再発後の治療

精神的な苦痛への対処
~72歳男性 胆道がんの再発の場合~

QQさん:72歳 男性 胆道がんの再発
7つ年下の妻と二人暮らし。遠方に娘、息子夫婦がいる。

数ヵ月前に再発がわかり薬物療法で治療をしていたところ、痛みと黄疸(おうだん)が現れたため、緩和ケア(痛みの治療)とドレナージ(胆汁を排出すること)を受けるために入院しました。

72歳男性

「エンディングノートを書いて、気持ちが落ち着きました」

「痛みで思うように身体も動かないし体力も落ちてきました。家族にも迷惑をかけてしまって申し訳ないし、“こんなにつらい思いをするなら死にたい”と主治医に訴えたこともありました」(QQさん)。幸い、緩和ケアによって痛みをうまくコントロールできたQQさんは今後のことを考える余裕が生まれたので、妻や子供たちが困らないように生命保険の手続き方法や金融資産のリスト、友人、知人の連絡帳などを記したエンディング(終活)ノートを作り始めました。

「家内はこういうことには疎いから書き残しておかないとね。家族へのメッセージも書いたからか、不思議と自分の気持ちも落ち着いていきました」(QQさん)。お見舞いに来た奥さまがノートを見つけ、「縁起でもない!」と怒ったそうですが、いつの間にか二人で一緒に歩いてきた人生について話すようになりました。奥さまは「こんなにあなたと思い出を語ったのは初めてね」と嬉しそうに笑っていたとのことです。

※終活をする中でこれまでの人生を振り返り、「遺された家族へのメッセージ」や「自分の死後における様々な手続きを行う際に必要な情報」をまとめて残しておくことを目的に作成する備忘録のことです(注意点として、正式な遺言書のような法的効力はありません)。

苦痛があるときは、サイコオンコロジストに話しましょう

「なぜこんなに苦しまなくてはいけないのか」「自分の人生は何だったのか」「何をしたらよいのかわからない」といった受け入れがたい生命の危機などに直面した人が感じる苦痛を「スピリチュアルペイン」といいます。将来(未来)の時間や希望が失われ、子供の頃から家族や友人、知人と結んできた関係性が失われ、周りに迷惑をかけてまで生きる意味があるのだろうか──、こうした言葉は、魂の痛みの現れでしょう。

家族や介護者、医療者などに迷惑をかけているという苦痛は、日本人らしいスピリチュアルペインなのかもしれませんが、ときには「何の役にも立たない自分は生きていても仕方がない」とまで思い詰めてしまうこともあります。

確かに、自分でできることが少なくなってきて、大切に育んできた「私の物語」に終止符が打たれる予感はとてもつらく苦しいものであり、喪失感や無価値感に襲われ、絶望的になっても不思議はないでしょう。

しかし、大切な家族に迷惑をかけたくないと心の底から願い、自分という存在が失われた後も家族に安寧であってほしいと祈るあなたは無価値でしょうか。あなたと今、嬉しそうに話す家族や友人、知人にとってあなたの存在は意味のないものでしょうか。

難しいかもしれませんが、自分の心身だけに焦点を当てるのではなく、あなたにつながる大切な人たちとの関係性の中で見えてくる価値──「人生のパートナー」「大切な父親」「やさしいおじいちゃん」「笑い合える友人」といった存在に意味を見い出すことで、これからの日々を意欲的に過ごす気持ちが生まれてくるかもしれません。

そうはいっても乗り越えるのが難しい瞬間はあると思います。そんなときはサイコオンコロジスト(精神腫瘍医や心理士など)や緩和ケアチーム、看護師、医師などで打ち明けやすい人に話しましょう。扉はいつでも開いています。

QQさんは、「痛みもないし、気持ちも落ち着いた。でも、たまにすごい孤独を感じるんです。話したら随分と楽になりました。不思議ですね」と言っていました。

話すだけでも楽になる
監修:
大阪国際がんセンター 心療・緩和科(精神腫瘍科)
部長 和田 信 先生

(2024年3月作成)

精神的な苦痛への対処