補完代替療法には、治癒よりも精神的な希望を求める方が多いようです
がん患者さんご本人やご家族は、漢方や鍼灸などの伝統医療から健康食品、心霊療法まで様々な「身体によいもの」「がんが治る何か」をどこかで見たり、勧められたりした経験が一度ならずともあるのではないでしょうか。あるいは、ご本人やご家族がインターネットなどで西洋医学の考え方に依らない治療方法──補完代替療法を探すこともあるでしょう。
がん患者さんの遺族に対して行われた調査では、約半数[回答のあった451名中237名(53%)]が、がんと診断されてからなんらかの補完代替療法を取り入れたとのことでした1)。内容はサプリメントが最多で、そのほか運動やマッサージ・骨格改善、温泉・温熱療法、マインドフルネス・芸術セラピー、食事療法などがありました1)。
補完代替療法の内容とその使用時期1)
さらに、補完代替療法を利用した目的を尋ねたところ、病気の治癒よりも、進行抑制や苦痛の緩和、免疫力向上のほか、精神的な希望になることを期待した割合の方が多い結果でした1)。
“補完代替療法=利用してはいけない”ということではありません
私たちが通常病院で受ける治療は、最新までの研究から得られたデータ(科学的根拠)に基づいた、理にかなった医療です。
一方、補完代替療法と呼ばれるサプリメントや健康食品、漢方薬、鍼灸、ハーブ療法などは、一般的な病院で受ける医療からは外れたものを指し、がん治療を補ったり、その代わりに行う医療だったりを意味します。残念ですがこれまでのところ、補完代替療法にがんの治癒や再発・進行を抑えるとした科学的根拠はありません2)。
ただし、科学的根拠がない=利用すべきではない、ということではありません。鍼灸やマッサージ、運動、あるいは栄養を補うための健康食品やサプリメントなどは、患者さんの生活面や精神面をサポートすると考えられており、近年、これらの補完代替療法と病院で受ける医療(西洋医学=標準治療)と組み合わせた「統合医療」という概念が生まれました。つまり、西洋医学の治療効果だけでなく、患者さんのQOL(生活の質)も改善しようというものです。
補完代替療法の懸念点として、「健康被害」と「高額な治療費」の2つがあげられます
補完代替療法の懸念点として、①健康被害と、②高額な治療費の2つがあげられます。
①の健康被害については、直接的な影響と治療に及ぼす悪い影響のほか、補完代替療法に期待するあまり、病院の医療を受けなくなってしまう「治療機会の喪失」があります。
特にサプリメントや健康食品は、「天然・自然・食べ物だから悪い影響はなく、どれだけ摂取しても大丈夫」とうたうケースが多いのですが、天然・自然・食べ物=安全・安心ではありません。なかには健康被害が報告されているものもありますし、サプリメントの成分が抗がん剤の効き目を弱めたり、逆に強めてしまったりして、抗がん剤の副作用を強め、治療が継続できなくなってしまうことも考えられます。そのため、服用する前に主治医に必ず相談してください。
さらに、「治療機会の喪失」にも注意が必要です。残念ですが世の中には自分が推奨する補完代替療法を受けさせるために「抗がん剤は毒です」など、患者さんやご家族の不安につけこみ、標準治療を否定する自薦他薦の“治療者”がいます。これを鵜呑みにして標準治療を中断・拒否してしまい、本来、受け取るはずだった治療の恩恵を失うことだけは避けてほしいと思います。手術などの標準治療で治癒するレベルのがんも、治療が遅れて進行すれば治らなくなるからです。
また、②の高額な治療費は、ときに家計を圧迫することがあります。日本では、国民皆保険制度のおかげでもっとも高い効果が確認されている「標準治療」を誰でも平等に比較的安く受けられます。しかし、補完代替療法は月に数万円から、ときには数十万円、数百万円という金額がすべて自己負担になります。そのため、高額な借金を背負ったり、家族の間がぎくしゃくしたりする例もあるようです。
補完代替療法を使用する前に、主治医に相談しましょう
このように、補完代替療法は再発・転移がんと向き合うあなたのよいサポート役になることもあれば、逆に心身や生活を損なうリスクもあります。もし、あなたやご家族が補完代替療法を使おうと考えたときは、使用する前に主治医に相談することを忘れないでください。
「そんな話をしたら怒られる」「見捨てられる」などと尻込みをすることはありません。どうしても主治医に話すことがためらわれる場合は、看護師や緩和ケアチームの医師、場合によってはサプリメントの話として薬剤師に相談するとよいでしょう。
また、なぜ自分は補完代替療法を受けたいのかを、じっくりと考えてみることも大切です。「標準治療だけでは心もとないから」、「よいと言われるものはすべて試したいから」、あるいは「信頼する人が強く勧めてくるから」──。ときには一人で考え込まず、家族や友人といった第三者に自分の気持ちを話すことも大切です。話していくうちに、補完代替療法を含めて今のあなたにとって適切な方法がみえてくると思います。
- 監修:
- 大阪国際がんセンター 心療・緩和科(精神腫瘍科)
部長 和田 信 先生