引き継ぎもしておらず、入院を待ってもらいたいのですが…。

男性のイラスト

治療費のこともあって、仕事は続けたほうがよいと思っています。
いつまで会社にいられますか?

女性のイラスト

同僚に陰口を言われています(○○していたからがんになったのよ など)。
反論したほうがよいでしょうか?

男性のイラスト

仕事は、経済面のみならず、生きがいの面でもとても大切なものです。

支援体制なども含めてお答えします。

お医者さんのイラスト

がんと診断されたとき、社会人の患者さんは「仕事をどうするのか」という問題に直面します。仕事を辞めるという選択もある一方で、経済的な問題から、また、やりがいの面で、仕事を続けたいという人も多くおられます。現在では、がんの患者さんの就労支援も行われるようになり、多くの患者さんが仕事と治療を両立できるようになりました。そんな職場でよくあるお悩みについて、がん研有明病院患者・家族支援部長の高野利実さんに答えてもらいました。

自分の希望を率直に伝えよう

日本人の2人に1人ががんになる時代といわれているように1)、誰もががんになる可能性がありますし、2019年の調査では、約45万人のがん患者さんが、仕事をしながら治療を続けています2)。しかし、会社ではがんを隠している患者さんも多いようです。日本の社会では、がん患者というだけで、差別されたり、特別な目で見られたりすることがあり、「自分らしく働く」ことの障壁になっているようです。

仕事と治療の両立のためには、通院や入院に伴う休業や、体調の変化に対する周囲の人たちの理解が不可欠です。患者さんの側から、周囲に理解を求めるのは楽ではないでしょうが、上司や同僚に、「これまでと同じように普通に接してほしい」「体調が悪いときや通院が必要なときには配慮してほしい」といった希望を率直に伝えてみるのがよいように思います。

仕事と治療を両立するための支援体制づくりが進んでいる

そうした中、がんについて正しく知り、がん患者さんへの理解を深め、がん患者さんが働きやすいような体制づくりに取り組む企業も増えてきました。厚生労働省の委託事業である「がん対策推進企業アクション」 にも全国の企業が参加し、がんになっても働き続けられる環境をつくっていこうという機運が高まっています。現在では、がん患者さんの仕事と治療を両立する支援策として、かかりつけの医療機関、勤め先の企業、そして、患者さんに寄り添い仲介・調整の役割をする「両立支援コーディネーター」が三位一体となって、連携しながら患者さんを支援する「トライアングル型サポート体制」も構築されつつあります。

自分の人生にとって、優先順位が低いと思えば仕事を辞める選択もありますが、すぐに決めずによく考えてみましょう。今は、治療しながら働き続けられる体制づくりが進んでいますので、がんと診断されたり、がん治療中に仕事上の悩みが生じたりしたら、かかりつけの医療機関(担当医、医療ソーシャルワーカーなど)や勤め先企業(上司、産業医、人事労務担当者など)に相談しましょう。

両立支援コーディネーターとは、仕事と治療の両立に向けて、患者さんを中心に医療機関と企業との間で情報を共有し、コミュニケーションが円滑に行われるよう支援する者を指します。

がん相談支援センターを積極的に活用しよう

また、仕事に関する悩みは、「がん相談支援センター」にも相談することができます。全国のがん診療連携拠点病院に設置されているがん相談支援センターは、その病院にかかっていない患者さんでも相談できますので、積極的に活用しましょう。「仕事を辞めてしまうと経済的に不安」「健康保険はどうなるのか」といったお金の悩みも相談することができます。

悩みをどこにも相談しないまま、仕事をあきらめてしまった人も多くいると聞きますので、悩んだら、すぐに辞めてしまうのではなく、まずは、きちんと相談しましょう。がん相談支援センターでは、どのような悩みにも耳を傾け、対応してくれます。

誤解が生じないよう、職場とコミュニケーションをとろう

がんという病気に過剰なイメージを持つ人は多く、がん患者さんが職場に復帰後、希望していなくても、異動になってしまうこともあるようです。会社側の配慮もあるのでしょうが、がんにまつわるイメージで判断するのではなく、本人の希望に沿う形で調整してほしいものです。「もともといた部署で、これまで通り働きたい」「この点には配慮してほしい」といった希望を具体的に伝えるとよいと思います。

コロナ禍以降リモートワークが普及したことから、働き方の選択肢も増え、がん患者さんも仕事を続けやすくなったと思います。これを追い風にして、自分のやりたいことを積極的に伝えてもよいのではないでしょうか。がんになっても自分らしく働くことは可能ですし、その姿は、職場の皆さんにもいい影響を与えるはずです。

監修:
がん研有明病院 院長補佐 乳腺内科部長
患者・家族支援部長
高野 利実

(2023年3月作成)
(2024年7月更新)